
群馬県はダルマ、福井県は恐竜、佐賀県は気球――。その土地の名物とホテルの建物がデザインされたバッジが話題になっている。
商品名は「ご当地GENKIバッジ」(1個300円)。ホテルチェーン「東横INN」を運営する東横イン(東京都大田区)が2025年4月に発売したもので、最大の特徴は47都道府県を回らないとコンプリートできないこと。
バッジの発表を受けて、SNSでは「集めたい! コレクターの血が騒ぐ。実物を見せてもらったけど、かわいかった」「集めていたら旅の思い出がいっぱいになりそう! 自分の旅行プランにも合いそう。ちょっと集めてみようかな」といったコメントが寄せられている。
販売しているのは各都道府県のバッジのみで、他県のバッジはその地域以外では購入できない。取り寄せもできないので、全種類をそろえるには47都道府県すべてを訪れる必要がある。
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さらに、東横インは海外の5カ国(韓国、フィリピン、モンゴル、ドイツ、フランス)にも展開しているので、合わせると52種類ある。海外店舗のバッジは現地のほかに、国内の空港店でも販売しているが、発売から1カ月ほどで完売した。
他県でも完売が相次いでいることを受け、同社の担当者は「これほど人気が出るなんて、想定外でした。再販希望の声が多く、年内の販売に向けて準備を進めています」とのこと。
それにしても、なぜ東横インは47都道府県を回らなければ制覇できないバッジを発売したのか。開発を担当した、マーケティング部の荻久保美紀さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。
●富士山は何県のものか
土肥: 全国の東横INNで、47都道府県を巡らないとコンプリートできない「ご当地GENKIバッジ」を発売しました。地域の名物とホテルがデザインされていて、例えば、東京は東京タワー、大阪はたこ焼き、山口はふぐが描かれている。
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フロントでは宿泊客以外にも販売していますが、いずれにしてもホテルに行かなければ購入できない仕組みですよね。コンプリートのハードルが高いなあと感じましたが、なぜこのようなバッジを企画したのでしょうか?
荻久保: 開発のきっかけは、2024年4月のこと。東横INNは46都道府県で展開していて、まだオープンしていないのは高知県だけ。高知県での開業が2026年2月に決まったことを受け、新聞広告を出しました。
広告のデザイン案はいくつかあって、その中に「全国各地の名物とホテルの建物を組み合わせたデザイン」がありました。「新聞広告としては、少し用途が合わないかも」といった理由で採用は見送ったのですが、社員から「かわいい」「このまま使わないのはもったいない」などの声がありました。であれば、このデザインをバッジにするのはどうかといった話があったので、企画が動き始めました。
土肥: 北海道はカニ、栃木はイチゴ、鳥取はラクダといったデザインはどのようにして決めたのでしょうか?
荻久保: 「都道府県のモチーフは何にしますか?」というアンケートを社内で実施したところ、700件を超える案が集まりました。基本的には、各都道府県で1位に選ばれたデザインを採用したんですよね。例えば、秋田はなまはげ、青森はねぶたといった具合に。ただ、1位に同じデザインがランクインしたケースがありました。
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静岡県は富士山、山梨県も富士山――。よく「富士山はどちらの県のものか」という論争を耳にしますが、バッジの世界でも同じようなことが起きました。どちらも富士山にするわけにはいかないので、静岡はお茶摘み、山梨は赤ワインにしました。
また、建物など許可が必要と思われるものについては、事前に申請しました。例えば、兵庫は姫路城。デザイン案をお送りしたところ、「天守の数が実際と異なる」という指摘を受けました。バッジは多くの人に親しみやすく見えるようにデフォルメしていましたが、正確性も重視し、指摘に従って修正しました。
●人気のバッジはどれか
土肥: ご当地GENKIバッジは2025年4月に発売しましたが、反響はいかがですか?
荻久保: 社内からは「本当に売れるのか」という声がありました。これまで物販にあまり取り組んでこなかったので、不安に感じる社員も多かったのかもしれません。
発売前、社員に「好きなバッジをひとつ選んでください」とお願いし、それをプレゼントしました。結果、恐竜が描かれている福井のバッジが最も人気がありました。
土肥: 実際には、どのバッジが最も売れているのでしょうか?
荻久保: 単純に比較するのは難しくて。例えば、東京には50店舗ほど、神奈川には30店舗ほどあります。一方、秋田、岐阜、佐賀、和歌山は1店舗ずつ。というわけで、全体の販売数で見ると、店舗数の多い東京が最も売れています。
ただ、細かく見ていくと、売れ行きに違いがありまして。例えば、東京のオフィス街にある店では動きが鈍いのですが、観光地ではものすごく人気なんですよね。あと、各店舗によって台紙の裏に書かれている文言が違うんですよね。
例えば、東京の門前仲町永代橋店では「都心なのに!車でも安心」と記されている。つまり、同じ東京の店でも、A店で売り切れたからといって、在庫が余っているB店のバッジを販売することはできません。
お客さまが「東京のバッジ」を求めているのであれば、B店で購入することも可能です。しかし、その県に店舗が1つしかない場合は、完売すると他の店舗で購入することはできません。こうした状況もあって、「再販売はいつですか?」という問い合わせが多く寄せられています。
繰り返しになりますが、私たちはホテル業を営んでいて、物販の知見はあまりありません。今回、バッジを販売してみて、あらためてメーカーさんの在庫管理はスゴいなあと感じさせられました。
●最後の高知は2026年2月に登場
土肥: ご当地GENKIバッジは国内47種類、海外5種類の計52種類かと思いましたが、東横INNは全国に350店舗ほどある。各店舗の台紙に書かれている文言まで含めると、コンプリートするには350種類ほどになるわけですね。
「コ、コレクターのみなさん、が、がんばって」としか言えないわけですが、販売側として今回のバッジを扱ってみて、想定と違ったことはありましたか?
荻久保: 例えば、同僚が東京へ出張する際に、「東京の東横INNでバッジを買ってきて」と頼む人が多いようですね。あと、ホテルの近所に住んでいる人が購入するケースもありました。ビジネスホテルなので、近所に住んでいる人が利用するケースはあまりないと思うんですよね。わざわざ泊まらなくても、自宅で寝泊まりできるので。
ただ、ビジネスホテルにとって、地元の人に愛されることはものすごく大切なんです。例えば、親戚が遊びに来たものの、自宅に泊まるスペースがない場合、東横INNを選んでもらえるかどうか。選んでもらえるホテルでなければいけません。
そのためには、「近所に住んでいる人は関係ない」ではなく、むしろ近所の人に愛されるホテルでなければなりません。こうした関係を築くきっかけのひとつとして、今回のバッジが少しでも役に立ってくれればうれしいですね。
土肥: あっ、そういえば、高知にオープンするのは来年の2月ですよね。ですので、それまでは47都道府県をコンプリートすることはできない、ということですね。
荻久保: はい。坂本龍馬をデザインしたバッジですが、まだ市場には出回っていません。
土肥: なるほど。つまり、最後に待っているのは“日本を動かした男”坂本龍馬というわけですね。コンプリートを目指すなら、最後は高知へ──。バッジひとつで全国を巡る旅が始まる、そんな仕掛けになっているわけですね。
(おわり)
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