
Text by 今川彩香
音楽ライター、金子厚武の連載コラム「up coming artist」。注目の若手アーティストを紹介し、その音楽性やルーツを紐解きながら、いまの音楽シーンも見つめていく。第6回目にフォーカスするのは、20歳のシンガーソングライター、Rol3ert(ロバート)だ。
今年1月にリリースされた“meaning”はSNSでも注目を集め、YouTubeでのミュージックビデオの再生回数はすでに50万回を突破するなど、新星と呼ぶにふさわしい活躍をしているRol3ert。今年の『FUJI ROCK FESTIVAL』にも出演した。この11月21日には、新曲“frozen”をリリース。初めてのタイアップ曲は、ファッションブランド「GLOBAL WORK」のウェブCMのために書き下ろしたものだという。
透明感と温かみのある声で歌い上げる英語中心のリリック、洗練された音色に1980年代感。その音楽性について、金子は「グローバルであることが当たり前になった世代の登場を強く印象付ける」と語る。海外インディから影響を受けた先達とのつながりにも触れながら、「次世代のポップスター」、Rol3ertを紐解いていく。
音楽は好きだけど、最近、新しいアーティストに出会えていない……情報の濁流のなかで、瞬間風速的ではない、いまと過去のムーブメントを知りたい……そんな人に、ぜひ読んでほしい連載です。
Rol3ertは2005年生まれで、先日20歳になったばかりのシンガーソングライター。今年1月にリリースされた“meaning”がTikTokやInstagramなどを通じてジワジワと話題を呼び、YouTubeでのミュージックビデオの再生回数は50万回を突破と、新人としては異例の数字を記録している。
|
|
|
|
日本人シンガーソングライター。20歳。2025年1月リリースの“meaning”で本格始動。続く“HOPE”はJ-WAVE TOKIO HOT 100でTOP20入り、“Nerd”はインドネシア、日本、アメリカ、台湾、韓国を中心に世界中の主要プレイリストへ選出。7月には代官山SPACE ODDにて初ワンマンライブを成功させ、FUJI ROCK FESTIVAL ’25、SWEET LOVE SHOWER 2025へ出演。TOKYO ALTER MUSIC AWARDでは『Best Breakthrough Artists』を受賞し、「グローバル音楽シーンに挑む日本発の新たな才能」として注目を集めている。
まず印象的なのがその歌声だ。透明感のなかにたしかな熱量を感じさせ、ファルセット(※)も駆使しながら英語メインのリリックを心地よい発音で歌い上げていて、ポップなメロディーが耳に残る。またトラックも自ら手掛けていて、洗練された音色で構成されたトラックは音数の多いJ-POPとは異なるもの。おそらく“meaning”を初めて耳にした人は、「お、また海外からいい新人が出てきたのかな?」と思ったのではないかと思うが、英語詞メインのなかに必ず一節日本語詞を入れるのがRol3ertの特徴で、そこを聴いて、「あれ? 日本人?」となった人も多いはず。
サブスクで国も年代もジャンルも関係なく楽曲が聴けるようになり、「日本人離れ」という表現ももはや死語になったように思うが、当時まだ10代でこの完成度というのは、すでに音楽を聴くことも、発表することも、グローバルであることが当たり前になった世代の登場を強く印象付けるもの。<選べない 居場所や 形が nightmareに 変わらないのに>という歌詞は、生まれや人種でアイデンティティが限定されない時代の到来を軽やかに告げているかのようだった。
4月に発表された“HOPE”はThe Policeの名曲“Every Breath You Take”を連想させるような1曲で、“meaning”も含めて「1980年代感」はRol3ertの音楽性を語るうえでのキーワードになるだろう。これは親世代の影響かもしれないし、「The 1975以降」とも言えるし、同じ2005年生まれのSombrやd4vd、2個上のキッド・ラロイといった同年代の世界的なポップスターとも共振するムードであって、やはりグローバル仕様だと言えるはずだ。
少し上の世代も含めればベトナム系のKeshiのような存在もロールモデルになっていそうだし、“meaning”はベトナムのKIDCOZYがリミックスをしていて、「グローバルななかでのアジアへの注目度の高まり」という文脈も浮かび上がる。The 1975を擁し、アジアとのつながりが深く、Rina SawayamaやフィリピンのNo Romeなどを輩出しているレーベル「Dirty Hit」から、いずれはRol3ertが作品をリリースすることも……なんていう未来を妄想してしまう。
|
|
|
|
MONJOEは現在ではNumber_iやBE:FIRSTへの楽曲提供で知られ、彼らの楽曲は世界で聴かれているわけだが、“Nerd”にはミックス&マスタリングで小森雅仁(レコーディングエンジニア)も参加して、よりモダンな仕上がりに。リリース後は日本のみならず、インドネシア、アメリカ、台湾、韓国など、世界中のプレイリストで取り上げられたという。
Yutoはかつてロンドンを拠点に活動し、The fin.ではアメリカ、ヨーロッパ、アジアをツアーで回っているが、“say my name”はThe fin.譲りの浮遊感やメランコリーがありつつ、生ドラムがしっかりボトムを支えていて、相性の良さが感じられた。
海外インディから影響を受け、2010年に結成されたThe fin.もデビュー当時から「日本人離れ」と言われていたように思うが、サブスク前夜の時代においてはなかなか日本でのポジションが見つけられなかった。そんななか、世界へと出ていくことで自らの道を切り開いてきたのであり、MONJOEも含め、グローバル目線で活動をしてきた彼らのような先達がいてこそ、現在の豊かなシーンがあると言っていい。そして、30代になったMONJOEやYutoが、20歳になったばかりのRol3ertをプロデュースするという構図は、まさに日本の音楽地図の刷新を象徴しているように感じられる。
今月リリースされた最新曲の“frozen”はRol3ertにとって初のタイアップ曲で、吉高由里子と宮沢氷魚が出演する、ファッションブランド「GLOBAL WORK」のウェブCM「グローバルワークは、まちがいない服。ホッとする冬篇」のために書き下ろされた。
|
|
|
|
低いトーンの歌い出しが印象的な“frozen”は<it leaves me a little lonely deep inside/but i hope you’re doing fine=胸の奥が少し寂しくなるけど/どうか君が元気でありますように>と、喪失とその先の微かな希望を歌う一曲で、透明感と温かみを併せ持ったRol3ertの歌声が今年の冬を切なく彩ってくれることだろう。
“frozen”ミュージックビデオより
僕はこれまでに彼のライブを2度見ていて、最初は9月に開催された『SHIBUYA SOUND RIVERSE』での弾き語り、次が11月に開催されたDURDNとVivaOlaとのスリーマン『HOTSPOT』でのバンドセットだった。音源のみの段階ではどちらかというとソウルやR&Bの文脈で捉えていたが、初めて生で聴いた彼の歌声のスケール感は想像以上で、ピアノの弾き語りだったこともあり、Coldplayのクリス・マーティンを連想したりもした。
一方、「人生で3度目」というバンドセットでは未発表曲も多く披露され、すでに発表されている音源以上にロックな曲やダンサブルな曲があり、ハンドマイクでアグレッシヴなパフォーマンスをする姿がとてもフレッシュだった。もちろん、まだまだ成長の途上にあることは間違いないが、ジャンルでは規定できない次世代ポップスターとしての存在感があり、来年以降はフェスなどで活躍する場面もきっと増えるだろうし、海外公演の機会も遠くない将来に訪れるはず。果たしてどこまで行けるのか、じつに楽しみな逸材だ。

