画像はイメージです「熟練スタッフ」は店舗運営の要だが、時として長く変わらない人員配置は歪んだ権力構造を生んでしまうことがある。高い売上を誇る優良店の裏側で、長年放置されていた醜悪なハラスメントの実態を、当事者が告白してくれた。
ホームセンターで勤務している安住翔太さん(仮名・29歳)。安住さんが新卒で配属された店舗は、売上の良い優良店であったが、配属先には強権を持つパートスタッフが君臨していた。
◆ベテランに気に入られた結果、厄介なことに
「運営を実質的に仕切っていたのは、勤続20年以上のベテランパートの寺内さん(仮名)でした。最初は仕事熱心なリーダーに見えたんです。丁寧にサポートしてくれる上に、新米にも関わらず自分を社員として立ててもくれて。良質な環境に配属になったなと思っていました」
アイテム数が多く専門的な質問も多いホームセンターにおいて、ベテランスタッフの存在は店舗の売上をも左右する重要項目だ。安住さんは、懇親会の席で、中心人物である寺内さんに『いつも頼りにしています』と伝えたのだが……言葉を掛けた事実が地獄の始まりであった。
「それから寺内さんからプライベートなことを根掘り葉掘り聞かれるようになりました。異性との交際について聞かれ、1カ月でフラれたことがあるとかそんな話です。最初は、会話に絡めた冗談を言われる程度だったんですが、次第にエスカレートしていきました」
◆インカムで卑猥な揶揄が垂れ流される
さらに寺内さんは「業務用のインカム」を悪用するようになった。他のスタッフも聞いている通信網で、安住さんへの卑猥な揶揄を垂れ流し始めたのだ。
「『早漏でフラれた安住くん、レジお願い』とか、『安住くんのアレは何々の小ネジより小さい』とか……。早漏なんて話はしておらず、勝手に下品な尾ヒレをつけて、インカムを通じて平然と言ってくるんです。他の女性パートたちも発言に同調して笑う。いくらやめるよう伝えても、困る自分を茶化すのが快感らしく、言い続けてくる。逃げ場のない共有の電波で辱めを受け続け、精神をすり減らす日々でした」
さらに、若い女子アルバイトが入ってくるたびに、寺内さんは安住さんを「性犯罪者」予備軍のように仕立て上げた。
「『安住くんがアナタのお尻を見てた』とか『早漏の安住くんがアナタと変なことしたいみたいだから気をつけて』などと根も葉もない噂を流し、若い女性たちの前でも下ネタを繰り返すんです。耐えかねた若いバイトたちは辞めていきました。店長に相談しましたが、ベテランパートを尊重して『それぐらい我慢しろ』と突き放すだけで何もしようとしないので、絶望しましたね」
◆ハラスメントがバレた結果…
限界に達した安住さんは、エリアマネージャーが来店した際に密かに相談を持ちかけた。
「正直、マネージャーに話しても変わらないと思っていました。話を聞いてくれるだけでもいい。報告した時点では精神的に追い詰められた気持ちで話しかけたんです。ダメ元だったんですが、マネージャーは真摯に耳を傾けてくれました」
会社としてコンプライアンスの重視に力を入れていたことも影響したのか、事態を重く見たマネージャーは、後日、客を装い来店しつつインカムを傍受する秘密調査を実施した。
「何も知らない寺内さんは調査当日も暴走していました。僕への卑猥な罵倒だけでなく、特定の新米スタッフへの執拗なパワハラ発言まで……。嫌がらせの決定的な証拠を、マネージャーはリアルタイムで全て押さえていたんです」
本部の対応は迅速だった。管理責任を放棄していた店長は降格処分となったうえで他店へ異動。絶対的な権力者として振る舞っていた寺内さんは解雇となった。
「解雇を告げられた日の寺内さんは、真っ白な顔で呆然としていました。まさか自分が解雇されるとは思ってもいなかったんだと思います。少し気の毒にも思いましたが、勇気を出して声を上げていなければ、今頃、僕は壊れていたはずです」
寺内さん配下のスタッフの士気は下がったものの、職場の風通しも良くなり、新人も育つようになった。抑圧者が消えた店舗は、ハラスメントが横行していた頃よりも売上が向上した。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め