
「かつては、コーヒーはカフェインの取りすぎになるため控える風潮もありましたが、近年では、がんや動脈硬化予防などの効果を示す論文が世界で報告されています。
たとえば、2024年に発表された国立台湾大学のリポートでは、1日3杯以上のコーヒーまたは紅茶を摂取している人は、アルツハイマー型認知症および血管性認知症の発症リスクが58%減少すると発表。特に、高血圧症のある女性への予防効果が強かったと報告されています」(医療ジャーナリスト)
長年にわたり、こうしたコーヒーの健康効果に着目して研究を重ねてきたのは“コーヒー博士”こと、東京薬科大学名誉教授の岡希太郎さんだ。
「コーヒーに関してさらに興味深いのは、浅煎り、中煎り、深煎りなど焙煎方法によっても、得られる健康効果が変化する点です」
同様の見解を示すのは、YouTubeチャンネル「Dr Ishiguroの健康スクール」で健康情報を発信している消化器外科医の石黒成治さん。健康のため、フルーティな味わいの浅煎りコーヒーを積極的に楽しむという。
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「20年ほど前、当時所属していたがんセンターの予防医学研究所から出された、コーヒーに肝臓がんの予防効果があるという論文を見たのがコーヒーの健康効果に興味を持ち始めたきっかけです。
がんの予防効果があるということは、炎症を抑える働きがあるということ。その主要因となるのはコーヒーに含まれるポリフェノールだと考えられますが、浅煎りコーヒーにも、興味深いポリフェノールが含まれています」
それが「クロロゲン酸」という成分だ。
「クロロゲン酸は、生豆の状態で最も多く含まれており、焙煎を加えることで徐々に減ってしまう物質であるため、浅煎りが最も豊富に摂取できるのです」(石黒さん)
クロロゲン酸は、治療を受けている人だけでも550万人を超すと推定されている糖尿病の予防に効果が期待できるという。
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「クロロゲン酸は、糖を分解するαグルコシダーゼという酵素の働きを弱めるので、糖尿病の薬と同じような働きがあります。それに加え、コーヒー本来の抗炎症作用により、インスリンを分解する膵臓の炎症も抑えられます。こうした作用から、血糖値の上昇が緩やかになることが期待されます」(石黒さん)
浅煎りコーヒーでクロロゲン酸と並んで注目されるのが、記憶力の向上効果が報告されているトリゴネリンだという。
「脳神経細胞を活性化させ、神経細胞同士をつなぎあわせて成長させる効果があります」(石黒さん)
認知症予防のために、トリゴネリンの含有量を高めたコーヒーが、鳥取大学医学部教授と民間企業で開発されたこともあるほどだ。前出の岡さんが補足する。
「トリゴネリンは、血管の酸化を抑えて動脈硬化予防にもなるという、数々の薬理学的エビデンスがあります。しかし、トリゴネリンを含んだ食べ物は極端に少ないのが現状。代表的なのは地中海沿岸が原産のフェヌグリークというハーブや桜島大根などで入手が難しい。効率的にトリゴネリンを摂取するなら、コーヒー専門店で入手できる浅煎りコーヒーがおすすめです」
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いっぽう、深煎りの健康効果はどうだろう。岡さんが注目するのは、ピロカテコールだ。
「クロロゲン酸が分解されてできる、最終的な物質です。慶應義塾大学薬学部では、マウスの実験ですが、ピロカテコールと白内障との関連が研究されていました」
レンズの役割をする水晶体が濁る白内障は、60代では7割、80代ともなればほとんどの人が罹患するとされる身近な病気。
慶應大のリポートでは《白内障予防効果については、コーヒーの焙煎成分ピロカテコールが、強い抑制効果を示し、水晶体内の抗酸化活性への効果であることを明らかにした》とある。
ほかに、焙煎を進めると増えていき、深煎りコーヒーの苦味になる成分・キナ酸にも注目だ。
「詳しい薬理作用の研究は進んでいませんが、尿路感染症の予防効果が期待されています」(岡さん、以下同)
尿路感染症は、特に女性に多い病気。膀胱炎などが原因になり、細菌が腎臓と膀胱をつなぐ尿路に感染して引き起こされる。膀胱炎や尿路感染症の予防にはクランベリージュースが効果的という研究があるが、その理由は有効成分がキナ酸だから。キナ酸は尿を酸性にすることで、細菌の増殖を抑制するとみられている。
「深煎りすると、ナイアシン(ニコチン酸)も増えます。体内のエネルギー源でもあるミトコンドリアを活性化させるため、活力が出て、脳神経にも作用するので思考能力が向上すると見られています。
ナイアシンは、深煎りでは10gの豆に対し、4mg含まれています。1日2杯半ほどで、厚労省が推奨する量のナイアシンを摂取することができます」
香りの成分であるNMPも深煎りで増加するという。
「アロマと同じように、副交感神経を刺激するため、リラックス効果を得られると考えられます」
浅煎りの成分が減り出し、深煎りの成分が増え出すのが中煎り。浅く広く効果が得られそうだが――。
「中煎り独特の成分は、フラン類(5-HMF)です。南高梅の梅肉エキスにも含まれており、女性の貧血改善によいとされ、血液をサラサラにするともいわれます」
焙煎方法によって、味わいだけでなく、効能が変化するコーヒー。
「軽く甘い浅煎りを1杯、苦味とコクがある深煎りを1杯、交互に飲んだり、浅煎りと深煎りを5対5の割合で楽しむのも一つの手です。専門店では浅煎りと深煎りを8対2の割合でブレンドした商品も販売されています」(岡さん)
目覚めの1杯からブレークタイムのお供まで、さまざまなシチュエーションで楽しめるコーヒー。健康効果を意識して味わってみるのもよさそうだ。
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