『旅の終わりのたからもの』© 2024 SEVEN ELEPHANTS 大ヒット海外ドラマ「GIRLS/ガールズ」のレナ・ダナム主演、ホロコーストを生き抜いた父とニューヨークで生まれ育った娘が家族の歴史を辿る旅路をユーモラスかつ温かく描いた異色のロードムービー『旅の終わりのたからもの』。
映画の舞台となるポーランドは、123年にわたり他国の占領下に置かれ、滅亡させられても幾度となく蜂起を起こし続けてきた歴史から“不死鳥の国”との異名を持つ。本日11月11日はポーランドの独立記念日。1918年に独立を回復したことを記念する日として法律で国民の祝日に定められている。
今回は、民主国家としての土台を築く激動の時代であった1991年のポーランドで繰り広げられる『旅の終わりのたからもの』をはじめ、屈従の歴史から生まれるドラマが心震わせる良作を、ポーランドの歴史を追いながら紹介する。
『CHOPIN, CHOPIN!』(原題)
破天荒な天才、ショパンの生き様に震える!/地図から姿を消したポーランド
本国ポーランドで10月に公開されたばかりの作曲家・ショパンを描く注目の伝記映映画。日本では11月14日(金)〜20日(木)にかけて開催される「ポーランド映画祭」にて上映予定。
世界でもっとも偉大な作曲家の1人フレデリック・ショパンは20歳で故郷・ポーランドを旅立ち、名ピアニスト兼作曲家としてパリで瞬く間に人気者に。上流社会や王室を渡り歩き、生計を立てるために音楽を教え、傑作を作曲し、増え続ける熱狂的なファンのためにコンサートを開く日々。まさに順風満帆・豪華絢爛な日々を送るショパンだったが、病魔は確実に彼の体を蝕んでいた――。
舞台となる1830年代当時のポーランドはロシアの皇帝が国王を兼ね、実質的にロシアの一部となっていた状態。首都・ワルシャワで大規模な独立運動が勃発したが、最終的にロシア軍によって鎮圧され、ポーランドは憲法を廃止、大幅に自治権を剥奪されることとなった。
ショパンはポーランドへの帰国を熱望したが、父の説得によりウィーンに残り音楽で闘うことを決意。しかし、ショパンは肺結核で亡くなるまで故郷に帰ることはできなかった。この「帰れない」という現実は、彼の多くの作品、特に「革命のエチュード」や「ポロネーズ」に込められている。
その後、ポーランドはプロイセン王国、ロシア帝国、オーストリアに国を分割され地図から姿を消してしまう。
『戦場のピアニスト』
生きることは奇跡の連続――/戦火で燃やし尽くされたポーランド
ロマン・ポランスキー監督が戦争の悲惨さを生々しく描いた傑作。主人公のシュピルマンを演じるのは本作でアカデミー賞主演男優賞を最年少で獲得したエイドリアン・ブロディ。
第2次世界大戦初期の1939年から終戦までの1945年。ナチス・ドイツに制圧されたポーランドの首都ワルシャワで、ユダヤ人のたどった悲惨な運命を、ユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの体験記を基に映像化。
123年に渡る分割からついに独立を果たすも世界大戦の開戦により、ドイツとソビエトにより分割され再び消滅を経験する。
映画では、ドイツ軍に占領され廃墟と化した首都・ワルシャワや、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所へ連行される人々の恐怖も生々しく描かれる。様々な偶然と人々の良心に助けられ、生き延びたシュピルマンが廃墟と化した街で弾くショパンのバラード第1番は映画史に残る名シーン。この大戦によってポーランドでは人口の約5分の1(約600万人)が亡くなった。
『COLD WAR あの歌、2つの心』
時代に引き裂かれた2人の愛の物語。/冷戦でモノクロと化したポーランド
第2次世界大戦終戦後の1950年代、冷戦下で東西に引き裂かれた恋人たちの15年間にわたるラブストーリーを美しいモノクロの映像と音楽で描き、映画ファンだけでなく音楽ファンの間でも話題になった作品。
大戦後、ソビエト連邦の勢力圏に入り、社会主義国家となったポーランド。歌手をめざして民族歌謡舞踊団のオーディションを受けたズーラと舞踊団のピアニスト、ヴィクトルは次第に恋に落ちる。
しかし、ソ連の最高指導者スターリンを称える歌の披露を求められて舞踊団の政治利用が進むにつれ、ヴィクトルは政府の監視対象にもなり、パリに亡命。舞踊団で脚光を浴び続けるズーラ。冷戦の進展とともに当局の思惑が忍び寄る中、2人は邂逅と別離を繰り返す。
「50年代のポーランドは色にあふれた国ではなかった」とポーランド出身のパヴェウ・パヴリコフスキ監督が語るように、本作ではソ連によって言論や表現の自由が規制され閉鎖的になったポーランドの姿を観ることができる。恋に落ちる男女が出会い、2人が最も美しい音楽を奏でていた時間がポーランドの政治的な事情や、それぞれの変化により、少しずつ失われていく儚さが本作の魅力でもある。
『旅の終わりのたからもの』
デコボコ親子の心温まるロードムービー!/過去の傷と未来への希望 夜明け前のポーランド
本作は、1991年のポーランドを舞台に、N.Y.で生まれ育ち成功するも、どこか満たされない娘と、ホロコーストを生き抜き約50年ぶりに祖国へ戻った父が繰り広げる異色のロードムービー。
家族の歴史を辿ろうと躍起になる神経質な娘と、娘が綿密に練った計画をぶち壊していく奔放な父。かみ合わないままの2人はアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所を訪れる。
初めて語られる、父と家族の壮絶で痛ましい記憶。やがて旅が終わりを迎えるとき、2人が見つけた“たからもの”とは――。
ソ連による社会主義が崩壊し、いよいよ現代国家の礎を築き始めた91年のポーランド。
本作では、ミスコンの開催やディスコミュージックの発展など、“色をなくしていた”ポーランドが徐々に鮮やかに変貌していく様も描かれる。
一方で、戦争の傷跡が残る街並みや貧富の差、そして廃墟と化したアウシュヴィッツの姿も。親子の笑えて泣ける旅路と共にポーランドの人々の活気と歴史の惨劇を体感することができるだろう。
本作で監督を務めたのは、2024年にヴェネチア映画祭審査員も務めたドイツ映画界の俊英ユリア・フォン・ハインツ。彼女がティーンエイジャーの頃に、オーストラリアの作家リリー・ブレットがホロコーストの生存者である父との旅の実体験を基に書き上げた小説「Too Many Men」を読み、深い感銘を受け今回の映画化が実現。
ドイツ出身のユリア・フォン・ハインツ監督は、共同制作会社から制作チームに至るまで、あえてポーランドチームを採用し撮影もドイツとポーランドの両方で敢行。多くのホロコースト映画のように歴史の悲劇そのものに迫るのではなく、生存者の娘を主人公に据えることで、戦争を知らない世代にも深く刻まれた影を浮かびあがらせる。
『旅の終わりのたからもの』は2026年1月16日(金)よりkino cinéma新宿ほか全国にて公開。
(シネマカフェ編集部)