全体的に茶色いのはご愛敬「自炊キャンセル界隈」の筆者は、長らく自宅で料理をする習慣がなかった。しかし、毎日外食に2000円も使っていると、さすがに財布がもたない。ついに観念して、カット野菜と豚肉を炒めるだけの、なんとも形容しがたい“謎の野菜炒め”を作り始めた。
それ以来、ほぼ毎日のようにスーパーに通うようになったのだが、改めて感じたのは、物価の高さだ。半年前は「令和の米騒動」とも言われた米価の高騰も、5キロで3500円程度まで下がったことで一応の決着がついたかに見えるが、実感としては依然として「高い」と感じる。
◆まだ「おかわり無料」を継続するやよい軒
そのため、安いうどんや焼きそばを買い込んでしのいでいる。しかし、そればかり食べていると、どうしてもホカホカの白米が食べたくなる。たまにならともかく、謎の野菜炒めとうどんの相性は、正直いまひとつだ。あと、毎回茹でるのが面倒くさい。
自分では米を買えない以上、白米は“外食で補うもの”になっている。そのため、外食するときは、プラス100円でご飯を大盛りにするのが常だ。「ご飯おかわり無料」の店は本当にありがたい。
近年は物価高の影響で、ご飯のおかわり無料を中止する飲食店も増えている中、定食チェーンの「やよい軒」では、そのサービスを積極的に打ち出している。まさに自炊キャンセル界隈にとっての救世主だ。
というわけで今回は、予算2000円で、やよい軒にて白米を“食べられるだけ”食べ尽くしたいと思う。
◆2000円でどれだけ白米を食べられるか?
東京・西側に住んでいると、やよい軒の店舗が意外と少ない。最寄りだと高円寺か中野、あるいは国立。今回は取材の帰りに足を延ばし、下町の三ノ輪店に立ち寄った。普段の生活圏とはまったく違う空気が流れている。
券売機で食券を買い、カウンター席に座る。混雑はしていないが、ホールには店員が3人もいる。「人員が多いな」と感じていると、すぐに理由が分かった。券売機の操作に手間取っていたおじいさんに、店員の1人がつきっきりで対応していたのだ。ああ、なるほど。
さて、今回のテーマは「2000円でどれだけ白米を食べられるか?」。そのための布陣は生姜焼き定食(860円)、豚汁変更(190円)、から揚げ5個(590円)、生卵(70円)、フライドポテト&ウィンナー(290円)で、合計2010円。数十円前後でとやかくいうのは野暮だ。
◆順調なペースで3杯たいらげる
まず、熱々のしょうが焼きと、揚げたてのから揚げやフライドポテトを目の前にして、生卵を割って卵かけご飯で1杯目をスタート。「どれだけ、米を食うか?」という目的がある以上、いきなり、白米でおかずをがっつくのではなく、初手はこれで気持ちを高めていくべきだ。その間に、先ほどのおじいさんが席に案内されていた。
食べ終えたら、白米のおかわりマシンへ。茶碗をセットし、「中盛」ボタンを押すと、ボトボトと白米が落ちてくる。便利だが、どこかディストピア感が漂う……。
2杯目は定番のしょうが焼きとから揚げで攻める。ちなみに、自炊を始めてからは自分でも生姜焼きを作るようになったのだが、やよい軒のそれとは比べものにならない。何が違うのか。タレか、マヨネーズか、付け合わせの野菜か……。
そんな考えているうちにご飯がなくなったので、再び席を立ち、おかわりマシンの中盛ボタンを押す。すると、例のおじいさんにうなぎまぶし定食が運ばれていった。食べ切れるのか?
3杯目もおかずと共に食べる。しょうが焼きは完食していたが、まだから揚げと豚汁、そしてやよい軒名物の漬物がある。漬物は塩味控えめで単体でもつまめるが、白米と合わせるとより進む。白米とから揚げとの相性は言うまでもない。
そして、から揚げを1個残して、再び席を立ち、白米をドボドボ。おじいさんが店員さんに向かって「ご飯をよそってくれ」と言っている。おかわりしてるの……!?
◆「出汁に浸した白米」のお供は…
おじいさんに気を取られつつ、4杯目は趣向を変えて、出汁をかけてお茶漬け風にする。やよい軒ではコロナ禍以降、出汁もおかわり自由になった。これにより、お客さんのご飯おかわり回数が1回プラスされた。
お茶漬けの要領で出汁に浸した白米をさらさらと流し込む。しかし、ここまで濃い味のおかずを食べてきたせいで、出汁ご飯だけではやや物足りなくなり……。そこで、フライドポテト&ウィンナーの登場だ。
別に出汁に浸けるわけではない。さすがに、筆者もそこまでの玄人ではない。フライドポテトのカリカリとした食感を楽しみつつ、箸休め的に出汁ご飯をすするのだ。これはこれで、日本とアメリカ、両方の食文化を冒涜している気分になるが、ここでは俺が法律だ。
◆やよい軒はコメント欄を閉鎖するべき
しかし、32歳で米を4杯も食べられたのだから、とどまることを知らない自分の食欲が恐ろしくなる。
そう思っていると背後からまた「ご飯をよそってくれ」と店員を呼ぶおじいさんの声が……。まさかの3杯目。どうやら、白米大食い選手権の相手は自分だけではなかったようだ。お前がナンバーワンだ。
もはや腹を空かせた民の「福祉」として機能しているやよい軒。一点だけ苦言を呈すなら、やよい軒の公式サイト。各メニューに☆5つ評価のレビューがついているのだが、「肉の少なさよ、ダイエット向けですかね?」「今のままだと安い以外にメリットがない」など、マイナスレビューが上位表示されていて悲しくなる。さっさと、コメント欄を閉鎖したほうが良い。
【今回の摂取カロリー:2633kcal】
<TEXT/千駄木雄大>
【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある