Netflixで話題沸騰『イクサガミ』 世界1位の大ヒットになったワケ

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2025年12月04日 08:30  ITmedia ビジネスオンライン

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Netflixの週間グローバルランキング(非英語シリーズ)で首位を獲得

 Netflixで配信中のドラマ『イクサガミ』が、旋風を巻き起こしている。


【世界1位の大ヒット】Netflixで話題沸騰『イクサガミ』、画面が暗くても視聴者を引き付けるワケ


 11月13日からの配信開始とともに国内ランキングで1位を獲得し、連日トップをキープ。週間グローバルランキング(非英語シリーズ)でも首位を飾り、米国、インド、ブラジル、フランス、韓国など88の国と地域でもトップ10入りの快挙を果たした。


 原作は、累計58万部を突破したベストセラー『イクサガミ』シリーズ(今村翔吾著、講談社文庫)。早くも続編を期待する声が聞こえてくるほどの人気ぶりだが、そのヒットの背景には何があるのか。


●ローカル性×大衆性で世界的ヒットを生み出す


 物語の舞台となるのは、近代化が進む明治11年の京都だ。岡田准一さん演じる剣客の嵯峨愁二郎は、感染症に苦しむ家族と村人を救うべく、巨額の賞金を掲げた謎多きゲーム「蠱毒(こどく)」に参加し、命懸けの戦いに挑む。


 まず注目したいのは、時代劇とデスゲームを掛け合わせたアイデアだ。本企画は、過去にグローバルヒットした日本のエンタメ作品にも通ずる、「ローカル性」と「大衆性」を兼ね備えている。


 ローカル性とは、その国特有の歴史や伝統、文化が感じられる要素を指す。古くは黒澤明監督の時代劇映画『七人の侍』『羅生門』などの作品が世界的にも人気が高く有名だが、そのように日本独自の文化・歴史的側面に着目した話題作は、近年も少なくない。


 同じくNetflix作品であれば、大相撲を題材としたドラマ『サンクチュアリ -聖域-』のヒットが記憶に新しい。昨年は戦国時代を舞台とした真田広之さんプロデュースのドラマ『SHOGUN 将軍』(Disney+)が、第76回エミー賞で史上最多の18部門を制覇したというホットな話題もあった。


 今年、社会現象を巻き起こした映画『国宝』も、昨月行われた米・ニューヨークとロサンゼルスでの上映会で熱い反応が巻き起こったと報じられたばかりで、賞レースの期待値が高まっている。


 元・武士たちの迫力あふれる殺陣を見せ場とした『イクサガミ』の好発進も、そうした日本の伝統的なモチーフへの根強い関心が関連していることがうかがえる。


●Netflixアジア作品の”デスゲーム人気”も影響か


 そのようなドメスティックな文化である時代劇に、デスゲーム要素を取り入れることでグローバルな大衆性を付与している点も実に巧みである。特に近年のNetflixは、デスゲームものが好調だ。


 Netflix史上最大のヒットといわれた韓国発の『イカゲーム』や、今秋公開されたシーズン3が世界ランキング1位となった『今際の国のアリス』は、いずれもこのジャンルである。


 人を引き付けるフォーマットであることに加え、“アジア発のデスゲーム”熱が高まっているタイミングでの新作登場という流れもあり、海外ユーザーは親しみやすさを覚えたのではないだろうか。


 実際、米エンターテインメントメディア「VARIETY」は、「Shogun Meets Squid Game(イカゲーム)」と、本作のデスゲーム要素を『イカゲーム』に例えて報じている。配信が始まって2週目以降も止まらない『イクサガミ』の加速力は、そうした文脈も含めて納得がいく。


 だがここまでは、原作から引き継いだ魅力ともいえる。では、とりわけ今回の実写版を成功に導いたものは一体何か。キャストやクリエイターの技量を、余すことなく作品の質に反映させるNetflixの英断が、その陰にはある。


●「俳優プロデュース」の新たな成功事例に


 本作を語る上で欠かせないのが、主演、プロデューサー、アクションプランナーの3役を務めた岡田准一さんの存在だ。彼のプロデューサー抜擢は、Netflix側からのオファーが起点である。


 岡田さんと言えばこれまで『燃えよ剣』『散り桜』『関ヶ原』など、数々の時代劇映画で主演を務めてきた俳優だ。時代劇の継承に並々ならぬ思いがあり、かつ格闘技や武術に造詣が深いことでも知られている。岡田さんのキャリアと『イクサガミ』は、これ以上ないほど親和性がある。


 本作で彼は脚本や編集の監修、殺陣の構成にまで幅広く携わっているという。特に黒澤映画へのオマージュを滲(にじ)ませたという殺陣は、その豊富な現場経験がなければ実現しなかっただろう。プロジェクトと共鳴する人物を作品の中核に迎えた選択が、実写版のクオリティを形づくっている。


●「画面が暗い」 それでも、マイナスにならない訳


 また、そんな岡田さんから指名を受けメガホンを取ったのが『正体』『新聞記者』などの藤井道人監督だ。手掛ける作品の幅が広い藤井監督だが、特に『ヤクザと家族 The Family』『ヴィレッジ』『最後まで行く』などで垣間見えたような、スリリングでダークな映像美が『イクサガミ』でも光っている。


 例えば、物語の序盤は、時代設定も相まって薄暗い場面が続く。中には目をこらすほど視認性が低く思えるシーンもあるが、そのような徹底された画作りが、時代劇としての独特のリアリティにつながっている。


 そんな映像を観ていて思い出すのは、『今際の国のアリス』の佐藤信介監督が作品制作時を振り返って語ったこのような発言だ(参照:AV Watch「『地面師たち』監督らが振り返るNetflixでの挑戦。山田孝之はギャラアップを直談判」)。


「なんとなく(従来の作品で)あったのは、『なるべく画面は明るめにして分かりやすくしよう』ということをプロデューサーからよく言われていましたが、(Netflixでは)逆に『画面はダークにして、ちょっと分かりにくくてもいいからルック・トーンを上質にしたい』と言われます。僕たちは、つねづねそうしたいと思っていたので、話しやすい人が映画・ドラマづくりを始めてくれたなと感じましたね」


 『イクサガミ』でも恐らく、同様のやり取りが交わされた上での判断なのではないだろうか。そのように、ある種のリスクを取ってでも作品のクオリティを追求するという選択の一つ一つが、本作のクリエイティブを支え、異例のヒットにまでつながっている。


●著者紹介:白川穂先


エンタメ企業と編集プロダクションで編集・取材・執筆を経験し、個人で執筆活動。ドラマ、映画、アニメなどエンタメ記事の企画・執筆を幅広く行っている。1994年生まれ、北海道出身。



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