ワシントンD.C.で人気を集める「コウ ジャパニーズ ダイニング」「日本人は物静かに食べ、アメリカ人は店員を質問攻めにする」――アメリカで暮らしていると、レストランでの日米の違いを実感する場面は少なくない。実際、日本人客とアメリカ人客では、振る舞いにかなり違いがある。
ワシントンD.C.とその近郊の日本人は、ニューヨークやロサンゼルスに比べるとかなり少ない。日本食レストランもそれほど多くない。
もっとも近年は、アメリカでの日本食人気の高まりを背景に、居酒屋やラーメン店も増えてきた。一方で、「あれ?」と思わせる味やメニューを出す“アメリカ流にアレンジされた和食店”が少なくないのも実情だ。
そんなD.C.で、本格的な和食を提供すると評判なのが、「コウ ジャパニーズ ダイニング」。オーナー、シェフが共に日本人で、家族経営。日本大使館関係者や在住日本人、日本で暮らした経験のあるアメリカ人も足を運ぶ人気店だ。
今回は、接客担当、シェフ、オーナーに、日本人客とアメリカ人客の違いについて話を聞いた。
◆“空気を読む”日本式接客を意識
まず接客担当のカーラさんに話を聞いた。
「コウ ジャパニーズ ダイニング」で働き始めておよそ2年。現在は店で最も長く働く接客スタッフとして店を支えている。立命館大学とアメリカン大学の共同学位プログラムの一環で、京都に2年間留学した後、アメリカへ戻ってきたという。
日本に興味を持ったきっかけを聞くと、「少し恥ずかしいのですが」と前置きしつつ、アニメの影響が大きかったと語る。
「『プリキュア』とか『アイカツ!』みたいな作品が好きでした」
カーラさんは、日本人客とアメリカ人客で“距離感”を変えている。
日本人客とは会話することもあるが、自分から積極的に話しかけることは少ない。むしろ、相手から話しかけられたり、「今なら話しても大丈夫そう」と感じた時に声をかけるという。
「日本に2年間住んでいた経験が、接客にも役立っています。日本では“空気を読む”ことや、“相手の反応を見る”ことがとても大事なので、それは特に意識しています」
一方、アメリカ人客は質問が多いという。カーラさん自身も、「これは本当におすすめです」と、丁寧に説明するようにしているそうだ。
「『これが和食の味ですよ』と伝えると、アメリカ人のお客さんは安心するんです」
カーラさんによると、アメリカ人客は大きく2タイプに分かれる。
1つ目は、アメリカ風にアレンジされた日本食に慣れている層だ。彼らは「え? これが和食?」と警戒気味で、矢継ぎ早に質問してくることもある。
ただ、実際に食べてみると、「すごく美味しい」と驚く人もいれば、「これは違う」と不満を口にする人もいるという。
「アメリカ風の寿司に慣れている人は、『この寿司は違う』『正しい作り方じゃない』と言うこともあります。アメリカでは、“日本食とはこういうもの”というイメージがすでに出来上がっているんです」
一方で、日本で暮らした経験のあるアメリカ人客は、むしろ伝統的な料理を好む傾向があるという。
揚げ出し豆腐や卵焼きは特に人気メニューだそうだ。
◆日本人は“いつものメニュー”を頼む
日本人オーナーのミキさんとアメリカ人の夫、その息子2人も店を支えている。長男のクリスさんは、バーテンダーを務めるほか、大学で学んだ経験を生かしてマーケティングも担当している。
クリスさんは、日本人客とアメリカ人客の間には「かなり違いがある」と話す。
「日本人客は、静かで落ち着いた空間を好む傾向があります。一方、アメリカ人客は、周囲に人がいて、会話が聞こえてくるような賑やかな雰囲気を楽しむ人が多いです」
さらに、注文の仕方にも違いが見られるという。
「日本人の常連さんは、いつも同じものを注文する傾向があります。慣れているものを好むというか、“いつものメニュー”を頼む人が多い印象です。一方、アメリカ人客は、日本文化をそこまで知らない人ほど、警戒しながらも『いろいろ試してみよう』という感じがあります」
◆“自分の知っている和食と違う”と驚くアメリカ人客
次男のジョーさんは、接客やバーテンダーのほか、給与管理など裏方の仕事も担当している。
日本人客とアメリカ人客の違いについて聞くと、まず挙げたのが「声の大きさ」だった。
「アメリカ人のお客さんの方が、やっぱり賑やかですね。日本人のお客さんは控えめで静かです」
さらに、注文する料理にも違いがあるという。
日本人客は、生姜焼きをよく頼む。一方、揚げ物好きなアメリカ人客は、唐揚げやトンカツを注文する傾向があるそうだ。
また、日本人客は、本物のわさびを使っていることなど、他のアメリカの日本食店ではあまり見られない細かな部分にも気づくという。
ジョーさんは、日本人客に日本語で話しかけると、「あっ、日本語を話せるんだ!」と驚かれ、表情がパッと明るくなる瞬間が嬉しいと話す。
一方、アメリカ人客はとにかく質問が多い。
例えば、あら汁を出すと、「これは何?」と驚かれたり、「自分の知っている和食と違う」と言われたりすることもあるという。
ジョーさんは、アメリカ人客は小鉢を残すことが多いと話す。一方、日本人客はほとんど残さないという。
◆“客の8割がアメリカ人でも、日本人に認められる味を”
客の顔を見なくても、どの料理を注文しているかで、日本人かアメリカ人かはわかると話すのは、シェフの黄谷さんだ。15歳から料理の世界に入り、和食、懐石料理、天ぷら、寿司など幅広く経験してきたという。
黄谷さんは「アメリカ人と日本人では明確な違いがある」と話す。
「アメリカ人のお客さんはロール系や揚げ物が多いですね。一方で、夜にうどんやそばの天ぷらセットを注文するのは日本人のお客さんが多いです」
ワシントンD.C.周辺の日本食レストランの味については、「日本人が食べる和食とは、少し違いますね」と苦笑する。
そのため同店では、“純和風”を意識してメニューを作っているという。
「僕がメニューを全部考えています。立ち上げの前は1か月くらい寝ずに考えました」
ただし、アメリカでは食材や水の違いが大きく、同じ味を再現するのは簡単ではないという。
「ダシを取る水も違いますし、みりんも瓶ごとに甘さが違う。醤油も違うので、その都度味を微調整しながら、同じ味になるようにしています。そこが一番大変ですね」
また、長くアメリカで暮らす日本人についても、味覚の違いを感じるという。
「日本の味をそのまま出すと“薄い”と言われることもあるので、少しだけ濃いめに調整しています。そのほうが“ちょうどいい”と感じてもらえるんです」
アメリカの天ぷらについては、独自の特徴があると指摘する。
「こちらの天ぷらはフリッターに近いですね。衣の作り方や温度管理が違うので、日本の天ぷらとは別物だと思います」
日本人とアメリカ人では味覚が違う。しかし黄谷さんは、「客の8割がアメリカ人でも、日本人が“おいしい”と言ってくれることがベースです。そのうえで少しアメリカ寄りに調整しています」と語る。そのうえで、こう続ける。
「日本人にもアメリカ人にも“おいしい”と思ってもらう。そのバランスが一番大事です」
◆「オーマイゴッド!」本物の和食に驚くアメリカ人客
最後に話を聞いたのは、オーナーのミキさんだ。店は6月1日でオープンから2年を迎える。
ワシントンD.C.という土地柄について、こう語る。
「日本文化を知ってくれているアメリカ人が多いんです。それが本当に嬉しいですね。私たちも、そういう人たちに来てほしいと思っています」
「日本文化を理解したうえで食べてもらえると、本当に嬉しい。でも、何も知らずに『何これ?』と言われると、ちょっと悲しいですね」
同店では、ソースやドレッシング、カツ、唐揚げまで、できる限り店で一から作っているという。
「ちゃんと作っているから、自信があるんです」
そのため、初めて本格的な和食を食べるアメリカ人客に対しては、「まず食べてみて」と勧めることもある。
「『本当に嫌だったらお金はいらないから』と言うこともあります。でも実際に食べると、『オーマイゴッド!』って(笑)。『こんなの初めて食べた、おいしい!』と言ってくれるんです」
特に反応が大きいのが、日本から仕入れているホッケだという。
「アメリカでは、サーモンやサバはあっても、ホッケはほとんどありません。だから、『何だ、この魚は? おいしい!』って驚かれるんです」
その結果、ホッケを目当てに来店する常連客も増えてきたという。
また、日本人には当たり前でも、アメリカ人には珍しい料理も少なくない。
「今日のランチでも、おにぎりを知らないアメリカ人のお客さんがいました。『これは何?』と聞かれたので、中にサーモンや明太子、梅が入っていると説明したら、『ワオ!』って(笑)。実際に食べたら『すごくおいしい』と言ってくれました」
また、日本人客には“シメ文化”も根強いという。
「夜は完全に居酒屋ですね。皆さん、前菜をいろいろ頼んで、最後はお茶漬けです(笑)」
「『もう閉店だけどどうする?』って聞くと、『じゃあ、お茶漬けで』って(笑)」
一方、アメリカには“シメ”の文化がないため、最初は不思議そうに見ている客も多いという。
「アメリカ人のお客さんって、周りをよく見てるんですよ。『あれ何? 僕も頼みたい』って」
そうやって、日本人客の食べ方を見ながら、新しい和食文化に触れていくアメリカ人客も少なくないようだ。
<取材・文/阿部貴晃>
【阿部貴晃(海外書き人クラブ)】
アメリカ在住のジャーナリスト。日系メディアのワシントン支局で20年以上、国際関係を中心に報道し、ホワイトハウスや米国の政治・社会、国際情勢を取材。2025年4月よりワシントンDCを拠点にフリージャーナリストとして活動。日米関係やワシントンDCから見たアメリカについて執筆している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員