国会議員定数削減の話は、いつもなぜ進まないのか? 佐藤優「理由は2つある」

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2026年05月07日 09:10  日刊SPA!

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※写真はイメージです
―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―
“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える本連載。今回は議員定数削減になぜ野党は反対するのかという疑問に佐藤優が丁寧に答える。

◆なぜ野党は議員定数削減にすぐ賛成しないのか?

★相談者★定時退社(ペンネーム) 会社員 55歳 男性

 日本維新の会が求める議員定数削減を早く実現してほしいです。吉村洋文さんが言っているように、かつての民主党は80議席減らすと言ってました。みんな賛成すると思っていたのですが、反対意見が多いと報道されています。国民が物価高で苦しんでいるのですから、少しでも国費負担を減らすために議員を減らすべきでしょう。なぜ、今になって野党は反対するのでしょうか?

◆佐藤優の回答

 議員定数の削減について、野党が簡単に賛成しないのには、2つの理由があります。第一は、現実的な問題で、こういう定数削減が自民党に有利に働く可能性が高いからです。特に比例区の定数を削減することは、少数政党に不利に働きます。そもそも小選挙区(1人区)が衆議院議員定数の約3分の2を占める現行制度は、2大政党制が日本に定着するとの前提で組み立てられたものです。しかし、2大政党制が定着しませんし、今後も定着しないでしょう。比例区を減らすことは、野党にとって不利になる可能性が高いのです。だから反対するのは野党として当たり前です。

 第二は原理的な問題です。国会議員の歳費などのカネがもったいないということならば、一気に議員定数を100人に減らしてもいいはずです。100人に減らしても、国民の代表であることに変わりありません。そうなると定数が5人でも問題ないということになります。最終的には民意が体現されているならば、1人による独裁でもいいということになります。イタリア・ファシズムの指導者だったベニート・ムッソリーニはこんなことを言っています。

〈ファシズムは人間社会の方向性を決定するのに際して単に数的優勢のみを重視する多数決の原理を否定する。多数派が繰り返し議会に法案を提出することで統治を行うのではなく、普通選挙権などという本質的に外れな制度では測ることのできない、有益かつ寛容な不平等こそを実現するのである。民主主義体制は、人々が彼ら自身の主権を振るっているという錯覚を以って描かれるものの、その実質的な主権は無責任かつ秘密的な他の影響力によって行使される。民主主義とは君主の存在なき体制であるが、そこにはたった一人の暴君よりもさらに専制的・圧政的・破壊的な無数の「君主」達が群がっているのである。〉(『ファシズムの原理 他三篇』67頁)

 政治における効率性を追求しすぎると、民主主義の基盤を崩してしまいかねません。国会議員にカネがかかるという理由で定数削減を進めるという発想自体に危険が潜んでいます。民主主義は、複雑で意思決定に時間がかかります。しかし、ファシズムや共産主義のような独裁政治よりも民主主義のほうが圧倒的多数の民衆に幸せをもたらすと私は考えます。民主主義は非効率で、無駄も少なからずありますが、だからこそ政治指導者による極端な過ちを防ぐことができるのです。議員定数の削減についても本当にその必要があるか、国会で徹底的な議論をした上で結論を出すべきだと思います。

★今週の教訓……効率を追求しすぎると民主主義の基盤を崩す

※今週の参考文献『ファシズムの原理 他三篇』ベニート・ムッソリーニ他(竹本智志・下位春吉訳)紫洲書院

―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数

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