
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、岸井ゆきのさんと宮沢氷魚さんの共演作『佐藤さんと佐藤さん』(2025年11月28日公開)です。同じ苗字の男女が出会ってから別れるまでの15年間を描いた作品。試写で鑑賞しましたが、これがあるある満載の結婚リアリティ映画でした!
では物語からいってみましょう。
【物語】
大学で出会った正反対の性格の佐藤サチ(岸井ゆきのさん)と佐藤タモツ(宮沢氷魚さん)は意気投合して付き合い、やがて同棲するように。
司法試験に挑戦するタモツを応援するサチ。独学をするタモツのために、部屋を勉強に集中できる環境にしようとサチも司法試験の勉強を始めるのですが、司法試験に合格したのはサチでした。
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【サチとタモツの結婚生活のリアル】
男女の出会いから別れまでを描いた作品はこれまでもたくさんありましたが、結婚をし、子どもを授かり、離婚にいたった夫婦をこれだけリアルに描いた作品はあっただろうかと。
特に子どもが産まれてから2人は明らかにすれ違っていくのですが、そのエピソードがドキッとするものばかり。なぜなら “夫婦あるある” だからです。
【思いやりが持てなくなっていく2人】
司法試験に合格して弁護士になったサチは外で働き、タモツは試験勉強をしながら家事育児をがんばるのですが、ワンオペなので勉強に集中する時間がなくてストレスを抱えるように。しかし弁護士のサチも忙しく、離婚裁判では頑固な依頼者に手こずり、クタクタに疲れています。そういう状況だと思いやりを持つ余裕がなくなってしまう。
ある日、トイレから出てきたサチが何気なく「トイレットペーパーがなかったよ」とタモツに言うと、タモツが爆発的にキレるんです。「僕が買うのが当たり前だと思っているだろう!」と。
タモツの積もり積もった不満が溢れ出すシーンを見ながら、夫婦の危機は、DV、浮気など決定的なものだけじゃない。こういう日々の不満が積み重なって、夫婦の間に取り返しのつかない亀裂が入ることもあるんだよな〜と思いました。そこを乗り越えられるか否かが結婚生活の継続につながるんですよね。
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【サチとタモツはどうすればよかったのか?】
やがてタモツの将来を決めるある出来事が起こります。これをきっかけに元の仲よしの2人に戻れるかというと、そう簡単にははいかない。映画を観ながら「どうすればよいのだろう」と考えてしまいました。
タモツは不満を溜め込むタイプなのでちゃんと伝えるべきですし、サチは逆に思ったことを相手の気持ちを考えずに言いすぎることが多いので、言う前に一度立ち止まらないといかんのではないかと。
でもこれは第3者目線だから気づくことであり「もしかして自分、サチっぽいかも」とドキッとするシーンも多かったし、心が痛かった〜!
【岸井ゆきのと宮沢氷魚が素晴らしい】
サチとタモツの関係の変化が心を掴むのは、岸井ゆきのさんと宮沢氷魚さんの相性の良さと絶妙な演技もあると思います。
気が優しくてつい我慢してしまうタモツの心を丁寧に演じた宮沢さん。パワフルだけれど言いすぎてしまうサチの感情のアップダウンをしっかり掴んで熱演した岸井さん。ふたりのあ・うんの呼吸がサチとタモツの日々をテンポよく映し出していました。
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また2時間弱の映画の中で15年の日々を描いた天野千尋監督の手腕にも拍手!
独身の人は、結婚は人生ゴールではないことを知るだろうし、既婚者は「わかる〜」と共感することも多いと思う。観終わったあと必ず誰かと話し合いたくなる『佐藤さんと佐藤さん』。オススメです!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:(C)2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
『佐藤さんと佐藤さん』
2025年11月28日(金)より全国ロードショー
監督:天野千尋
脚本:熊谷まどか 天野千尋
出演:岸井ゆきの 宮沢氷魚
藤原さくら 三浦獠太 田村健太郎 前原 滉 山本浩司 八木亜希子 中島 歩 佐々木希 田島令子 ベンガル
(C)2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
