竹田恒泰さんの「古墳のお墓」なぜ人気? 「墓じまい」が増える中、280区画が即完売

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2025年09月17日 13:31  ITmedia ビジネスオンライン

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「古墳墓」驚きのこだわりとは? 

 先日、墓地霊園業界の人々がザワザワするニュースが流れてきた。


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 9月10日に販売を開始した「大阪メモリアルパーク」というお墓のプレオープン販売分280区画が、24時間以内に完売したのである。


 この先行販売では、2人用の個別安置埋葬が諸費用込みで120万円のところ100万円に値引きされるなど確かに「お得」ではあるのだが、現地での見学会などもまだ開催していないのだ。驚くべき売れ行きといっていいだろう。


 しかも、このお墓は「古墳」の形をしており、前方後円墳のまわりには高さ30センチの円筒埴輪が291個、ぐるりと並べられている。上部には真鍮(しんちゅう)製の板を設置し、そこに埋葬者の名盤プレートを貼付する設計だ。販売している会社の経営者が、明治天皇の玄孫(やしゃご)である竹田恒泰氏と聞いて二度ビックリした人も多いはずだ。


 竹田氏といえば多くのメディアで活躍している作家として知られる一方、電子マネー発行・交換会社の代表取締役を務めるなど、多くの事業を手掛ける実業家としての顔も持つ。しかし、この会社は創業からまだ1年5カ月しかたっていないのだ。


 そんな「新参者」が仕掛けた「古墳墓」が飛ぶように売れたことに、ショックを受けている同業者も多い。なぜかというと今、「墓不要の時代」といわれているからだ。


 ご存じのように、日本は急速に少子化が進んでいる。しかも、年を追うごとにどんどん減っていく子ども世代の多くは親元を遠く離れて生活し、都市部などで自分で家族を築く。そうなると当然、せっかく立派な墓を建てたところで毎月の掃除はもちろん、年1回のお参りも難しくなっている。


 論より証拠で近くの霊園に行ってみるといい。何年も誰もお参りや掃除をしていないのか、草木がぼうぼうに伸びて荒れ放題になっているお墓があまりに多いことに驚くはずだ。


●「墓じまい」トレンドの中、なぜ古墳墓は売れたのか


 というわけで今、墓を新しく建てるよりも「墓じまい」をする人も増えている。厚生労働省の衛生行政報告例によれば、墓の改葬(墓じまい)は、2021年度の11万8975件から2022年度には15万1076件、2023年度には16万6886件へと増加している。


 かつて人口のボリュームゾーンだった「団塊の世代」が「後期高齢者」に突入したことを機に「体力的にもう墓の管理もできないし、遠くに暮らす子どもたちに押し付けるわけにもいかないし……」と判断したことで続々と「墓」を手放している可能性があるのだ。


 そんな「墓不要」トレンドの中、なぜ竹田恒泰さんの古墳墓はバカ売れしているのか。


 奇しくもこの280区画が完売した翌日、竹田さん本人が日本最大規模の終活ビジネス専門展示会「エンディング産業展」(主催:東京博善)に来場し、「売れる霊園のつくり方」というドンピシャのテーマで講演を行った。


 筆者は会場で拝聴したが、竹田さんの聴衆を引き付ける軽快な語り口とポイントを明確にした分かりやすい説明のおかげで、1時間半の講演はあっという間に感じられた。ひと通りお話をうかがってみて、竹田さんの「古墳墓」がここまでバカ売れしているのは、以下3つの要因があるのではないかと感じた。


(1)本物を忠実に再現した「こだわり」


(2)ユーザー目線にたった「利便性」


(3)日本国民統合の象徴に入るという「満足感」


●いま主流の「お墓」とは


 まず(1)から説明しよう。竹田さんの「古墳墓」は、3世紀後半に出現した巨大な鍵穴型の古墳「前方後円墳」をモチーフにしたもので、内部に遺骨を収められるようになっている。


 公式Webサイトによれば、基本的な埋葬方法は2つ。ひとつめは「永代祭祀墓(えいたいさいしぼ)」。古墳内部は地表から4段目に位置し、1人用区画と、2人用区画がある。その区画を購入して埋葬される。永代使用の期間は20年で、その後は10年ごとに延長できるという。今回、大阪の古墳墓で280区画完売したのはこれだ。


 もうひとつが「合祀墓(ごうしぼ)」。前方後円墳の前方部分の最上段にひとつの大きな区画があり、そこに袋に入れた遺骨を積み上げていく。当然、永代祭祀墓よりも安価に利用できる。また、霊園によっては「地下納骨堂」を設置する古墳墓もあるそうだ。


 さて、このような話を聞くと、「なんだ樹木葬と同じじゃん」と思う人もいるだろう。樹木葬とはシンボルツリーのような大木の根本を区画で分けて遺骨を納めたり、合祀墓として利用したりするもので今、墓の主流だ。


 「終活」関連サービスを提供する鎌倉新書が毎年行っている「お墓の消費者全国実態調査」によれば、同社運営のお墓に関するポータルサイト「いいお墓」経由で2024年の1年間に墓を購入した人の48.5%は「樹木葬」だった。ちなみに、区画で分けられて墓石が建てられた「一般墓」はわずか17.0%である。


 そんな樹木葬の埋葬スタイルと「古墳墓」の考えも基本的には同じようだ。実際、販売サイト「古墳の窓口」にもこのような説明がある。


「樹木葬は西洋式が一般的ですが、日本には日本式の樹木葬があっても良いはず。それが古墳墓です!」


 この古墳墓には、一般的な樹木葬と大きく異なる点がある。それは「細部へのこだわり」が随所にある点だ。まず、この古墳墓、歴史学者とともに本物の前方後円墳を研究して、細部まで忠実に再現しているという。しかも驚くのは、この古墳墓には研究者とともに図面から再現した「三種の神器」まで納められるのだ。


●細部へのこだわり


 言うまでもなく、三種の神器とは剣、勾玉(まがたま)、鏡という天皇家に代々伝えられてきた宝物。今回、竹田さんはこの3つについて、柳本大塚古墳出土の内行花文鏡(ないこうかもんきょう)、黒塚古墳出土の鉄剣、等彌(とみ)神社の勾玉を、図面を基に忠実に復元し、副葬することも古墳墓の「こだわり」のひとつだと説明した。


 さらに古墳墓では、埋葬された方全員の名前を神主が唱える神道形式の御霊祭(みたままつり)が年2回行われるというのだ。「そこまでやってくれるの?」と驚く人も多いはずだ。一般的な樹木葬や墓地でも定期的に「合同慰霊祭」のようなものは開催するが、個々の名前をわざわざ読み上げるようなものは少ないからだ。


 実際、竹田さんも講演で「古墳墓の説明を聞くと、ほとんどの人が“この価格でそんな細かいところまでこだわっているんですか”と驚かれます。でも、質のいいものを安くというのはビジネス全般にかかわることですから」とおっしゃっていた。また、実際に古墳墓の見学会をした際に、購入した人からこんなうれしい言葉ももらったという。


「こんなすごい古墳に入れるんだと思ったら、なんだか死ぬのが楽しみになってきましたよ」


 そんな「こだわり」に加えて、購入者の満足度を高めているのが、(2)の「ユーザー目線に立った『利便性』」だ。


 竹田さんによれば、この古墳墓の購入は98%以上がネット経由。しかも決済方法の5分の4はクレジットカードだという。高齢のためネットに疎(うと)い方もいるが、スタッフが丁寧に説明して最終的にネットでの購入につながったケースもあるそうだ。


 このデジタル化によって、購入側も販売側も、書類をたくさん書いたりチェックしたりするような時間や労力が削減でき、非常に好評だという。


●業界内では「不可能だ」とも言われたが……


 もともとこの分野に参入した際、霊園業界の人々からは「ネットで墓を売るなど不可能だ」と言われたそうだが、このような新しいことにチャレンジして、サービスの質を上げていくことが大事だと竹田さんはおっしゃった。


 そこに加えて筆者が「これはかなりウケそうだな」と感じたのが、「墓を持ち続けること」の不安を解消する利便性である。分かりやすくいえば、「もう無理!」と思った時点で「墓じまい」へと気軽にスイッチできる道を用意してくれているのだ。


 先ほども説明したように、古墳墓には「永代祭祀墓」と「合祀墓」という2つの種類があり、永代祭祀墓は20年が経過すると、費用を払えば延長できるが、払わなくても古墳墓で埋葬され続ける。


「永代期間が経過したら、御骨を同じ古墳内の合祀墓に遷座します。その後、合祀墓は無期限でご使用頂けます」(『古墳の窓口』公式Webサイト)


 これは墓を管理する側、つまり子どもや家族にとって非常にありがたいことである。先ほど申し上げたように、少子化ニッポンでは、親の介護、葬儀、遺品整理、墓の管理というのは非常に重い「負担」だ。それを霊園側が自動的に「墓じまい」してくれる。しかも、どこか別の場所に移動されるわけでもなく、同じ古墳墓の中なのだ。本人はもちろん、墓参りをする側にとっても使い勝手がいいシステムだ。


 ただ、このような利便性の高さもさることながら、やはり古墳墓を購入する人たちの背中を最後に押すのは、(3)の「日本国民統合の象徴に入るという『満足感』」だろう。


●日本人としての誇りを感じるお墓


 竹田さんによれば、前方後円墳ができた3世紀から4世紀にかけて、大きな戦争の痕跡がなく、この時期に小さな国が集まってヤマト王権の礎ができた、というのが歴史学者たちの通説だそうだ。


 そして、畿内(現在の奈良全域、大阪・京都・兵庫の一部)と吉備(現在の岡山)、九州北部という3つのエリアの古墳をつくる技術が結集したのが、前方後円墳だという。


「前方後円墳というのはつまり争いをしていた国が、ひとつにまとまった平和の象徴であり、大和民族の統合の証なんですよ。話し合いで戦争をやめて、このような大きな国にまとまったという例は、世界の歴史を見てもありません」(竹田さんの講演より)


 竹田さんのお話を聞いていると、前方後円墳に入ることが日本人として非常に誇らしいことのような気がするとともに、古墳に対して、さらに学んでみたいという思いがわきあがる。実際、それこそが竹田さんの目指すところでもあるという。


「実は私には裏ミッションがありまして、ただ売り上げを上げるだけではない。古墳の墓を通じて少しでも多くの人に、古代の日本に思いをはせてもらいたい。日本の建国に意識を向けていただきたい、興味をもってもらいたい、こういうことができたらいいなと思っています」


●今後、古墳墓ビジネスへの新規参入は難しい?


 さて、このような素晴らしい話を聞くと、「私も竹田さんが手がけた古墳墓に入りたい!」という愛国心あふれる人も多いはずだ。一方、ビジネスパーソンの中には、竹田さんのサクセスストーリーに刺激を受けて、「日本の伝統文化を広めるためにも、古墳墓ビジネスを始めてみようかな」と思い立った人もいるかもしれない。


 ただ、残念ながらそれは不可能だ。講演の最後、竹田さんは集まった霊園関係者たちにこのようなことをおっしゃったからだ。


「あっ! ひとつ言い忘れてました。アイデアがあるのならちゃんと商標登録したほうがいいですよ。私は古墳に関するものは全て商標登録しています。ですので、古墳のお墓をつくってしまうと商標違反になります」


 そんなことができるのかと驚いたが、確かに「古墳の窓口」を見ると、ページの下に小さな注釈があった。


「古墳」は株式会社前方後円墳の商標または登録商標です。「前方後円墳」は株式会社前方後円墳の商標または登録商標です。


 前方後円墳は「話し合いで争いをやめた日本国民統合の象徴」だが、それはそれ、これはこれ。ビジネスである以上、「みんな仲良くシェア」というワケにはいかなさそうだ。


(窪田順生)



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