限定公開( 2 )

ちょっと「誤解」を解いておきたいのですよ。20周年のこの機会に。
2026年はプリキュアシリーズ第3作「ふたりはプリキュアSplash☆Star」(以下S☆S)の放送開始から20周年の記念イヤーです。
本作ほど長年「誤解」をされてきたプリキュア作品はないのではないでしょうか。
かつてネット上では売り上げ面などから「子ども人気がなかった」などの心ない言葉が並ぶこともありました。
|
|
|
|
しかし20年という歳月を経て、その評価は大きく変わりつつあります。
確かに本作は商業的には苦戦を強いられました。それは事実です。
しかし、決して「子どもに人気がなかった作品」ではないのです。
当時の資料やデータ、関係者の証言を見直すと、そこには少し違った「S☆S」の姿が浮かび上がってきます。
20年という時間がたった今、2006年当時の女の子向けコンテンツ市場の状況とともに、この作品の位置付けをあらためて振り返ってみたいと思います。
|
|
|
|
まずは、その事実関係を整理しておきましょう。
確かに「S☆S」は、商業的には苦戦を強いられていました。それは事実です。
2007年3月期のバンダイナムコHDのプリキュアトイホビー売り上げは、前年(マックスハート)の123億円から一転し60億円(昨対48.8%)と半分以下となってしまいました。
また劇場版の興行収入も前作の5億8000万円から3億円まで落ち込むなど、数字だけを見れば「苦戦」していた様子がうかがえます。
その主な原因は「玩具の売り上げ不振」だったようです。
|
|
|
|
玩具業界誌でも「変身おもちゃの販売数が半減した」(『月刊トイジャーナル』2006年4月号P87)と報じられています。
なぜ、そんな急激な下降が起きてしまったのでしょうか。
玩具業界誌では、「S☆S」不調の原因の一つとして「作品自体に変化がなくなってきている」(『月刊トイジャーナル』2007年2月P94)との指摘もあったように、初代「ふたりはプリキュア」と構成が同じように見えてしまい、玩具の購入が控えられた側面があったことも事実のようです。
前作が大成功してしまったばかりに、その「初代の呪縛」に苦しむこととなっていたのです。
しかし、実はもっと大きな要因がありました。
それは作品の出来とは無関係な、当時の女児向け市場を揺るがす巨大なライバルの存在だったのです。
当時のプリキュアを最も苦しめたもの。
それはセガが展開していた女の子向けアーケードカードゲーム「おしゃれ魔女 ラブandベリー」(以下ラブベリ)の大旋風でした。
カードを選び、オシャレをしてダンス遊びをするという「女の子の大好き」がギュっと詰まったこのゲーム。アミューズメント施設には多くの女の子が行列を作り、各地で開かれる大会にはたくさんの女児が集まり大盛況となりました。
最終的にはカード出荷枚数が2億6000万枚を超える大ヒットコンテンツとなっていたのです。
プリキュアの生みの親である鷲尾天プロデューサーも「ダントツの人気」だったと評しています。
鷲尾「その中でも「ラブandベリー」は「ふたりはプリキュア」放送開始から約半年後の二〇〇四年十月からスタートして、あっという間に情報番組やニュースにとりあげられるくらいダントツの人気になりました。女の子のニーズをよくとらえていたし、非常によくできていたと思います。
『プリキュア シンドローム!<プリキュア5>の魂を生んだ25人』(P75、幻冬舎)
ラブベリのブームは前作マックスハートのときに到来し、「S☆S」のときには絶頂期となっていました。
このラブベリの大ヒットにより、女児向けホビーの中心がテレビアニメの「ごっこ遊び」からアーケードカードゲームへと急速に移り始めるのです。
家庭で子どもに使用する金額は一定である以上、それまで女の子向けNo.1コンテンツであったプリキュアが大きく影響を受けることとなりました。
誕生日やクリスマスなどで子どもがプレゼントを買ってもらうときは、どうしてもそのときの「1番」が選ばれるため、2番手になってしまった「S☆S」のアイテムが選ばれにくくなったのです。
さらに当時は「きらりん☆レボリューション」の躍進、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」の大ヒットなど、子ども向けコンテンツの選択肢が急速に増えていた時代でもありました。
「S☆S」は、こうした女児向けホビーの主役が変わる転換期の真っただ中で放送されていた作品だったのです。
しかし、決して「S☆S」は子どもに人気がなかったわけではないのです。
それを裏付けるものとして、バンダイがかつて行っていた「お子さまの好きなキャラクターに関する意識調査」のアンケート結果があります。
「S☆S」の放送年である2006年も3〜5歳女子で「1位」を維持しています。
つまり当時の子どもの中でもプリキュアは「No.1の好きなキャラクター」だったのです。
言い換えれば、「スプラッシュスターは好きなアニメのNo.1だけど、今一番遊びたいのはラブベリ(カードゲーム)」という現象が起きていたのだと思われます。
子どもたちは決してプリキュアを見なくなっていたのではありません。
「S☆S」の売り上げの苦戦は「人気の低下」ではなく「消費行動の変化」によるものだったといえるのではないでしょうか。
時代の波にのまれてしまった「S☆S」。
しかし、この作品があったからこそ、20年以上にも及ぶ今のプリキュアシリーズの継続があることは間違いありません。
そこには2つの理由があります。
1つ目は「なぎさとほのかの“ふたりはプリキュア”から脱却」した点です。
キュアブラックとキュアホワイトを続けての「3作目」を作ることも考えられていた(むしろこれまでの女児向けアニメではそれが定番だった)のですが、鷲尾プロデューサーは「プリキュアをシリーズとして育てていくためには世界観とキャラを変える必要がある」とし、「S☆S」を作ったと後に語っています。
鷲尾 ブラックとホワイト、ルミナスを残して番組を継続するという従来通りの女児アニメの継続の仕方も選択肢としてありました。だけど、それではいずれ、数年後に先細りになるかもしれない。そこで『プリキュア』というタイトルを残して世界観とキャラクターを全て変えよう、と関係者と相談して判断したんです。
『プリキュアぴあ』(P85、ぴあMOOK)
従来の女児向けコンテンツの常識を捨て、「キャラと世界観を一新する」という決断はまさに「S☆S」から始まり、結果的に「毎年新しいプリキュアが登場するシリーズ構造」の原型となりました。
2つ目として、これは結果論になりますが「『S☆S』の2年目を作らなかった決断」にあります。
制作者サイドとしては、途中までは「S☆S」の「2年目」を想定し、準備を進めていたことが明かされています。
鷲尾 私は『Splash☆Star』の2年目を考えていたんですが、さまざまな周辺状況の中、1年で終わらざるを得なくなってしまった。私自身、この作品も2年続くと思い込んでいた慢心と油断があったと思います。でも、内容としては充実した良い作品をみんなでつくったという自負は今でもあります。
『プリキュアぴあ』(P85、ぴあMOOK)
しかし、商業的な苦戦が報告されたとき、「S☆S」の「2年目」を継続し、そのままプリキュアを閉じる選択もあった中、制作者側は大きな決断をすることになります。
「S☆S」の2年目を中止し、全く新しいプリキュアを作る決断をするのです。
鷲尾 そんな周囲の状況を受けて、社内では「来年はキャラクターを変更します」という報告をしたら当時の上司から「もう1年やってうまくいかなかったら『プリキュア』は終わるだろうし、鷲尾君もこの枠から離れることになると思う」と言われました。私は「わかりました。ただ四年目が子ども達に受け入れられて継続できたら五年目まではやりたいです」と話しましたね。「プリキュア5」は社内的にも背水の陣でした。
『プリキュア シンドローム!<プリキュア5>の魂を生んだ25人」(P76、幻冬舎)
「次がうまくいかなかったらプリキュアが終わる」と宣言された中、「プリキュアの本質」を徹底的に研究して生まれたのが翌年の「Yes!プリキュア5」です。
大胆なカラー別チーム制の導入や、おもちゃメーカー、出版社、音楽メーカーなどを集めた「番組制作委員会」的な組織の制定、さらにデータカードダスへの本格参入といった「攻めの姿勢」が生まれ、プリキュアシリーズは大躍進を遂げていくことになるのです。
「S☆S」は、プリキュアの「変えてはダメなこと」「変えないといけないこと」を浮き彫りにし、その決断があったからこそプリキュアシリーズは「伝統を守りながら壊す」という今のスタンスを手に入れることができたのです。
そして何より「S☆S」は、内容面も素晴らしいのです。
「花鳥風月」という日本の美意識を下敷きに、精霊の概念、シリーズ随一の美しい自然描写、キラキラでありながらダイナミックな空中戦はアクションアニメファンをうならせました。
また咲と舞の友情の物語はもちろん、キントレスキーやゴーヤーンといった個性的な敵キャラ、そして日向咲の妹みのりちゃんを通じて変わっていく霧生薫、霧生満の関係性の物語はシリーズ屈指のエピソードです。
全体的に明るい作風でありながら、その根底に流れる、“滅びゆくもの”と“生まれるもの”との「生命の再生」の物語は、今でも多くのファンに語り継がれています。
映像面の美しさに加えシナリオのクオリティーを一切落とさず、最終回まで描き切った製作者の思いが、シリーズ20年を超える歴史の始まりとなったことは間違いありません。
「S☆S」は確かに商業的には苦戦しました。
しかしそれは、プリキュアシリーズの方向性を見直す契機となり、その後のプリキュアシリーズの「変わり続ける」という選択をもたらしたのです。
もしこの作品がなければ、毎年新しいプリキュアが登場する構造も、毎年のようにテーマを変える作風もなく、20年以上続く長寿シリーズは生まれていなかったかもしれません。
花は咲き、鳥は舞い、風は薫り、月は満ちる。
20周年を迎えた今だからこそ、この名作プリキュアをもう一度見直してみてはいかがでしょうか。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。