「友達って どうやって 始めたらいいの??」──本書の裏表紙の言葉に、思わず心を掴まれた。かつての自分もそう考えた時があったし、なんなら今でも少しそう思っている節がある。人間はもしかすると、ずっと誰かとのつながりを求める生き物なのかもしれない。だとすればそれは愛おしくもやっかいな習性で、だからこそ物語の生まれる余地もあるのだろう。
氏岡佐(うじおかたすく)は、見た目で誤解を受けがちな高校1年生。192センチの長身に、幼い頃のケガで負った顔の傷、そして喜怒哀楽がわかりにくい強面もあいまって、中学では「怖い人」だとうわさを立てられた。おかげで友達もできないまま、地元から離れた高校へと進学する。それは一度きりの青春を楽しむための、彼なりの選択だった。
そんな佐は登校中、ぼさぼさ頭の女の子を救う。なぜかバナナの皮で転びかけていた少女は、助けた佐の顔を見るやいなや、おびえた様子で走り去る。やはり自分は高校でも、外見の印象から逃げられないのか──落ち込む気持ちをなんとか切り替え、足を踏み入れたクラスで佐は思いがけない再会を果たす。
本作はマンガ配信サイト「コミックDAYS」で掲載されている。オリジナル作品だけでなく、講談社が刊行しているマンガ雑誌の定期購読も可能なウェブサイトで、アプリでも読むことができる。作品数が多い分、連載作を知るにはマメなチェックが必要だが、怠惰な私は紙の本が出たことで、初めて本作に気づくことができた。パキッとした色合いで描かれた背景が、表紙の二人とタイトル、帯の惹句をも引き立てる。
さて佐は、残念ながら自己紹介でも自分のイメージを払拭できなかった。しかし彼以上に強烈なインパクトを与えたのは、隣の席に座った「バナナの人」。下星崎小鶴(しもほしざきこづる)と名乗った彼女は、「よろしくはできません......すみません......」とあいさつし、落ち込んだ様子で席に着く。その後も何かとテンパり続ける彼女を、クラスメイトはうろんな目で見るが、佐はつい気にかけるようになっていく。
できるなら友達がほしい佐と、できるかぎり人を遠ざけようとする小鶴。接点のなさそうな二人が、ある出来事をきっかけに、友達への一歩を踏み出すシーンがたまらない。互いに「なぜそう思うのか」を言葉にした上で、相手を否定することなく認め合い、伝え合う。そうやって人は人と交わることで、自分でも知らなかった感情に出会うのだ。
読み進めるほどこの二人ならではの展開が続き、吹き出しながらキュンとする。彼らの新たな友情と眩しい青春の行く末を、ほほ笑みながら見守りたい。
『君はおれの優しくない春(1) (ヤンマガKCスペシャル)』
著者:前野 温泉
出版社:講談社
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