婚礼業界は「もはや儲からないビジネス」に。10万件以上の結婚式が“失われる”なか、単価400万円台に引き上げる大手の戦略

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2025年10月16日 09:20  日刊SPA!

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 コロナ禍を経て結婚式場を取り巻く環境は激変しました。結婚式を挙げる人の数が減少していることに加え、小人数の結婚式が主流になったために婚礼単価も下がっているのです。
 一方で結婚式場の数は多く、激しい競争を繰り広げている業界でもあります。運営会社の明暗も分かれてきました。

◆「結婚式の数」にくわえ、単価も減少

 まず、婚姻数そのものが著しく減少しています。厚生労働省の人口動態統計によると、2019年の婚姻件数は約59万9000件で、2024年は48万5000件。件数は2割減少しました。

 リクルートのブライダル総研「結婚総合意識調査2019」では、カップルの80.7%がウエディングイベントを行っているとの結果が出ていましたが、「結婚総合意識調査2024」では、77.8%に低下しています。2つの調査を婚姻件数に当てはめると、2019年の結婚式の数は48万3000件で、2024年は37万7000件。結婚式の数は10万件以上失われた計算になるのです。

 婚礼単価も減少しました。2019年の全国平均は354万9000円でしたが、2024年は343万9000円。その主要因がゲストの参加人数の縮小です。2019年は平均66.3人が参加していました。2024年は52.0人にまで減っています(「ゼクシィ結婚トレンド調査2024」)。コロナ禍で小人数の結婚式が主流となり、コロナ収束後も小規模婚のトレンドが継続しているのです。

◆「ウエディングドレスを着たい」女性の数も…

 もともと経済的な理由を背景に結婚式を挙げないカップルは一定数存在していました。コロナを経て「しないという選択肢もアリだ」という意識が広がり、結婚式そのものに興味を持たないカップルが増加。そしてインフレによる生活費の高騰で、資金的な余裕は更に失われています。

 また、円高が進行していた時代は新婚旅行を兼ねてハワイやグアムで結婚式を行うカップルも多くいました。しかし、足元では過度な円安が進行しています。渡航費が高くなったことで、海外に行く機運そのものもなくなりました。

「結婚式はしない、やったとしても小規模で」そういう意識がカップルの中に広がっているのでしょう。

 女性の価値観の変化も進みました。マイナビウエディングの「2025年 結婚・結婚式の実態調査」によると、結婚式を挙げる理由で「ウエディングドレスを着たい」との理由を挙げたのは、2023年は36.6%でした。2025年が23.8%。2年ほどで13ポイント近く下げているのです。「あこがれていたから」は2025年がわずか19.8%であり、12ポイント下がりました。

 結婚式やウエディングドレスは、今やあこがれの対象ではなくなってきているのです。

◆ツカダとテイクアンドギヴ・ニーズは好調

 こうした状況下で好調なのがゲストハウスウエディング「ベストブライダル」で知られるツカダ・グローバルホールディング。2024年度の婚礼事業は増収増益でした。結婚式の取扱件数は9404件で1割減少したものの、婚礼単価が6.8%増加。370万円台から400万円台に引き上げたことが奏功しました。

 ツカダはホテルの強化を図っています。2020年10月に「キンプトン新宿東京」をオープン。ホテルの婚礼部門の運営受託も進めており、「ANAインターコンチネンタルホテル東京」や「ザ ストリングス 博多」、「オリエンタルホテル広島」、「グランドプリンスホテル大阪ベイ」などのブランド力の強いホテルの結婚式を手がけています。

 婚礼業界最大手であるテイクアンドギヴ・ニーズも底堅く推移しています。2024年度は取扱件数が5%減少して9853件となったものの、単価を2.4%引き上げて400万円台に乗せました。2024年度は増収営業減益でしたが、2025年度は増収営業増益を予想しています(テイクアンドギヴ・ニーズは2025年に決算月を3月から12月に移行しており、予想の数字は1年間で比較した場合のもの)。今期の婚礼単価は更なる上昇を計画中です。

◆「受注件数が1000件減少」苦しい状況が続くエスクリ

 やや苦戦しているのが駅前の好立地にビルイン型の結婚式場を展開するエスクリ。2024年度は減収営業減益でした。今期も4%減収、52%もの営業減益を予想しています。

 エスクリも取扱件数が減少しており、2024年度は5204件で、1割減少しました。婚礼単価の開示はしていませんが、ブライダル事業の売上に件数を当てはめて単価を割り出すと、2024年度は400万円を超えています。5.5%増加しました。

 しかし、受注件数の減少が著しく、2025年度は5352件で2割近く下がりました。1000件以上減少したのです。単価の引き上げで取扱件数の縮小をカバーする見込みが立っていないのでしょう。

 厳しい戦いを強いられています。

◆大手結婚式場運営会社が「ホテルへの投資」を急ぐワケ

 結婚式場の口コミサイトで、ツカダとテイクアンドギヴ・ニーズ、そしてエスクリそれぞれの主力結婚式場を確認すると気づくことがあります。それがスタッフに対する評価。ツカダやテイクアンドギヴ・ニーズはスタッフの対応を評価するコメントが多い一方、エスクリは施設や設備、立地への評価が多い印象を受けます。

 例えば、結婚式場の激戦区である表参道にある結婚式場のウエディングパークの口コミでは、「セントグレース大聖堂」(ツカダ・グローバルホールディング)のスタッフの評価は3.9、「表参道TERRACE」(テイクアンドギヴ・ニーズ)は4.1、「シャルマンシーナ TOKYO」(エスクリ)が3.7です。

 同じく激戦区である大宮エリアでは、「大宮璃宮」(ツカダ・グローバルホールディング)が4.0、「ガーデンヒルズ迎賓館」(テイクアンドギヴ・ニーズ)が4.3、「ラグナヴェール スカイテラス」(エスクリ)が3.7。やはりエスクリは評価で後れを取っています。

 コロナ前から紋切型の結婚式からの脱却を目指すべきだとの観点から、カップルの価値観を重視するオリジナルウエディングに注目が集まっていました。そして今、結婚式に魅力を感じていないカップルが増えるなかで、提案力やサービス力の高い人材の重要性が高まっています。

 しかし、ウエディングプランナーは過酷な営業職でもあるため、入れ替わりの激しい職種でもあります。婚礼業界は今まで以上に人材育成に力を入れなければならず、難しいかじ取りを迫られているでしょう。

 ツカダ・グローバルホールディングとテイクアンドギヴ・ニーズの2社は、婚礼からホテル運営への投資を急いでいます。婚礼業界はもはや儲からないビジネスであり、人材のマネジメントを含む経営の難易度が上がりました。大手企業はホテルという成長領域への投資を加速しています。婚礼業界が転換点を迎えているのは間違いありません。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

このニュースに関するつぶやき

  • コロナ禍に結婚したけど、晩婚ってのもあって式やらずに済んだよ�ؤ�OK籍入れた程度で騒ぐ必要はなんもないしな🙄
    • イイネ!10
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