
今年で10回目を迎えた、日本最大級の日本食文化の祭典「CRAFT SAKE WEEK 2026」(以下、クラフトサケウィーク)が、2026年4月17〜29日に東京・港区の六本木ヒルズアリーナで開催された。
今回は過去最長となる13日間の開催で、過去最多となる計130蔵が参加し、1日10蔵ずつ日替わりで登場。レストランも20店舗がローテーションで出店した。
クラフトサケウィークは、元プロサッカー選手で実業家の中田英寿氏が代表取締役を務めるJAPAN CRAFT SAKE COMPANYが、2016年から開催しているイベントだ。日本酒を軸に、日本食文化の魅力を国内外に発信し続けている。
これまでの累計来場者数はのべ155万人(今回開催分も含む)。単なる試飲イベントにとどまらず、日本酒の価値を再定義し、その可能性を広げる場として、年々存在感を高めている。
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近年、クラフトビールやクラフトジンなど、地域に根づいた職人技による食文化への関心が高まっているが、クラフトサケもそうした潮流の一つと言えるだろう。レストランや食品メーカーも巻き込み、日本の食の豊かさと可能性を国内外に発信していることがクラフトサケウィークの魅力だ。
こうした動きは縮小傾向にある日本酒市場にどのような可能性をもたらすのか。今回のイベントの内容を振り返りながら考察したい。
●日本酒の“今”を知る場に
今回のイベントに集結したのは、日本全国の130蔵だ。中田氏をはじめ、日本酒の専門家、一流シェフ、ソムリエなど約200人が、全国約400蔵の日本酒を試飲して選んだ酒蔵である。
期間中は毎日テーマを変え、10蔵ずつが日替わりで登場した。
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例えば、開幕日の4月17日は「祝・10周年、awa酒で乾杯の日」をテーマに、秋田清酒「出羽鶴」、山梨銘醸「七賢」など10蔵が登場。18日は「未来を作る、SAKE NEXTの日」として、秋田県の新政酒造「新政」などが出店した。19日は「ニュースタンダード、進化する酒蔵の日」をテーマに、三重県の木屋正酒造「而今」などがピックアップされた。
このように、日によって趣向の異なる10蔵ずつが入れ替わるため、日本酒好きのみならず、外食関係者や食材卸などのお酒のプロにとっても、毎日でも通いたくなるイベントとなっていた。
また、酒瓶を持った蔵元スタッフたちが会場内を巡回しており、コミュニケーションを取りながらお酒を購入できるのも、来場者から好評だったポイントだ。
●料理との組み合わせで広がる日本酒の可能性
お酒に合うアテやシメを提供するレストランの充実も、クラフトサケウィークの魅力である。
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レストランは4つの期間に分け、計20店舗が出店した。
4月17〜20日は、創作料理「厨 七代目松五郎」が、映画に登場する人気メニューを再現した「キューバサンド」を提供。また、中田氏も推薦する隠れ家イタリアン「ess.」では「白トリュフが香るポテトフライ」を提供するなど、日本酒と洋食のさまざまなマリアージュを提案していた。
4月21〜25日は、食品・食材のメーカーがレストランとタッグを組み、日本酒に合うメニューを提案する期間だった。香りが高いショウガを手掛ける「坂田信夫商店」がギョーザの「歩兵」と組み、ショウガの効いたギョーザやパンを提供。日本最高の塩職人と言われる「田野屋塩二郎」が人気居酒屋の「中目黒弥之助」と組み、から揚げやフルーツトマトなどを提供した。
4月29日の最終日には、ミシュラン三ツ星を16年連続で獲得している「神楽坂 石かわ」、中華の名店でミシュラン掲載の「富麗華」など、有名レストランが出店した。
日本酒が主役のイベントでありながら、洋食レストランが出店し、複数の企業がレストランとコラボする。こうした多様な料理との組み合わせから、日本酒の新たな可能性を感じられるのも、このイベントの特徴だろう。
●シーダに注目
企業とレストランのコラボで特に目を引いたのは、味の素が2024年に発売しただしの新ブランド「SIIDA(シーダ)」だ。今回のイベントでは、東京・学芸大学の居酒屋「件(くだん)」とコラボ。特別メニューを提供するレストランブースを展開した。
件は2004年に東京・学芸大学駅前の裏路地にオープンした、おでんと日本酒が売りの居酒屋だ。関西風の透明なだしを使ったおでんをはじめ、日本酒が進む多彩な料理を取りそろえる。蔵元との深い付き合いにより、都内でも同店でしか飲めないような幻の酒が楽しめるのが特徴だ。
昨年もシーダと件のタッグで出店し、「だし漬け枝豆」などが好評だった。今年はメニューを一新し、だしが効いたソーセージやだしがらを混ぜ込んだえいひれなどの創作メニューで挑んだ。
シーダは通常オンラインで商品を販売している。ただ、今回はレストランとは別にブースも設け、実際にパッケージを手に取り、だしの試飲もできる物販ブースも出店した。
シーダのだしパックは、「焚(HUN)」「燻(KUN)」「酵(KOU)」の3種類がセットになっている。「焚」はたき火を思わせる力強い風味、「燻」はスモーキーで芳醇な風味、「酵」は発酵・熟成させた本枯れ節を使った上品でまろやかな味わいが特徴だ。
(筆者撮影)
ロングセラーの「ほんだし」で知られる味の素だが、シーダではかつお節を一般的なだしパックより増量。機械では代替できない職人の手仕事の魅力を製品化した。大量生産の調味料をイメージする味の素らしからぬ、「クラフトだし」の商品だ。
シーダという商品名は「だし」を逆から読んだもので、だしの常識を覆したいという思いが込められている。だしになじみが薄い世代に、その魅力を広げたいという味の素の姿勢は、日本酒の新たな価値を伝えようとするクラフトサケウィークの方向性とも重なる。
なお、出店のメリットとしては、生活者のリアルな声や感想を聞くことができ、製品へのフィードバックに活かせる点が大きいという。
●縮小する日本酒市場に必要なのは?
日本酒は地酒ブームや和食人気を背景に、海外での需要が伸びている一方で、国内の製造数量は最盛期だった1975年の3分の1程度にまで縮小。令和に入ってからも、清酒の製造数量は2019年の約34万キロリットルから2023年には約30万キロリットルへと減少している。
この流れを食い止め、日本酒の伝統を守り次世代へとつなげていくためには、酒蔵単体の努力だけではなく、業界や領域を越えた戦略が求められている。
その意味で、大手メーカーや腕利きの飲食店を巻き込んだクラフトサケウィークのような取り組みは、日本酒の新たな可能性を広げる場と言える。
このクラフトサケウィークを、中田氏は実業家としてゼロから育て上げてきた。イベント開催中には自身もトークセッションのホストを務め、蔵元の経営者、ミシュランシェフ、陶芸家などと対話を重ねた。そこで語られていたのは、クラフトサケなどの日本文化を、具体的な産業戦略に落とし込み、100年後にも残していくために、どうアップデートするかという視点だ。
日本酒を守ることは、昔ながらの形をそのまま残すことだけではない。酒蔵、飲食店、食品メーカー、そして異分野の専門家まで巻き込みながら、新しい価値を伝えていくことでもある。
クラフトサケウィークのような取り組みが広がっていくことは、縮小する日本酒市場を打開する一つの手がかりになりそうだ。
(長浜淳之介)
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