
羽生結弦の単独公演『Yuzuru Hanyu "REALIVE" an ICE STORY project』が4月11日、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで開幕した。
羽生は、競技者時代からプロアスリートへ転向後に演じてきたプログラムを披露。休養期間中のメンテナンスを経て変化した身体でどう演じるのか。そして、その場でしか見られない一期一会のプログラムで"今ここに生きていること"を見せるーーそんな意図を持ったアイスショーは、サプライズも含むものだった。
【密度の濃い演技を披露】
第1部で演じたのは、2023年に東京ドームで開催した『GIFT』をはじめ、『RE_PRAY』、『Echoes of Life』といったツアーでのプログラムだ。その出だしは、静寂のなかで氷を削るブレードの鋭い音を響かせながら滑り出す『MEGALOVANIA』。一気に会場の緊張感を高めるような選曲と演出だった。
続く『Mass Destruction -Reload-』で冒頭のあいさつを兼ねるように観客席にも視線を向け、次の『Otonal』は競技時代のプログラムだが、プロ転向後はまだ演じておらず、「サプライズをこめた」と羽生は話す。きれいなトリプルアクセルを含む競技用のショートプログラム(SP)の構成を力強く滑った。
プログラムの合間には、羽生がフィギュアスケートを始めた頃からの過去の写真が投影され、かつてのインタビュー音声や栄光の記録の数々も紹介される。さらにプロ転向後のアイスショーや練習の姿を映し出す映像が続く。
|
|
|
|
「前半のソロプログラムは密度の濃いものが続いていて、ほとんど強い曲ばっかりで非常に大変でした。とくに今回は、1曲目から2曲目の間が1分ちょっとしかないなかで、スケート靴を脱がないですばやく衣装を着替えてそのまま出るという新しいことをやったりもしました。技術的にもすごく新しいことをやって、皆さんの反応もすごく気持ちよかったので、大変だけど頑張っている甲斐はあったなって思いました」
続いて『鶏と蛇と豚』。般若心経から始まり、分厚い音と赤一色の照明にさらされるなか、心のなかの情念を絞り出すような踊りを見せた。そのあとは『あの夏へ』だ。
氷上に水紋が広がる演出のなか滑り出し、柔らかく踊る。渦巻きを思わせるスピンを繰り返す構成のなか、羽生自身が水そのものになって伸びやかに踊っているような、しなやかな感性が染み渡る。これまで演じた数々のプログラムを穏やかな思いで振り返っているような温かさも感じさせた。
そして、『Utai IV: Reawakening』は祈りの舞。さらに休むことなく、「ある意味原点であるプロローグから」(羽生)と、『SEIMEI』のコレオシークエンスを滑る。まさに羽生結弦の世界を存分に見せる第1部の構成。それらを約40分で演じきるハードな演出だった。
第1部の終わりには、肉声で「ありがとうございます」と観客席に向けてあいさつした羽生が、30分の製氷休憩のあとに演じた第2部は20分以上も氷上にいる、これまでにないプログラムだった。
|
|
|
|
【続編で新しい挑戦へ】
「密度の濃いプログラムが続いた前半だけではなく、後半もすべて出ずっぱりで滑るという初めての挑戦だったけれど、それで自分の新しい価値みたいなものが生まれてくればうれしいなと思っています」
それは壮大な物語でもあった。
流れる風の音のなかで、うずくまる羽生のもとに空中から降りてきた檻(おり)。そのなかで歩き始める羽生。氷上に映し出された5カ所の正方形に象徴される世界をひとつずつ塗りつぶすように踊ると、紫、赤、黄色の光に取り囲まれる空間を通って、水の世界を走り回って、今度は氷の世界へ。そして水面に抜け出すと階段を上がって風の世界を突き進む。それから雲を突き抜けて星が瞬く宇宙空間へと旅を続けた。
最後は落下しながら踊り続けて白い世界へ。スクリーンにエンドロールが流れると、「To be continued ICE STORY 4th WHITE...」と次回のアイスショー開催の予告が映し出された。
この第2部の20分強の滑りは、『Prequel:Before the WHITE』と名づけられた羽生の書き下ろし原作をもとにつくられた『ICE STORY 4th』を予告する前日譚だった。
|
|
|
|
「『Prequel』は、『ICE STORY 4th』をやるぞということを念頭に置きながら、そこに向けての期待感を持っていただけるような、ワクワクできるようなものをひとつつくりたいと頑張りました。主人公がモノクロの世界から、徐々に外の世界の色を知っていく。出会いやその旅路のなかでだんだんと外の世界を知っていき、いろいろな感情が芽生えてくるストーリーにしたつもりです」
その曲はすべて、映画『国宝』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞と主題歌賞をダブル受賞した原摩利彦氏によるもの。振り付けは演出家のMIKIKO氏と共作だ。
「今回は全編オリジナルにしたいという気持ちがあり、原作をつくったうえで演出チームや映像チームと話し合って候補者をピックアップさせていただき、そのなかで摩利彦さんにお願いしたいなと。当初は全曲というプランではなく、摩利彦さんも忙しい方なので、『1曲、2曲だけでも』とお願いしたら、全部書きたいと言ってくださって。
自分が滑るところだけではなく、映像のところまで全部書き下ろしてくださり、自分が書いたストーリーに音色という色をつけてくださり、そのストーリーを聴覚で感じられるようにしてくださった。僕自身も、本当に滑っていて気持ちがいいというか、原作者としてもすごく物語を感じながら滑らせていただいています」
このアイスショーで羽生は、一期一会のプログラムとともに、新たな挑戦も見せてくれた。
