タシケントで行われたFIA表彰式の壇上でコメントするロイック・デュバル(プジョー・トタルエナジーズ) F1の世界、いやモータースポーツの世界で『もっとも有名なオーバーテイク』のひとつに数えられるであろう、2000年のベルギーGPのワンシーン。スパ・フランコルシャンの象徴とも言えるオー・ルージュからラディヨン、そしてケメル・ストレートを舞台にミカ・ハッキネンが見せた伝説の一幕だ。
タイトルを争う首位ミハエル・シューマッハーを追いかけていたハッキネンはレース終盤、2台の前方に現れた周回遅れのマシンをうまく利用する形で、“スリーワイド”の状態から2台をまとめてパス。このレースの勝利を決めた瞬間は、迫力あるシーンと相まって後世に語り継がれる伝説のオーバーテイクとなった。
このシーンのほぼ“再現”と言ってもいい出来事が、2025年のWEC世界耐久選手権第3戦で起きた。プジョー・トタルエナジーズから94号車プジョー9X8を駆って出場しているロイック・デュバルが、ハイパーカークラスのライバル2台をケメルストレートでまとめてパスしたのである。
12月12日にウズベキスタンのタシケントで行なわれたFIAのアワード受賞式では、このシーンがWECの『アクション・オブ・ザ・イヤー』に選出され、デュバルはそのトロフィーを受け取ることとなった。このアワードは、2025年シーズンにおいて「観客を魅了した傑出した瞬間を称える」もの。FIAのSNSを通じてファンが投票を行い、カテゴリーごとに表彰が行われる。
耐久レースのベテランであり、2013年のLMP1世界王者でもあるデュバルは、持てる経験をすべて駆使し、スパのケメル・ストレートを時速300kmを超える猛スピードで疾走しながら、アントニオ・ジョビナッツィのフェラーリ499Pとロビン・フラインスのBMW Mハイブリッド V8の間を勇敢かつ巧みに切り抜ける“2台抜き”のオーバーテイクを見せた。
「ある意味、あの動きは計算されたものだったけど、100%確実とは言えない」と、ル・マンからも近いシャルトル出身の43歳のデュバルは振り返った。
「ラ・ソースからラディヨンに向かっている時、前方にLMGT3マシンがいたが、僕は他のハイパーカーとの距離をできるだけ保ち、コーナー出口を最適化しようと努めた」
「彼らよりも僕は、少しだけ勢いを保てていると分かった。大きな差ではなく、ほんの少しだったけどね。上り坂では、フェラーリのスリップストリームに入った。フェラーリの方がBMWより少し速いと分かっていたからだ。最初は(両車の)インに入ろうと思ったけど、BMWがドアを閉めようとしているのが見えたので、真ん中に切り替えたんだ。そして、幸いにもその2台の間に入ることができた」
「ハッキネンとシューマッハーのことは覚えているよ。ああいう追い抜きができた時は、最高の気分だった。他の(ふたりの)ドライバーがとてもフェアでまっすぐに走ってくれたから、結果的に素晴らしいアクションとなった。本当に楽しかった。来年も同じようなことができたらいいなと思っているよ!」
アクション・オブ・ザ・イヤーのWEC部門では他に6月のル・マン24時間レースにおけるローレンス・ファントール(フェラーリのロバート・クビサおよびジョビナッツィに対するインディなポリスでのディフェンス)、7月のインテルラゴスにおけるマルコ・ソーレンセン(アルピーヌのフレデリック・マコウィッキに対するバトル)がファイナリストに選出されていたが、デュバルのスパでのオーバーテイクがそれらを上回る形となった。
[オートスポーツweb 2025年12月16日]