ADAC(ドイツ自動車連盟)のモータースポーツ代表を務めるトーマス・フォス 4月24〜27日、オーストリアのレッドブルリンクで2026年のDTMドイツ・ツーリングカー選手権が幕を開けた。そのレッドブルリンクで、DTMを運営するADAC(ドイツ自動車連盟)のモータースポーツ代表を務めるトーマス・フォスに、日本メーカーのGT3との関わりや、今も交流を続けているスーパーGTとの関係など、日独モータースポーツ関係について聞いた。
●厳しい時代だからこそ日独両国が力を合わせて自動車産業の盛り上げを
──先日、トヨタの新しいGT3カーであるGR GT3がニュルブルクリンクの北コース(ノルドシュライフェ)で初テストを行い、世界中の話題と期待を呼びました。ADACのモータースポーツ代表として、あなたがすでにケルンのトヨタ・レーシングと来年のDTM参戦へ向けてのコンタクトを取っているとの情報を耳にしたのですが、それは本当でしょうか?トーマス・フォス(以下TV):それに関しては以前からケルンのトヨタの関係者と話をしているけど、もちろんトヨタだけではなくすべてのGT3メーカーとは常に連絡を取り合っているよ。DTMに参戦するすべてのメーカーから、DTMを通じた市販車のプレゼンテーションとして良いフィードバックを得ている。特に外国メーカーにとっては、ドイツの自動車メーカーがひしめく中で地盤を固め、存在感を示したいという考えを持っているからだ。
トヨタはスープラGT4がDTMのサポートシリーズであるADAC GT4やNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)、ニュル24時間といったドイツやヨーロッパの主要レースで活躍しているが、市販車の販売終了にともない、次期モデルの構想も必要になってくるかもしれない。GT4の件も含め、トヨタの新GT3カーの件もしっかりとADACの高い関心事として視野に入っていることは間違いなく、我々は間違いなく彼らと協議を進めている。
──トヨタはDTM参戦への興味や意志をADACに対して示しているということでしょうか?TV:簡単な質問に、簡単な答えだね。……回答はイエスだ。
しかし、どのメーカーにも当てはまる課題がある。すなわちデビューさせるまでに、まずはしっかりとクルマを完成させなければならないというのが最も大変な作業のひとつだ。その前にはFIAのホモロゲーションを取得する必要や、ベース車両となる市販車との兼ね合いもある。それらの一連の大変な作業を私たちは十分に理解をしている。
それはトヨタにとってDTMに限らず、日本のレースもそうだし、世界中のGTレースへの参戦準備をすることにもすべて当てはまることで、いま彼らは正式デビューに向けて、精力的にさまざまな工程をこなしているところだと思う。
現在、IMSAやWECに参戦しているレクサスRC F GT3は、他メーカーの車両と比較してもお世辞にも最新の車両とは言い難い。だが、新車ができたからと言って、急かしてDTMへの参戦を促しているのではなく、万全の準備と体制を整えてからでも十分遅くはない。ニュルでの初テストでドイツはもちろんのこと、世界のレース主催者やファンがその新GT3の存在を深く認知し、そのデビューの日を心待ちにしている。その状況は変わらないよ。
──トヨタGR GT3と同様に、メルセデスAMGの新型GT3カーもデビューが近づいているようです。TV:こちらは量販車の開発の関係もあり、当初よりもずいぶん遅れているようだが、昨年末に少し情報をアップしていたので、少しずつ進展しているようだ。トヨタもメルセデスAMGも、モータースポーツ部門だけでレーシングカーだけを開発するのならば、恐らくもっと早く進んでいるのだろうが、GT3やGT4など、昨今のレーシングカーは量販車と非常に密接に関係しているので、双方で足並みを揃える必要があり、方針が共通でなければならない。
モータースポーツは自動車業界にとっても非常に大切な活動であり、それは逆も然りだ。メーカーにとってはレーシングカーと量販車が並行した開発ラインと方針が定められており、非常に複雑な作業だということは言うまでもないが、トヨタはそれを成し遂げる能力があることをすでに何度も証明してきている。新GT3が待ち望まれているのには、きちんとその価値と理由があるんだ。
トヨタは、ほぼすべての世界選手権に参戦し、成功を収めているメーカーのひとつで、WECはもちろんのこと、ハースとの提携でF1にも参戦し、WRCをはじめ、数多くのシリーズで『GR』のブランディングを強化している。レース活動を通して、市販のGRモデルの信頼性の証明とブランドの確立を遂げている。
──トヨタの新GT3カーが待ち望まれている一方で、日本メーカーで言えば残念ながら現状ではニッサンとホンダのGT3の後継モデルは現れていません。TV:どのカテゴリーであれ、メーカーが撤退するのはモータースポーツにとっては常に少なからず痛手となることは間違いない。WECのハイパーカークラスでは、現時点ではそれほど悪い状況ではなく、今季はジェネシスが参入し、フォードやマクラーレンが次に加わることが発表されている。とはいえ、メーカーが市場から撤退する時には、経済的な理由が大半なのだが、ブランドの方向性が変わったと主張することもできるだろう。
例えば、ホンダがIMSAへの参戦休止を表明したが、インディカーやF1のサプライヤーとして依然として関わっていることを考えると、モータースポーツには関わりを続けている。しかし、メーカーがそのような活動から撤退するのは、モータースポーツ業界にとって常に少なからずマイナスの兆候だといえる。だからこそ、同じ業界に関わる者としては残念なことだ。
もちろん、ホンダはスーパーGTにはHRCプレリュードGTでGT500クラスに参戦を続けているし、そのニューマシンは注目されているだろう。プレリュードのベース車両はハイブリッド車。その前にはシビックの4ドアが採用されているが、GTアソシエイションとしても配慮をしてホンダが活動を継続できるように努力もしているのは感じられる。
ホンダやニッサンに限らず、ドイツでも自動車メーカーやそれに関わるサプライヤーが経済面で厳しい局面に立たされている。ドイツも日本も国の経済を担う自動車産業がなかなか先を見通せない。このような時代だからこそ両国が力を合わせて、我々のモータースポーツを通じて、自動車産業を盛り上げていかなければと思っている。
●「バンドウさんには礼を言わなければ」今後もスーパーGTとの交流を望む
──昨年のDTMの最終戦にはGTアソシエイション坂東正明会長がホッケンハイムにお越しになりましたね。TV:“テクノロジー・オープン(技術開放型)”を掲げた次世代の技術規則コンセプト『XT1』の発表をした際に招待をして、来独いただいた。これについて日本の自動車メーカーが、もしくはドイツの自動車メーカーがどれだけ興味を示すのかはまだ分からないが、時節柄、自動車業界を取り巻く環境は日々変化を繰り返しているだけに、将来を見据えた未来のレースの構想を少しずつすべきだと考えている。
バンドウさんとはこの時だけではなく、年に何度も会う大切な仲間だ。世界には主要なプロモーターはさほど多くはない。その中で横のつながりは非常に大切だ。昨年はホッケンハイムの後、11月のSROのシーズンエンドパーティがイタリアのベネチアで開催された際にバンドウさんと同じテーブルだったこともあり、その席でもいろいろなことについて話し合った。彼からスーパーGTの状況を伺うのはとても参考になるし、彼にとってもDTMの状況をいくつか参考にしてくれていると嬉しく思う。SRO、IMSA、ACOなど、世界の主要なプロモーターが結束してこの業界の維持と発展について、一緒に解決をしていくのは必要不可欠だ。
──スーパーGTでは2025年にスプリントレースが富士スピードウェイで開催されましたが、DTMドライバーからも再び日独交流戦を望む声を聞いています。それについてはいかがお考えですか?TV:もちろん、私たちの方にもそのような声が寄せられているし、日独両国のドライバーのモチベーションにもなるし、ファンを楽しませられることは間違いないだろう。2019年にまだゲルハルト・ベルガーがトップを務めていた頃のクラス1の交流戦の時、チームやファンからのフィードバックを聴いているだけに、再び壮大なイベントが開催できるのならば、それ以上に嬉しいことはないだろう。
しかし、バンドウさんはスーパーGTとDTMが交流戦をするのならば、GT500クラスとの対決を望んでおられるの。ただ残念ながらドイツにはもうクラス1のマシンはない。世界基準となったGT3での交流戦にするとGT300クラスのマシンが参戦できるし、GT500クラスに参戦しているドライバーだってGT3マシンはドライブできるのだけどね。
──いよいよスーパーGTでも来シーズンからタイヤがワンメイク化されます。TV:かつてのDTMがそうだったように、数多くのタイヤメーカーの参入はレースをよりコンペティティブにし、チーム関係者やドライバー、ファンにとっても興味深いレース展開となることは間違いないので、スーパーGTでもワンメイク化の決断は決して容易なものではなかっただろう。ただ、それには良い部分だけではなく、高額な費用面の他に、公平性という意味では必ずしもフェアではない。
誰がどの優位なタイヤを与えられるのかという、レースの前からある程度の優劣が分かれている部分があるのも事実で、特にプライベーターにとっては最初からレースに厳しい条件で挑まなければならない部分でもある。
ワークスチームやワークスサポートを受けているチームならば資金的な問題は少ないかとは思うが、プライベーターにとってタイヤ代金はかなりの負担となっており、全チームに同じクオリティのタイヤが渡り、同じ金額で提供されることで少しでも負担を軽減する努力をプロモーター側でもする必要もあるんだ。タイヤのことだけではなく、持続可能な燃料のこともバンドウさんとは何度も意見交換をしている。
──レースをプロモートするということには、昨今では単なる競技としてをレースをするだけではなく、娯楽の多様化が広がる中で来場者を増やすために、さまざまな努力が必要ということですね。TV:もちろん、レースはサーキットを訪れて五感で愉しむのがいちばんだが、必ずしもサーキットに足を運べない方もいる。そのために、ドイツでは地上波キー局のPro7で生放送を行っているほか、専門のYoutubeチャンネルでレースをライブ放送し、ソーシャルメディアの活用を行い、世界中どこにいてもDTMを身近に感じてもらえる努力をしている。
また、サーキットにおいては、憧れのレーシングドライバーをより身近に感じてもらえるようなイベントや、ベルガーの時代から始まったファン向けにピットを開放して、ピットロードの様子をより身近に体験してもらえるようにするなど、企業努力を怠ってはいけないと思っている。
その中でも親愛なるスーパーGTからいただいたサーキットサファリ(DTMではトラックサファリと呼ぶ)は4年目に入り、年々その人気は高まるばかりだ。バンドウさんにはお礼を言わなきゃいけないな(笑)。
いまやバスの運行台数を増やしているほどの人気で、早々にそのチケットも売り切れている状態で、そのチケットはクリスマスや誕生日プレゼントにも喜ばれているんだよ。このように、私たちDTMではスーパーGTとの交流を喜んで続けていきたいと思っているし、お互いのアイデアで両国のファンが、そのレースウイークを存分に楽しんで笑顔でサーキットを後にしてくれたら、こんなに嬉しいことはないだろう。
[オートスポーツweb 2026年05月02日]