バートン・ハナ(BigBoss W TOM'S KYOJO KC-MG01) 女性限定フォーミュラカーレースが開幕し、大きな転換点を迎えた新生KYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーたちの素顔を探るべく、2025年シリーズ第3戦の富士スピードウェイにて、総フォロワー数69万人越えのインフルエンサーとしても活躍するバートン・ハナ(BigBoss W TOM'S KYOJO KC-MG01)に、自身のルーツや今後の目標などを聞いた。
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⎯⎯まずは2024年のKYOJO CUPシリーズと、開幕2戦を振り返った感想を教えてください。
バートン・ハナ(以下、バートン): VITAはドライビングスキルのレベルアップに適したクルマだと思うので、2024年のKYOJO CUPは全体的にレベルが高かったように感じました。だからこそ、今シーズンに向けた良い準備期間になったと思います。今季の開幕戦の予選では2番手タイムを記録したのですが、自信がないままレースを迎えてポジションを落としてしまいました。第2戦も3番グリッドからスタートしましたが、接触でフロントウイングを破損してリタイアとなってしまいました。良い経験にはなりましたが、結果を残すことはまだできていません。
⎯⎯これまでにフォーミュラカーに乗られたご経験はありますか。
バートン: 初めてフォーミュラカーに乗ったのはVITAに乗るために来日したときで、私の前にVITAに乗っていたドライバーがマシンを壊してしまったため、初めての富士スピードウェイで急遽FIA-F4に乗ることになりました。当時の天気は大雨でしたし、マシンを壊したときの費用が頭をよぎったので全力で走ることはできませんでした(笑)。その後もフォーミュラに乗る機会は何度かありましたが、フルシーズンエントリーは今季のKYOJO CUPが初めてです。
⎯⎯ご自身のモータスポーツのルーツについて教えてください。最初にレースを始めたきっかけはどのようなものでしたか。
バートン:動画編集や写真撮影、SNSの運用が得意だったため、エッチ・ケー・エス(HKS)のアメリカ支店に入社してマークティングを担当していたのですが、パーツ開発のためにテストコースでデモカーを走らせる機会がありました。時間が余っているときにデモカーに乗ってみたところ、とても楽しかったので自分でデモカーを購入し、トレーラーに乗せてサーキットに行くようになったことがモータースポーツを始めたきっかけです。
⎯⎯ご出身はアメリカのカリフォルニア州とのことですが、戦いの場として日本を選ばれた理由を教えてください。
バートン: 日本のモータースポーツ業界はアメリカに比べて費用がかりませんし、サポートをしてくれる方がたくさんいるため、モータースポーツを始めたタイミングが遅いドライバーでもレースに出場しやすいと思いました。私の母は日本人なので、少しですが日本語を理解することができたこともあり、日本でレース活動をすることを決めました。来日後はTOYOTA GAZOO Racingヤリスカップ2022の東日本シリーズに参戦したのですが、そこで翁長実希選手と出会い、KYOJO CUPや関谷(正徳/KYOJO CUPオーガナイザー)さんのことを教えて頂き、KYOJO CUPに出場することが決まりました。
⎯⎯日本で四輪キャリアをスタートさせた後、最初に直面した課題はどのようなものでしたか。
バートン:現在の課題でもあるのですが、自分の走りに自信が持てないことがレースでの課題だったように思います。その他の部分では、コミュニケーションや人間関係について悩んでいた時期がありました。アメリカでは誰もが自分の意見を第一に考えるため、会話のなかで相手を気遣うことは少なかったのですが、日本ではそういったコミュニケーションスタイルを快く思わない方もいらっしゃるかと思います。私は少しだけ日本語を話すことができたため、周囲の方は私を日本人のように扱ってくれるのですが、日本とアメリカの文化の違いになかなか慣れることができず、とても苦労しました。ですが、多くの人と関わり、さまざまなことを相談して理解を深めることで、徐々に課題を解決することができました。
⎯⎯悩みながらも試行錯誤を繰り返し、文化の違いを乗り越えられたのですね。現在、KYOJO CUP以外に出場しているカテゴリーはありますか。
バートン:今シーズンは、FCR-VITAの開幕戦やスーパー耐久シリーズの富士24時間レースにスポット参戦しました。それと、私自身がレースに出場するわけではないのですが、VITAのレーシングチームも作り、今大会のKYOJO CUPと併催されるFCR-VITA第3戦にオーストラリア出身のジュリー・ポルテリーという16歳の女性ドライバーが参戦しています!
⎯⎯ご自身でレーシングチームを作られたのですか。チームを作ったきっかけはどのようなものでしたか。
バートン:私はモータースポーツを25歳で始めたので『もっと早くレースを始めていれば、さらに速く走ることができたかもしれない』と思うことが時々あります。だからこそ、より多くの人々にモータースポーツの魅力を伝えたく、『Circuit Orange』という子ども向けのコミックを作るプロジェクトを昨年から始め、その活動の一環としてレーシングチームを作りました。
イチからモータースポーツを始めたときは、自分がレースに出場できるとは思っていませんでしたし、金銭的な問題がありながらもレース活動ができているのは周囲のサポートのおかげでもあります。そのため、今後はプロジェクトのオリジナルグッズ制作などで売り上げを作り、コミックを通じてレースに興味を持ってくれた子どもたちのモータースポーツ活動を支援することが取り組みの目標です。
⎯⎯先ほど職業のお話が出ましたが、現在もHKSでお仕事をされているのでしょうか。
バートン:今はロサンゼルスにあるマネジメント会社に所属しており、インフルエンサーをやっています。先日、そのマネジメント会社に映画『F1/エフワン』のワールドプレミアの招待状が届いたので、ワールドプレミアに参加させて頂きました! 招待されて嬉しい気持ちがある反面『どうして私はこんな凄い場所にいるのだろう』という不思議な気持ちにもなりました(笑)。
先週はセブン-イレブンの仕事を頂いて一日だけアメリカに行きましたし、先月は『F1/エフワン』のパートナーをしているケンタッキーフライドチキンの仕事もしました。私をSNSで見てくださる方の多くはクルマが好きなので、コンテンツを作るときはクルマやモータースポーツの要素を入れるように意識しています。
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⎯⎯戦略を立ててお仕事をされているのですね。休日は日本と海外、どちらで過ごされることが多いのでしょうか。
バートン:海外に行くのはインフルエンサーの仕事をするときだけで、その他の時間は日本で過ごしています。私は昔から動物が好きで、8歳くらいまで乗馬をしていました。乗馬に関しても日本の方が費用が安いため、ひさしぶりに乗馬に行きたいのですが、現在はチームのお手伝いをしているので休日がほとんどなく、残念ながら乗馬の様子をSNSにポストする機会はしばらく先になりそうです(笑)。
⎯⎯動物といえば、バートン選手は犬を飼われていらっしゃいますよね。
バートン:ロメオという名前の、大きくてかわいい犬を飼っています。アメリカでは犬をサーキットに連れて行くことができたので、常に一緒にいたのですが、日本に連れてくることはさすがにできなかったため、実家を離れたときはとても悲しかったです。『Circuit Orange』の話に戻ってしまいますが、コミックにはロメオも登場するので、みなさんにもぜひ観てほしいです!
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⎯⎯もし、バートン選手がモータースポーツに出会っていなかったら、どんな人生を歩まれていたと思いますか。
バートン:まったく想像がつきません。父に「未来はAIの時代だ」と言われ、大学では脳科学や心理学などを学びましたが当時はやりたいことが定まっておらず、実を言うと自動車業界に入る前の人生はとても落ち込んでいました。しかし、クルマが好きになってからは『サーキットを走りたい』という気持ちが自然に沸き、どうすればレース活動をすることができるか日々考えた結果、スポンサーを集めるためにインフルエンサーの活動を始めるに至ったため、レースがなければ今の私はなかったと思います。
⎯⎯HKSに入社したことで人生が一変したのですね。モータースポーツのキャリアにおいて、今後の目標はありますか。
バートン:以前はフォーミュラレースに出場したい気持ちが強かったのですが、年齢を考えると現実的ではありませんし、VITAの荷重移動が好きだったため、今後は箱車のレースに行くべきだと思っています。ただ、スキルアップにはフォーミュラが最適なので、可能な限りフォーミュラに乗って経験を積み、基礎部分のレベルを引き上げてから箱車のレースに参戦しようと考えています。
角田裕毅選手など、速いドライバーたちはフォーミュラ・ビート(旧JAF-F4)で結果を残していますし、フォーミュラ・ビートのマシンは速いですがグリップがそれほど高くなく、運転がとても面白いのでフォーミュラ・ビートへの参戦が現在の目標です。もしくは、フォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップ(FRJ)を目指すのも良いかもしれません。その後はGTワールドチャレンジ・アジアのジャパンカップや、スーパー耐久シリーズを目標に活動し、現実的な考えではありませんがスーパーGTにもチャレンジしたいです。
⎯⎯最後に、今シーズンの意気込みをお願いいたします。
バートン:おそらく、どのドライバーも同じだと思うのですが、私も表彰台に乗ることが目標です。前回大会ではミスがなければ表彰台を獲得できていたかもしれませんし、自身の走りが未熟であることを自覚しているため焦りはありません。次戦も自分のベストが尽くせるように頑張りたいと思います。
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インタビューの翌日に行われた公式予選では10番手タイムを記録し、続くスプリントレースを12位、ファイナルレースを14位で終えたバートン。開幕以来、公式予選では10番手以内のタイムを記録しているバートンだが、走りに自信が持てないという課題点を克服し、目標である表彰台を掴むことができるのだろうか。『Circuit Orange』での活動もあわせ、今後のバートンの活躍に注目したい。
⚫︎Profile バートン・ハナ(Burton Hana)
1997年5月21日生まれ、アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。2022年のTGRヤリスカップで四輪デビューを果たすと同時に日本でのレース活動を開始し、翌2023年よりKYOJO CUPに参戦。3年目のシーズンとなる2025年はBigBoss W TEAM TOM'Sからエントリーし、第3戦終了時点でのドライバーズランキングは11位となっている。
https://twitter.com/hanubuu/status/1953479671758422064
[オートスポーツweb 2025年10月08日]