「酔った男に近くの路地へ引きずり込まれそうになり、噴射した」28歳女性も。“催涙スプレー”を持ち歩く女性の胸中

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2025年12月08日 16:00  日刊SPA!

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住んで1年ほど経過した現在も、三嶋さんは常にスプレーを忍ばせている
 サッと一振りすればたちまち目と鼻に大ダメージを与える催涙スプレー。それが今、女性たちを中心に“新常備品”になりつつある。その背景にあるのは治安への不安感か、強い恐怖心か――。
◆ヤバい人への対抗手段として常備する人が激増中!

 公共空間で突然噴霧される催涙スプレーの刺激臭――。今年はすでに何件も噴射事案が報告されているように、日常的な護身ツールとして携帯する人が着実に増えている。

「必ず鞄の中に入れて、肌身離さず持ち歩いています。解雇された“ヤバい上司”が逆恨みするタイプの人間だとわかり、備えないほうがリスクだと思ったんです……」

 そう語るのは、IT系企業に勤務する田代優菜さん(仮名・25歳)。彼女が催涙スプレーを購入したきっかけは、職場での深刻な騒動だった。

「取引先の女性に手を出す、部下をパワハラで潰す、挙げ句にインサイダーまがいの不祥事まで……“問題の塊”みたいな上司でした。クビになった後も、社員に深夜の電話で『殺すぞ』と言い放つなど、逆恨みが止まらなくて」

 職場での逆恨み・粘着行為は可視化しづらく、警察の介入ラインに達しにくい“グレーゾーン”として放置されがちだ。結果として、“自衛のカード”に手を伸ばすしかなかった。

「最初に買ったのは同僚の女のコで、『これ、持っといたほうがいいと思う』って見せてくれて。ネットで数千円で買えて、サイズも小さい。その場でポチッてしまいました。持っていなければ、たぶん外に出るのも怖かったと思います。何もないよりは、絶対にいい」

◆ゴミ出しにも催涙スプレーがないと不安な事態に

 こうした“個人単位の防御”は、住宅トラブルでも拡大している。都内在住のOL・三嶋奈々さん(仮名・26歳)のケースはこうだ。

「実は、家賃の安さにつられて昨年引っ越したアパートで、隣人男性に悩まされていて……。最初は壁ドンや怒鳴り声くらいだったんですが、だんだん行動が変になってきたんです。ゴミ出しのときにドアの隙間から覗かれたり、通路がその人の玄関前を必ず通る構造で、歩くたびにドンッと壁を叩かれるんです」

 生活空間という逃げ場のない場所で続く緊張。三嶋さんは自衛手段を調べた。

「刃物やスタンガンは、使うのが怖くて……。そこで目に留まったのが催涙スプレー。相手に触れなくても一定の距離が保てるし狭い通路でも即座に使えるのが決め手に。だから、ゴミ出しの数十秒の移動でも必ず持っています」

◆タクシーを探していると背後から男が

 日常の場面で実際に“使用”に踏み切らざるを得なかったケースもある。都内の会社に勤める佐藤美香さん(仮名・28歳)は、友人たちと飲み会を終えた深夜、思わぬ恐怖体験に巻き込まれた。

「気づいたら時間が午前3時を過ぎていて、タクシーを探していたんです。そしたら突然、後ろから“飲まない?”って声をかけられて。振り返ると30代くらいの男が近づいてきて……最初は無視したんですが、酔っているのか全然話が通じなくて」

◆正真正銘の“必需品”となってしまった催涙スプレー

 佐藤さんが催涙スプレーを携帯していたのは、以前から“深夜帰宅の不安”を抱え、備えていたからだ。

「肩とか腰に手を置こうとしてくるし、道を塞ぐように立ってきて……。『やめてください!』って声を上げても、そのときにはもう、興奮していて理屈が通じない感じで」

 逃げようとした瞬間、男が腕をつかみ、近くの路地へ引きずり込もうとした。

「気づいたらバッグの中に入れていたスプレーを握り、そのまま噴射してました」

 1秒にも満たない噴射。しかし効果は十分だった。

「相手は苦しみながら倒れ込んで、私は全力で走って逃げました。あとで警察に相談したら、『正当防衛の可能性が高い』って言われました。でも、それ以来怖くて……今は家にもストックしてます」

◆護身グッズの携行で沸点が変わった?

 だが一方で、催涙スプレーを“護身”とは異なる目的で持ち歩く者もいる。都内の会社員・木村真也さん(仮名・36歳)は、その典型だ。

「単純に“護身グッズ”を集めるのが趣味で。催涙スプレー、スタンガン、警棒……一応全部合法です。ただ、正当な理由がないと職質で押収されることもありますがね」

 淡々と話す木村さんだが、言葉の端々には、社会に対して積み重なった不満が滲む。

「たとえば最近、満員電車とかストレス多くないですか? 不快な思いをしても“俺にはこれがある”って思うと落ち着く。実際に人に向けて使ったことはまだないですよ」

 まだ――。木村さん自身も、心のどこかで“危うさ”を自覚しているようだ。

「最近スプレーの事件増えてるじゃないですか。だから、さすがに変な気は起こしませんよ(笑)。ただ……持ってると、自分の中のラインがちょっとずつ変わるというか。昔だったら“まあいいか”で済ませてたことでも、今は体が反応するんですよ。“やろうと思えばできる”って」

 小さなスプレー缶が、安心にもなり、武器にもなり、そして潜在的な脅威にもなる。

◆知識なしに買うと過剰防衛のリスクも

 催涙スプレー需要が高まる背景について、護身用品専門店「ボディーガード」代表・奥本一法氏は“体感治安の悪化”を挙げる。

「SNSでも暴行される動画の投稿が増えて、さらにトクリュウによる強盗致傷や、無差別型の凶悪事件が目につくことが増えた。『誰でも被害者になりうる』という意識が社会全体に広がりつつある。そんな中で、1秒未満の噴射でも相手を制圧するのに十分な効果がある手軽さが購入を後押ししていると感じています」

 しかし、気軽に買えるが、素人が使うには危険な品物が紛れ込んでいるとも。目にする機会が増えた一方で、ネット通販の普及による新たな問題も顕在化し始めているのだ。

「Amazon等では身分証の提示も使用説明も不要で手軽に購入が可能です。しかし、人体に害のないOCガス(カプサイシン由来のもの)ではなく、CS/CNガス(催涙/神経ガス)を含む海外製品や非正規品が流通しているケースもある。これらは相手に重篤な後遺症を残す恐れがあり、知らずに使用すれば護身どころの話ではなくなります」

 悪用が目立ちがちだが、本質は護身であるからこそ正しく使うべきだと奥本氏は強調する。

「スプレーの用途は『闘うため』ではなく『逃げるための時間稼ぎ』です。見せるだけで抑止効果が得られるケースも少なくありません。確かに悪用事例も増えていますが、かといって過度な規制を加えると、被害者側を無防備にすることになります。問題の本質は道具ではなく、使用する人間にあるのです」

 催涙スプレーは「最後の保険」であることを忘れてはならない。

世間を騒がすスプレー事件簿

•5月 ……千葉イオンモールで、喫煙を巡るトラブルで加害者がスプレーを噴射

•8月 ……渋谷ヒカリエで、口論をきっかけに40代の男が催涙スプレーを撒き、0歳〜60代の男女18人が目や鼻の痛みを訴え、うち8人が病院に搬送された

•10月……JR山手線内で30代の女がスプレーを散布

【護身具専門店オーナー・奥本一法氏】
防犯・護身グッズ販売の専門ショップ「ボディーガード」を秋葉原にて展開。店舗では、護身具のほか、防災グッズも豊富に揃う

取材・文/ツマミ具依

―[[催涙スプレー]人気の裏事情]―

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