はまこ(写真左)テラこ(写真右) 恋愛や結婚の“カタチ”は存外脆いもので、時代によってその常識は様変わりする。現代もまた、変革が少しずつ起きつつある時代といえよう。恋愛とは、結婚とは、パートナーとはーー。はたして、一体なんのことだろう?
お笑いコンビ「はまこ・テラこ」は、そんな揺れ動く価値を体現するかのごとき、“イレギュラー”な関係性を築いているという。
二人は2008年に結婚し、翌年から夫婦漫才師としての活動を始めるも、18年に離婚。しかしコンビは解散せず、さらには一度も別居しないままに、約7年の「同居離婚」を続けているそうだ。
なぜ離婚しても一緒に住んでいるのか? 現在はどのような関係性なのか? 元夫のはまこ(47歳)と元妻テラこ(46歳)の二人を直撃した。
◆夫を男として見られなくなった
ーーお二人の結婚生活は約10年だったようですが、離婚の原因は何だったんですか?
テラこ:私が、はまこを男性として見れなくなったんです。男女の営みをしたい気持ちはあるのに、自分が彼をその対象にできなくなってしまった。
はまこ:営みもそうですが、彼女は「恋愛」をしたい人なんですよ。
テラこ:男としては何も感じなくなったんです。ほかの男性とそういう関係になりたくても、結婚していたら不貞行為になってしまいます。それがしんどくて、離婚しました。
◆付き合って1週間後には大好きになっていた
ーー結婚生活が長くなると、配偶者を性愛の対象として見られなくなるという問題はよく耳にしますね。
はまこ:もう20年以上前の当時は、反対だったんですけどね。付き合うきっかけを作ったのは、テラこだったんですよ。
テラこ:あの頃、はまこは女性経験がほとんどなくて、そんなところが私の母性本能をくすぐったんです。それで「お付き合いしましょう」って言ったんですけど、生意気にもこの人、断ってきたんですよ!
はまこ:女性としては見れなかったんですよ。でも、「お試しでいいから!」と押されて付き合いはじめました。
ーーたしかに最初は反対ですね。
はまこ:それが、付き合って1週間後には大好きになっていたんです。結婚のプロポーズも、漫才コンビ結成も、僕からお願いしました。
◆離婚して7年、現在の生活は…
ーープライベートも仕事もずっと一緒だと辛くないですか?
はまこ:実はそれだけじゃなくて。二人ともアルバイトをしているのですが、バイト先まで一緒なんです。
テラこ:「え!?」と思いますよね。離婚したらいろんなところで距離を置くのが一般的でしょうから。恋愛対象としては見られなくなってしまいましたが、相方として・人間としては、信頼を持ったままなんです。
ーーそこまで一緒だと、テラこさんの願う「次の恋愛」には踏み出しにくい気がします。なぜ別居しないんですか?
テラこ:「経済的な理由」に尽きますね。最近、加藤ローサさんと元サッカー日本代表の松井大輔さんが離婚したけど同居は続けていて「新しい形」と話題になりましたよね。あれを見て「私たちが売れてないから知らないだろうけど、こっちはもう7年もやってるよ!」と(笑)。
◆同居かつ「同じ布団で寝ている」
ーーでは、同居しながらも、別々に過ごす「家庭内別居」のような状況ですか?
テラこ:そんなことはないです。同じ布団で寝てますし。
ーーえぇ!?
テラこ:いいリアクションしますね(笑)。そんなに家も広くないし、ちょっと前まではシングルの布団に二人で寝ていました。
はまこ:去年、ナイツの塙さんが作った『漫才協会 THE MOVIE』という映画で、その様子を取り上げてもらったら、それを見た松本明子さんがダブルのマットレスをくれて、今はそれで寝ています。
ーーはまこさんを男として見れないとはいえ、一緒に寝ていると……。
テラこ:ないですね。でも、私が寝てる時に私の体をまさぐっていたことを、翌朝に事後報告されることはたまにあります。
はまこ:そういえば、さっき一人で寝ていた時に、初めての夢を見たんです。はまこと“する”夢でした。
テラこ:何言ってんの! そんな話をする取材じゃないだろお前!
◆「芸人として売れると困る」と主張するワケ
ーーテラこさんとしては、経済的な理由から仕方なく同居を続けているとのことでした。今の家賃はいくらですか?
テラこ:8万3千円ですね。
ーーシェアハウスなども視野に入れれば、その半額くらいの物件は見つかりそうですが。
テラこ:まわりの芸人にもよく言われますね。貯金をはたいてでも「まず別居したほうがいい」と。シェアハウスに入りませんか? とお声かけいただいたことも何度かあったんですよ。
ーーそれでも踏み出さないのは?
テラこ:芸人であり女優である私としては、シェアハウスでほかの誰かにプライベートをさらけ出すわけにはいかないとの気持ちもありますね。
ーーはまこさんも、別居に向けて動いているんですか?
はまこ:いや、僕は今もテラこが大好きで、離婚しても一緒にいられるだけで幸せなので別居したくないです! だから、芸人として売れると困るんですよ。お金が入ってきちゃうと別居されるので。
テラこ:なによ! 自分で自分たちの営業妨害しないでちょうだい!
はまこ:だから、ウケそうになったらスベろうとしてみたり(笑)。
テラこ:あなたは、そんなことしなくても順当にスベってますから!
◆ヨリを戻したいから、部屋に貼り紙を…
ーーお話を伺うと、はまこさんの未練がすごいですね(笑)。
テラこ:この人、家の中に気持ち悪い貼り紙してるんですよ!
ーー貼り紙?
テラこ:私がいつも座る場所の頭上に貼ってあるんですよ。
「ネタをやってる時が、テラこと唯一喋れる時間だから楽しい。ヨリを戻す気持ちを忘れない。ヨリを戻したいという思いで全ての言葉を喋る」って書いてあって。これ、異常ですよ(笑)。
ーー何かしらのハラスメントになりそう(笑)。テラこさんは怖くないですか?
テラこ:気持ち悪いですけど、勝手に言ってろくらいの感じです。
◆再婚したい男と別居したい女
ーー今後、はまこさん個人としてはどうしていきたいですか?
はまこ:僕はテラこと再婚したいです。そして、最初の結婚の時にできなかった結婚式をして、新婚旅行に行きたいですね。
テラこ:再婚旅行だろ(笑)。
ーーテラこさんは?
テラこ:早く別居をしたいです。
ーーなんだか、「えいや!」とやってしまえば別居もできそうに思えますが、はまこさんに甘んじている部分もありませんか?
テラこ:確かにありますね。一方で、周囲からの「次の恋愛したいなら、元夫と同居してるってすごいハードルになるよ」との助言もその通りだと思っているから、本気で別居したいとも思っています。それに別居をすることで、視点も変わってネタの広がりが出て来るとも思うんですよ。
◆再婚は100%ないけど…
ーーですが、離婚したとはいえ、同居のままでコンビも解散しない。さらにアルバイト先まで一緒だとは、二人が絶対的なパートナーであることの、なによりの証左だとも感じてしまいます。
テラこ:もっと先のことをいえば、老人になってもお互いにシングルだったら、終活としての同居はありかもと思っていますよ。この人との再婚は100%ないですけど、孤独死は嫌なので。
ーー漫才コンビとしての目標は?
はまこ:売れたくないんです。売れちゃうと別居されてしまうので。でも、NGK(なんばグランド花月)で漫才をやりたい気持ちはありますね。だから、うまいこと売れないままNGKに立つ!
テラこ:そんなことできるわけないだろ! まあ、漫才はずっと一緒にやっていきたいと思いますし、離婚漫才ってほかにいないので、続けていきたいと思っています。
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いびつさも否めなさそうな「はまこ・テラこ」の関係だが、それでも二人は終始楽しげでもあった。一般的な夫婦のものとは異なるだろうが、それに勝るとも劣らない、独自の固い絆が存在することは間違いないと見える。
夫婦漫才から元・夫婦漫才にシフトチェンジできた二人のことだ。今後、生活形態に変化が起ころうとも、新たな芸の肥やしにしてくれることだろう。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。