
ふとテレビをつけると、引き込まれてついつい商品を注文してしまう……そんな経験は誰にもあるはず。
24時間365日、生放送で商品を紹介・販売し、お茶の間にさまざまな商品を届ける、日本初のショッピング専門チャンネルの「ショップチャンネル」が、今年で30周年を迎えた。時代はスマホ・ネット全盛へと移り変わる中、通販番組として変わらず愛されている理由は何なのか。
今回は、試験放送の時代から司会進行役として番組に出演しているキャストの根津ゆかりさんと、マーチャンダイジング本部長である佐藤多世子さんに、30周年の歴史を振り返っていただいた。
お茶の間に“外商”がやって来る感覚で…
「お客様にとっては『デパートの外商のように自宅に来て、話しながらすすめてくれる感覚』だったと思います」(根津さん)
ショップチャンネルは1996年、住友商事と米国のメディア会社による合弁事業としてスタートした。当時はまだ「テレビで買い物」という文化が珍しく、最初は週末のみ、生放送と録画を交え、衛星放送や一部のケーブルテレビなどで放映された。
|
|
|
|
当初はジュエリーやフライパンなど、外国製の商品が基本で、作り手が現地からやってきて、生放送で商品解説を通訳しながらのスタイルは日本初だったという。しかし“日本初”なだけに、商品紹介のノウハウなどは何もない状態。
また、今では信じられないことだが、初期は当日の放送直前まで紹介する商品が届かないこともあったという。
現在は、各ジャンルごとに専属のバイヤーを置き、ショップチャンネル独自の選定基準に基づいて、日本国内はもとより世界中から商品を買い付け、販売している。
1日で売れた掃除機、なんと5万台!
30年の歴史は、ヒット商品の歴史でもある。今でこそ誰もが知るブランドが、実はショップチャンネルから火がついたケースは多い。そのひとつが、今や知らぬ人のいないサイクロン式掃除機「ダイソン」だ。
「まだダイソンの日本法人が設立される以前より、商品を日本で最初にご紹介したのは弊社でした」(佐藤さん)
|
|
|
|
これまでにチャンネル初となる1ブランドを24時間紹介し続ける「24時間まるごとダイソン」など、多彩な企画を行っており、最高で1日に5万台、売り上げにして19億円以上(!)というチャンネル史上最高記録を売り上げた。
「美白のミューズ」こと中島香里さんでおなじみの「クリスタルジェミー」のブランド「チェンジ」も、コスメを通販で買うことは「ありえない」時代に大ヒットした。
今ではよく見かける、手に商品をつけて見せる「手デモ」と呼ばれる手法を一般化したのもショップチャンネルだ。どうしたら商品の滑らかさや塗ったあとのふっくら感が伝わるか、見せる側も撮る側も手探りで研究を重ねたという。
また、中島さんとの長年にわたる共演によってしばしば伏線回収のようなドラマも生まれた。開局当時、1回の放送で15セット売れたら「たくさん売れた!」というころ。
「今この数だとこの値段になってしまうが、お客様に気に入っていただき、たくさん売れるようになったら、必ず還元します」と中島さんが番組内で宣言。
|
|
|
|
実際、有言実行でその後、販売量が増えるにつれ、価格が下がり、大容量になるなど、当時から番組を見ているお客に長きにわたって愛されるロングセラーヒット商品となった。
スタジオと視聴者が一体感を覚える理由
「放送後に街を歩いていると『ゆかりちゃん、お仕事お疲れさま』と声をかけられることも多いんです」と根津さんが言うとおり、ショップチャンネルは視聴者との距離が近い。
キャストと視聴者の相乗効果で感動的なドラマを生むことも多いという。そのひとつが毎年恒例となっている年末の「カニ」の販売で起こった。
「豊洲市場に通称『善ちゃん』という卸業者の男性がいらっしゃるのですが、いつもお値打ちの価格で提供するために奔走してくださるんです。
その気持ちが画面越しからも伝わるのか反響がものすごく、善ちゃんが生放送中に男泣きしてしまったことが。こちらももらい泣きし、さらに反響も増えて、スタジオとお客様がひとつになったのを感じました」(根津さん)
このような「号泣回」は珍しいことではないという。
「お客様が商品調達や、その価格で提供することの大変さを実感しながら番組を見て、育ててくださっている証拠だと思います。双方向型のショッピングエンターテインメントなんです」(佐藤さん)
「台本がない」面白さ、伝説のハプニング!
ドラマが起こる要因のひとつは、30年前からずっと「台本がない」(!)という点だ。キャストは「プロダクトシート」という、情報をまとめた資料を頭に入れてからライブに臨むが、筋書きは用意されておらず、ハプニングはハプニングのまま放送される。
例えば、撮影スタッフが映り込むことは珍しくないというが、そんなときは「お母さん、あなたのお子さんは今頑張って仕事しています」などとアドリブでフォローを入れると根津さん。そんな中でも珍しく「しばらくお待ちください」が表示された回があると振り返る。
「チャンネル初期に、一人で耐熱ガラスのボウルセットを紹介していました。『こんなことをしても割れません!』とボウル同士をぶつけたら、バシャーン!と見事に割れてしまって(笑)
破片がキラキラキラ……とデモ用に用意していた食材にすべて降りかかり、そのとき『しばらくお待ちください』のテロップが流れて片づけられ、何事もなかったかのように次の商品紹介に移りました」(根津さん)
そんな放送事故となったボウルセットだが、なんと「売れた」。
「当時から購入したお客様からの生電話を受けていまして、その割れたボウルを買ってくれたお客様がいたんです。
どうしてかと尋ねたら、『そこまで自信満々にデモをするくらいだから、普段は本当に割れないんだろうな』と、逆に信頼をいただいて。そこから、今に至るまでお客様についていくと決めました」(根津さん)
ハプニングが、信頼に変わる瞬間がある。
推し活感覚で愛されて次の30年に向かう
現在、ショップチャンネルは24時間生放送を維持しながら、デジタル化にも力を入れている。しかし、どれだけ技術が進んでも、変わらないのは「心」だという。
「バイヤーが大切にしているのは、『なぜこの商品を作ったのか』という作り手の背景です。売れそうだから、という理由では商品を採用することはありません。作り手がいかに情熱を注いでいるか。それがなければ、キャストも熱を持って語れませんから」(佐藤さん)
「このキャストが好き、このゲストが好き、だから買う。親子でファンだという方もいて、本当に家族ぐるみで『推し活』をしていただいている気持ちです。そんな温かみのある場所を守り続けていきたいですね」(根津さん)
30周年となる今年は、特別な商品や特別企画を多数用意し、来年には数千人規模のファン交流イベントも計画しているという。
「これまでの30年は、お客様に育てていただいた時間。これからはテレビの枠を超えて、ポップアップストアやSNSなど、もっと身近な場所でお客様と触れ合いたいですね。ショップチャンネルファンのお客様を今の倍に増やすのが目標です」と佐藤さんは意気込む。
変わりゆく買い物の形の中で「誰かが真剣にすすめてくれる安心感」は、ますます価値を増すだろう。
ベテランキャスト・根津ゆかりさんが体験した
ショップチャンネル「ハプニング」回
事前情報なしに届いた商品は……
本番数分前というところで商品が届き、開けてみたら「大リーグ選手のトレーディングカード」。まったく門外漢のジャンルだったため、「日本ではなかなか手に入らないと思います」「レアです!」と、必死で乗り切ったという。
ダンスの効果が出すぎてしまい……
ベリーダンスのDVDを紹介するために一生懸命踊っていたら、突然激しい腹痛に襲われた根津さん。必死にこらえていたものの、耐えきれず退席することに……。
食べたら会話不能になった高級食材
商品のカニを試食しながら紹介していたところ、喉に詰まらせてしまい、一切しゃべることができなくなったことが。
大好きすぎて空回り……
もともと愛用していた車の洗浄スプレーを、いつもよりノリノリで紹介したものの、空回りしてしまったようで、ほとんど売れなかったとか……。「チーン、という感じでした(笑)」と根津さん。
教えてくれた人……ショップチャンネル キャスト・根津ゆかりさん&マーチャンダイジング本部長・佐藤多世子さん
取材・文/高松孟晋

