上坂龍之介氏 新進気鋭30歳の熱い思い 監督デビュー作「レンタル家族」覚悟決めて届ける一作

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2025年12月08日 07:39  日刊スポーツ

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映画「レンタル家族」でデビューした上坂龍之介監督

<情報最前線:エンタメ 映画>



注目の若手映画監督、上坂龍之介氏(30)のデビュー作「レンタル家族」が6日から東京・新宿K 's cinemaで1週間限定で公開されている。今年5月の「第23回中之島映画祭」でグランプリ受賞、「ハンブルク日本映画祭」など複数の映画祭にもノミネートされた話題作。多くの配給会社から上映の声もかかる中、「1週間全ての回が満席にならなかったら次の作品に切り替えます」と覚悟を決めて届ける一作への思いを聞いた。【松尾幸之介】


★つながりや絆を


自身の親族などになりきってもらう「レンタル家族」サービスを軸に、“演じること”と“リアル”のはざまで揺れ動く人々の感情、つながりや絆にスポットを当てた物語。上坂監督は「これまでの人間関係の否定とこれからの人間関係の肯定。親子や恋人の関係などでも、立場や倫理観が邪魔をして、本当は仲良くなれる存在の人がそういう関係でいられないというのが、まだ日本では多いのかなと感じています。『レンタル』というパッケージの中で、そうした人間関係のつながりを描きたいなと思って作りました」と話した。


構想は大学の映画学科で学んでいた学生時代から温めていた。短編作を作る授業で思いついたが「今ではないなと思った」と着手には至らず。作品を見た人からは「内容が時代に合っているよね」と声をかけられることも多いというが「偶然なんです。確かに人間関係の形がいろんなものに変動していて、昔よりも今の方がスピードも速くなっている。その移り変わりに感情がついていけずに苦しんでいる人もいるのかなと。自分の中では『撮るなら、やりたかった企画でやろう』という思い、ただそれだけだったんですよね」と振り返った。


★祖父の死契機に


高校卒業後に「映画監督になる」と心に決めて地元兵庫県から上京した。制作会社などで働きつつ機会をうかがっていたが、結婚や子育て、起業なども重なり「生きていくためのお金を作るために働いてばかりで、何で東京に来たのかを忘れてしまっていた」。動き出すきっかけは、22年7月に祖父が亡くなったこと。「お葬式で祖父と対面した時に自分でもびっくりするくらい涙が出てきて、僕が映画監督になりたくて東京に行ったことも知っていたんですけど、作品を見せられなかったなと。『じゃあ撮ってしまおう』と動いて作ったのが『レンタル家族』です」。


脚本を担った土井涼介氏ら旧知の仲間と共に、昨年2〜3月に10日間かけて関東近郊で撮影した。「僕がやりたいことだったので」と製作費約400万円も自費で捻出。オーディションで選んだ主演の荻野友里(43)ら思い入れある役者たちと駆け抜け、「みなさんに感謝しています。予算がない中で優先順位を決めて撮影しなければいけなかったですし、思い通りに撮れなくて削ったシーンもありました。天気などの運だけはあって、作中で何度か出てくるファミレスのシーンは同じ日に全シーンを撮りきっているんですけど、晴れてほしい時は晴れて、雨が降ってほしい時は雨が降ったんですよ。みなさんにもっといいギャラを払って映画が作れるように、頑張って早く売れないとなと思っています」と意気込んだ。


★「まさか自分も」


自主製作映画の祭典である「第23回中之島映画祭」では、初監督作ながら200を超える出品作から優秀な8作に選ばれ、来場者の投票でグランプリを獲得した。過去には石井裕也監督や上田慎一郎監督、戸田彬弘監督、中川駿監督らも参加し活躍へとつなげた映画祭で「まさか自分も1本目からグランプリをいただけるとは思っていなかったので、うれしかったです」と喜んだ。


★5日目まで即完


今回1週間の限定上映をする新宿K 's cinemaは、そんな上田監督が手がけ17年にメガヒットした「カメラを止めるな!」の聖地でもある。同作も当初は6日間限定上映だが、口コミが広がり全国上映へと発展。「そうしたムーブメントがまた起きたらいいな」と今回は1週間全ての満員を目指す。座席は1回84席で、すでに初日から5日目までチケットが即完売する順調なスタートを切った。公開の約1カ月前からほぼ毎日スタッフや演者らと劇場に足を運んでチラシ配りなども行い「やれることは全てやって、ダメだったら潔く引いて次の作品に集中します」と見据えた。


★是枝監督共通点


初監督作品は、やはり思い出の一作になりそうだ。監督としての信条は「『人の優しさを信じる』『人を諦めない』がテーマです」といい「尊敬している是枝裕和監督が似たようなことをおっしゃっていて、僕も軸にしています」。今後の活動への意欲も語り「これからもどんどん作品を作っていきたいですし、アクションやサスペンス、恋愛ものなどにも挑戦していきたいなと思っています。本当に『レンタル家族』は人とのご縁や運が良かった。それがなかったら、作品自体もできていなかったと思います」と“つながり”の奥深さをかみしめていた。


◆上坂龍之介(こうさか・りゅうのすけ)1995年(平7)1月30日生まれ、兵庫県加西市出身。小学生の時に見たエドワード・ズウィック監督の映画「ラスト サムライ」の影響で映画の道を志す。映画学科のある大学に通いながら音楽番組のアルバイトとして働き、卒業後に制作会社で1年間勤務。格闘技番組のADなどを務めた。18年に自身の制作会社を設立して映像の仕事を行いながら映画監督を目指す。


◆「レンタル家族」あらすじ 東京の会社に勤務する洋子は仕事で多忙な毎日を過ごす傍ら、定期的に実家へ帰省をし、父忠勝とともに認知症の母千恵子のケアをしている。千恵子の症状は近頃進行が速く、洋子が数年前に離婚したことさえ忘れ、帰省の度に元夫と娘について聞くのであった。ある日、洋子は取引先の担当者から「レンタル家族」というサービスを紹介され、体験レンタルを強く勧められる。戸惑いつつもレンタル夫を家事代行として自宅に呼び、派遣された松下豪と馬が合った洋子は、千恵子のことを相談。すると松下は、自分を夫、知り合いの子役・安田朱里を娘として、家族を演じることを提案し…。

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