
ロジクールのフラッグシップマウス「MX MASTER 4」で初めて搭載されたハプティック機能は、側面の触覚センサーパネルに仕込まれていた。筆者個人の感想ではあるが、カスタマイズの余地も少なく、ハプティック機能が有効に活用されているとは言いがたかったというのが正直なところだ。
そして、2月19日に同社のゲーミングブランド「ロジクールG」より、ハプティック機能を採用したマウスの第2弾「PRO X2 SUPERSTRIKE」(以下SUPERSTRIKE)が発売される。クリエイティブ用とゲーム用、異なるラインでハプティック機能がどのように進化したのか、実際に見ていこう。
●「HITS」の基礎技術としてのハプティック機能
マウス、特にゲーミングマウスのボタンスイッチに対するニーズは、キーボードのキースイッチに対するニーズに近い。端的に言えば、高速な連続押下と正確かつラグの小さいキーオン/オフ検知だ。
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これらを実現するために、光学スイッチや静電容量無接点方式スイッチ、磁気式スイッチなどが採用されている。アプローチとしては物理的な接触や検知によるオン/オフという2値のデジタルな検出から、非接触型のアナログな押下量検出への移行と言えるだろう。
だが、マウスではなかなか押下量検出ができるスイッチが登場しなかった。これはキーボードと比較してマウスのボタンのトラベル距離が圧倒的に短く、押下量検出に求められる精度が非常に高いことや、クリック感とクリック認識のズレが不快感につながることなどが考えられる。
そのためか、近年のゲーミングマウスの進化は「軽さ」「センサー」「ワイヤレスの遅延低減」が中心で、操作体験の核心である「クリック」はスイッチの確実性こそ向上したものの、ほぼ不変だった。
そして、ついにその壁を破ったマウスがロジクールGのSUPERSTRIKEだ。本製品はMX MASTER 4に続く、2モデル目のハプティック機能搭載モデルとなる。
MX MASTER 4に採用されたハプティック機能の使われ方は、「ユーザーに対してのフィードバック」だった。サムレストの上部、本体右側面に配置された触覚センサーパネルは親指への振動を通じてユーザーに状況の変化をフィードバックする。
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だが、親指での操作自体がメインの操作方法ではなく、ハプティック機能のために付けられたパーツ、いわば「こんなことできちゃいました」という顔見せ的な印象が否めなかった。
だが、SUPERSTRIKEはハプティック機能を「HITS」(Haptic Inductive Trigger System)という、さらに新しい発想に基礎技術として発展させた。これは単に「触覚を付け足す」ものではなく、「今までの実装を置き換える」ものであり、クリック操作を再定義するエポックメイキングな技術だ。
●外見や基本的なスペックをチェック!
SUPERSTRIKEの外観は「PRO X SUPERLIGHT 2」(以下SUPERLIGHT 2)のシンプルなデザインを踏襲している。
くびれのあるオーソドックスな左右対称の形状で、ボタン数は5個、カラーバリエーションはなく、コントラストの強さが印象的なマットな白と黒のツートンカラーのみで展開される。重量は約61g(実測で61.3g)、SUPERLIGHT 2の約60g(実測で58.2g)とほぼ同等だ。バッテリー寿命は連続動作時で約90時間と、こちらはSUPERLIGHT 2の約95時間からやや短くなっている。
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なお、PRO X2 SUPERSTRIKEのボディーサイズは約63.5(幅)×125(奥行き)×40(高さ) mmだ。
センサーにはSUPERLIGHT 2と同じくHERO 2を搭載する。最大4万4000DPI、最大速度888IPS、最大加速88Gというスペックも変わらない。LIGHTSPEEDワイヤレステクノロジーに対応しており、無線接続時のレポートレートは最大8000Hzだ。
加えて、有線接続(最大レポートレート1000Hz)にも対応している。理論上は無線の方が高いが、有線接続は電波環境の影響を受けない確実な通信経路を確保できるという利点がある。
底面にはLIGHTSPEEDワイヤレスレシーバーを収納するスペースがある。PTFEフィートが貼られた交換用開口ドアが付属するが、別売のPOWERPLAY 2コアモジュールに差し替えればワイヤレス充電システムも利用できる。
SUPERLIGHT 2との大きな違いは、有線接続とスイッチの変更だ。SUPERLIGHT 2では光学式スイッチのスピードと信頼性に、機械式の低消費電力とクリック感を組み合わせたハイブリッドスイッチ技術「LIGHTFORCE」が採用されていたが、SUPERSTRIKEではハプティック機能を活用した新技術、ハプティック誘導トリガーシステム(HITS)が採用されている。
日本ではあまりHITSの詳細は語られていないが、親会社のLogitechはより詳細な技術情報を公開しているので、そちらを参考に解説しよう。
ボタンの押下量の検出に使用されている技術は磁気を用いたものではあるが、磁気式キースイッチとは仕組みが異なる。磁気式キースイッチの場合はホール効果を用いており、ステムに付けられた磁石が動くことで変化する磁場の強さそのものを読み取っている。
一方、HITSで採用されているものは磁気誘導式であり、コイルの磁場をボタン側に付けられた金属片(トリガープレート)が動くことで変化した量を読み取る方式だ。磁気式と比べて軽量、磁場の影響を受けづらい、短ストロークでも検出できるなど、磁気誘導式はマウスに適した方式と言えそうだ。
HITSによって実現された機能は、主に以下の4点になる。
・クリック入力高速化
・アクチュエーションポイントのカスタマイズ
・ラピッドトリガー
・クリック触感フィードバック
クリック入力速度は従来比で最大30ミリ秒高速とうたわれている。人間の視覚反応時間は平均120〜250ミリ秒と言われており、プロゲーマーの場合は10〜25ミリ秒の遅延を体感できるとされる。
30ミリ秒は、単純換算すると144Hzディスプレイでは約4フレーム、240Hzでは約7フレームに相当する。実際のゲームではGPU負荷や描画タイミングによって変動するものの、ハイレベルなプレイでは大きな違いとして現れるだろう。
後の3つについてはカスタマイズツールと合わせて見ていこう。
●「G Hub」と「Onboard Memory Manager」のカスタマイズ機能
SUPERSTRIKEのカスタマイズは他のロジクールG製品同様、「G Hub」もしくは「Onboard Memory Manager」で行う。G Hubは統合管理ソフトで基本的に常駐状態で利用するが、オンボードモードを利用するとプロファイルをデバイス上のメモリに書き込むこともできる。一方、Onboard Memory Managerはオンボードメモリ専用ツールとなる。
カスタマイズ可能な項目は感度/割り当て/スクロールホイール/HITS構成の4つからなるが、特筆すべきはSUPERSTRIKE特有のHITS構成だ。HITS構成は、さらにアクチュエーションポイント/高速トリガー/クリック触覚フィードバックの3項目に分かれている。
全て左右個別に設定できるので、射撃とADSなど左右クリックの機能に応じた最適化が可能だ。
アクチュエーションポイントは10段階で設定できる。総トラベル距離は約0.6mmなので、単純計算で最短約0.06mmまで浅く設定できる。設定画面ではボタンがどれだけ押下されているのかグラフィカルに表示されるので、実際にボタンを押しながら最適なセッティングを探ると良いだろう。
ユニークなのは、アクチュエーションポイントとクリック触感フィードバックの連携だ。アクチュエーションポイントカスタマイズで先行するキーボードでは、タクタイル感や底打ちのタイミングとアクチュエーションポイントは連動せず、「押している途中で反応する」というフィーリングになる。
しかしSUPERSTRIKEは、アクチュエーションポイントに応じてクリック触感フィードバックが反応するタイミングが変化する。ユーザーの設定に応じてスイッチそのものを付け替えたような感覚だ。
ラピッドトリガー(G Hubでは「高速トリガー」と表記)は、アクチュエーションポイントのカスタマイズよりもさらに高度な機能だ。
アクチュエーションポイントが何mm押下したらオン、何mm上昇したらオフと認識するか、という静的なものであるのに対し、ラピッドトリガーは押下されてオンとされたキーが設定された距離だけ上がったら次の入力を受け付ける、という動的な検知となる。
これもまた、HITSの押下量のリニアな検出によって実現された機能だ。機械式スイッチの場合、オン/オフの境界が一点になるため、その周辺でオン/オフを繰り返すチャタリングを起こしかねない。それを回避すべく、一定時間内に複数のオン/オフが発生しても最後の状態だけを有効にするデバウンス処理を行うが、これによってボタン連打の上限が決まってしまう。
だが、HITSの場合はチャタリング防止としてのデバウンス処理が不要であり、かつラピッドトリガーによって次の入力に必要な戻り距離を短縮することができる。ボタンを押し込む速度は人の操作でコントロール可能だが、戻る速度はバネなどの復元力に依存する。
プレイヤーの反応速度を阻害する要因がまた1つ取り除かれ、クリック操作はもはや単なる物理的イベントではなく、より身体感覚に近い反応へと進化したと言えるだろう。
クリック触覚フィードバックはオフを含めて6段階に設定できる。オフにすると本来のボタンそのものの、静音マウスが出始めた当時のようなクリック感のないフィーリングになるが、実際に試してみると深い位置まで押し込む際には割と重めの荷重が必要なようだ。
この状態でアクチュエーションポイントを浅くすれば、理論上は入力判定の機械的なタイミングは最小化されるはずだ。しかし、触覚がない分、押下成立の体感を伴わないため、リリースや次の連打において人間側の操作が安定しづらくなるというトレードオフがある。
個人の好みに大きく依存するところではあるが、今までにない新たなチューニング軸が登場した点は非常に興味深い。自分のセッティングが合っているのかどうか、他の人はどういったセッティングをしているのか、気になる人も多くなりそうだ。
そこで活用できる機能が、HITSコードだ。HITSコードはHITS構成をコード化したもので、コミュニティー内で簡単にHITS構成を共有することができる。とは言うものの、HITS構成自体それほど多くのパラメーターはなく、HITSコードによる恩恵もあまり感じなかった。
その一方で、感度についてはG Hubのコミュニティーで公開されているセッティングをダウンロードして利用できる。設定によって共有方法が異なるのは、やや混乱しそうだ。
筆者はFPSプレイヤーではないが、それでも浅いアクチュエーション設定でのレスポンスの速さははっきりと分かるレベルだ。G Hubでグラフィカルに表示される押下量を見ながらチューニングをしていくと、カチカチというクリック音が耳で聞いて分かるレベルで高速化される。SUPERSTRIKEはプロプレイヤー向け、とされてはいるが、一般プレイヤーに対する恩恵もかなり大きいと感じた。
●SUPERLIGHT 2の遺伝子を持つ歴史的名機へ
SUPERSTRIKEの進化は、ゲームチェンジャーというにふさわしい。「G900」が「ゲームでワイヤレスは使い物にならない」という常識を覆したように、SUPERSTRIKEは「クリック体験は物理的制約に縛られる」という前提を覆した。
ボディーデザインやセンサー、レポートレートなど、HITS以外の部分は、ほぼ前モデルのPRO X SUPERLIGHT 2を踏襲しているという点も、いたずらに新規性を打ち出すのではなく、完成度の高いモデルをさらに磨き上げるという姿勢と自信を感じさせる。それほどまでにHITSによる恩恵は大きい。
MX MASTER 4ではハプティック機能に否定的だった筆者だが、SUPERSTRIKEでは「これはロジクールにしかできない」とうならされた。マーケティング的な戦略もあると思うが、日本では「これらの機能を全部まとめてHITSと言います」というような包括的な説明にとどまっている。
今回、LogitechのWebサイトや海外のインタビュー記事など追っていくうちに、HITSは電磁誘導式とハプティック機能、そしてそれらを制御するマイクロコントローラーなど、全ての技術が高度にカチっとかみ合った結果、誕生した技術だと改めて認識するに至った。
もちろん、小難しいことを抜きにしても誰にでも実感できる身体感覚は、他のマウスとは一線を画している。クリック入力は物理イベントからプレイヤーが設計するものに変わった。同社の直販価格で2万9150円(2年保証の場合/1年保証2万6500円)という価格は、おいそれと購入できるものではないが、ゲーマーにとっては「いつかはSUPERSTRIKE」という憧れに足る歴史的名機と言っても過言ではないだろう。
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