限定公開( 5 )
2024年頃から、クレープ専門店が続々と開業している。1970年代後半、2000年代のブームに続く「第3次クレープブーム」とも呼ばれ、Z世代を中心にクレープを好む人が増えているようだ。
クレープとタピオカの専門店「GelaFru(ジェラフル)」を約40店舗展開するジェラフル社(東京都品川区)の吉田達二郎社長は、「タピオカブームと比較すると爆発力はないが、近年の需要拡大は感じている」と話す。ここ2〜3年で開業した店舗は、いずれも想定の1.5〜2倍の売り上げを記録しているという。
ルームウェアブランド「gelato pique(ジェラート ピケ)」から派生して誕生し、クレープをメインで扱うカフェ「GELATO PIQUE CAFE(ジェラートピケカフェ)」でも、「自社の取り組みの成果が大きいが、ブームの後押しもあると感じる」(マッシュフードラボ ジェラート ピケ カフェPR担当)とのこと。
第3次ブームを牽引しているのが、クレープ生地にバターを塗り、砂糖をまぶしたシンプルな「シュガーバター」だ。ジェラートピケカフェでは、「バターとお砂糖のクレープ」(690円)がダントツで一番人気だという。
|
|
ジェラフル社と、ジェラートピケカフェを運営するマッシュフードラボ(東京都千代田区)に、差別化戦略やクレープブームの反響を聞いた。
●主流はリバイバルの“パリパリ”
令和のクレープ人気は、コロナ禍のテークアウト需要や、コロナ禍明けの“食べ歩き”の復活が背景にあるという。加えて、参入企業が増えたことによる商品バリエーションの多様化やSNSとの相性の良さもブームを盛り上げている一因のようだ。
近年、特に人気が高いのが具のないクレープ「シュガーバター」で、多くのクレープ店で同メニューが販売されているほか、シュガーバタークレープ専門店も登場している。さらに、令和のクレープ人気にはもう一つ特徴があり、「パリパリ食感」を押し出すクレープ店が目立つ。
例えば、人気ブランド「パンとエスプレッソと」などを運営する日と々と社(ひとびと、東京都渋谷区)の新業態「クレープとエスプレッソと」も、その一例だ。同店の看板メニューが、まさにパリパリ、サクサクの食感が楽しめるクレープだ。2024年3月に表参道に1号店をオープンし、現在は7店舗まで拡大している(2025年10月初旬時点、公式Webサイト参照)。
|
|
同社では、Instagram159万人、TikTok190万人のフォロワーを持つバズグルメクリエイター「ウルフ」と協業し、1年半をかけてオリジナルの生地を開発したという。
ジェラフルの吉田社長は、いまのトレンドをどのように見ているのか。
「近年は、生地が薄くてパリパリとしたクレープが主流になっています。実は、私が起業した2004年当時も、クレープは薄皮パリパリがブームでした。そこで、ジェラフルは正反対の“もちもち食感”をウリにして、20年以上展開してきました。いまのパリパリブームは、ファッションのように過去のトレンドが回帰したものだろうと」
●「ジェラフル」はフードコート出店で拡大
吉田社長によると、令和のクレープはパリパリが主流である一方、もちもち食感も根強い人気があり、二極化しているとのこと。「たい焼きの皮もパリパリともちもちのどちらもあります。それと同じことがクレープでも起きています」
|
|
Instagramで「#クレープ」と検索すると、202万件の投稿があり、吉田社長が言うように、「パリパリ」と「もちもち」はどちらもキーワードとして見られる。
“もちもち”をウリにするジェラフルは、ベッドタウンのフードコートへ出店を重ね、事業を拡大している。都心に出店していないこともあり、いまのクレープブームの影響は大きくないが、安定的に収益を上げているという。
ジェラフルのクレープの価格は地域によって異なるが、400〜700円台が多く、都心の人気クレープ店と比較すると半額程度。学生やニューファミリー層がメイン顧客で、タピオカドリンクとのセット購入も多いという。
「売上構成比は7:3ぐらいでクレープが多いのですが、タピオカドリンクも比較的売れています。タピオカブームは終わりましたが、ブーム以前と比較するとブームが去った後のほうが売り上げが上がっているので、認知が上がって定番化したのだろうと思います」(ジェラフル社 吉田社長)
ジェラフルはトレンドに乗ってもうけを狙う都心店とは異なり、「ホームランを狙わず、ヒットを打ち続ける」方針を掲げているそうだ。
「ちまたでは『クレープブーム』と言われていますが、私の認識ではクレープは『国民食』です。『ラーメン』や『寿司』と同じような定番人気の食カテゴリーだろうと。当社は、天気に左右されずに集客できるフードコートのメリットを生かして、フランチャイズで店舗を広げてきました。期間限定メニューなどリピーターの方にも飽きられないような施策は打っているものの、いずれ終わる流行りはつくらない方針です」(ジェラフル社 吉田社長)
●「ジェラートピケカフェ」は”本場フランス”を再現
全国のショッピングモールやアウトレットで展開する「ジェラートピケカフェ」は、流行りの“パリパリ”と定番人気の“もちもち”を、どちらも兼ね備えた「本場フレンチスタイル」のクレープで人気を集める。外はパリパリ、食べ進めるともちもちに変化する食感が特徴だ。
元々は、さまざまなコンフォートフード(家庭的で親しみやすい料理)を提供するカフェとして2013年に開業したが、数年前からメニューをクレープ、ガレット、ジェラート、ドリンクに集約。看板メニューの「バターとお砂糖のクレープ」は、10年以上前から高い人気を誇るという。
「2025年8月に、本場フランスのクレープをより意識したグランドメニューにリニューアルしました。クレープはフランス産の高品質な発酵バターと小麦を使用し、ガレットは、そば粉の生地を使用して本格的な味わいを提供しています。ブランドコンセプトである『大人のデザート』を表現するメニューをそろえています」(マッシュフードラボ ジェラート ピケ カフェPR担当)
グランドメニューは、国内で定番の生クリームを使ったクレープとはイメージが異なり、「ベリーマスカルポーネクレープ」(1140円)や「バターと黒トリュフのクレープ」(1480円)なども。
「幅広い方をターゲットにしていますが、最も多いのは20〜30代前半の女性です。一方で、アウトレットの店舗は外国人の方や家族連れまで多様ですね。月イチで実施しているフェアによっても客層は変わり、例えば、8月7日〜9月3日に実施した『ドラえもん』とのコラボでは、より幅広い老若男女のお客さまが来店され、SNSでの拡散も広範囲に及びました」(マッシュフードラボ ジェラート ピケ カフェPR担当)
都心から地方都市まで国内外に26店舗を展開する同社では、ブームを通じて、どんな影響があったのか。
「ここ1〜2年は商業施設などから出店のお話が多くあり、売り上げに関しては2025年以降、顕著に伸びています。その背景にクレープブームの影響がありそうです。ただ、売り上げが伸びている要因として、月イチのフェアをはじめ、自社のメニュー開発やプロモーションの成果が大きいと捉えています」(マッシュフードラボ ジェラート ピケ カフェPR担当)
同社でもジェラフル社同様、ブーム時に一気にギアを上げるのではなく、着実に伸ばしていく方針だ。「クレープは長く好まれる定番スイーツだと認識している。自社の得意分野を生かして、他社にはない特別感を提供したい」と担当者は締めくくった。
●「ミルクレープ」も人気復活
20年以上にわたりクレープビジネスを展開し、タピオカブームも経験している吉田社長に、クレープブームの今後を聞いた。
「タピオカブームと似た展開になるのだろうなと思います。都心に出店した店舗は、淘汰されていくでしょうね。また、『ラーメン』の『家系』や『二郎系』のように、クレープも各社が個性を突き詰めていくのだろうと」(ジェラフル社 吉田社長)
クレープの関連トレンドでいうと、「ミルクレープ」も2025年の注目スイーツの一つと言われている。例えば、2024年5月に世田谷豪徳寺に開業したパティシエクレープ専門店「EQUALLY(イクアリー)」では、高級感のあるクレープやガレットだけでなく、パティシエこだわりのミルクレープも話題だ。
クレープをウリにするカフェ「Afternoon Tea LOVE&TABLE(アフタヌーンティー・ラブアンドテーブル)」でも最近、ミルクレープが好評だという。期間限定・各日数量限定のメニューも多数展開し、ドリンク付きで2000円前後と値は張るが、若年女性から高い人気を誇る。タピオカ粉を使ったもちもち食感と、フルーツなどの具材を華やかに盛り付けた映える見栄えが特徴だ。
クレープもミルクレープもリバイバルブームとして注目され、現代風のアレンジが加わるなど多様化する同様の流れをたどっている。進化系スイーツとして人気が広がった後、定番化するのかもしれない。
(小林香織、フリーランスライター)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。