採択迫る“日本版スターリンク”の最新状況、軍配は誰に? 楽天・AST陣営は計画を大幅変更

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2026年06月12日 07:10  ITmedia NEWS

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Image Credit: AST SpaceMobile

 “日本版スターリンク”とも呼ばれる、スマートフォンと衛星を直接つなぐ衛星網実現に向けて総務省が進める低軌道衛星通信インフラ整備事業「J-LEO」。災害時にも利用できる衛星通信網を日本で確保することを目指す一方で、実現には数百機規模の衛星コンステレーション構築が必要になる。


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 公募にはコンソーシアム形式、つまり連盟での応募が認められており、有力候補はKDDI&米SpaceXあるいは楽天モバイル&米AST SpaceMobileの“連合”だ。このうち後者が3月、衛星網の軌道計画を大きく変更した。その内容からは衛星ダイレクト通信網の中身と技術的制約、そして楽天・AST陣営が強みとして押し出したいポイントが見えてくる。


●J-LEO(低軌道衛星通信インフラ整備事業)とは


 J-LEOは、総務省が「自律性確保に向けた低軌道衛星通信インフラ整備事業」として2025年度の補正予算1500億円を元に実施する通信衛星コンステレーションの整備事業だ。一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)が事業をとりまとめ、2026年5月29日で終了した公募の後に1件の事業者が6月末ごろに採択される予定だ。単独提案またはコンソーシアム形式での応募が認められる。


 事業では携帯電話に割り当てられた周波数を用いて、スマートフォンと衛星のダイレクト通信(DTC)をサービスとして実現することを目的としている。29年3月末までに日本全国の一般ユーザーがスマートフォンで利用可能な状態にすること、日本全国で1日のうち7割程度の時間帯はビデオ通話が可能な水準が求められる。


 災害時には、連携する移動体通信事業者との間で非常時事業者間ローミング(フルローミング方式、緊急通報を除く)を提供し、音声通信・データ通信・SMSは利用無料で提供することも必要だ。


 DTCは現在でも米SpaceXのStarlinkなどが日本国内で利用可能になっているが、これはあくまでグローバルサービスが日本でも利用できるというだけだ。極端なケースでは、衛星事業者側の判断や事情によってサービス内容が大幅に変更される可能性もある。


 災害対応も含むJ-LEO事業ではいざというときにそうしたことが起きないよう、衛星ゲートウェイ局、衛星管制局(SOC)、ペイロード管制局(POC)、ネットワーク管制局(NOC)といった衛星を運用管制する地上施設の国内設置という条件を課してサービス存続を守る制度になっている。


 ただ、J-LEOに参入する事業者は、あと3年弱で1日16時間以上は災害時も含めて日本全国でDTCが利用でき、衛星管制を日本から行う体制を構築しなくてはならない。助成金は事業総額の2分の1が上限となるため、さらに1500億円規模の投資が求められる。


●DTC成立に求められるハードル


 ただ、DTCの成立に求められるハードルは低くない。携帯電話と衛星を専用アンテナなしに直接結ぶDTCは、地上の基地局よりはるかに遠い数百km上空の衛星と、スマートフォンの微弱な電波でリンクを張る必要がある。


 これを「1日7割の時間帯でビデオ通話可能」な水準で全国に提供するには、最低でも数百機規模の低軌道衛星を軌道上に配置したコンステレーションを構築し、衛星間通信や軌道制御を含めて統合運用する必要がある。


 先行例を見れば、StarlinkのDTC衛星は26年1月時点で650機超、AST SpaceMobileも商用化の目標を240機規模としている。数年かかる衛星の生産ライン整備、複数の衛星を一度に搭載できるロケットの確保、地上設備とMNO連携などが可能でなければ成立しない事業だ。


 そもそもDTCは技術的にもまだ固まりきっておらず、国際的な議論、調整が残る状況だ。周波数調整や他衛星との干渉回避を含め、すでに大規模な衛星コンステレーションの実装経験を持つ事業者でなければ、短期間では乗り越えられない。


 日本国内には、現在まだDTC向けに数百機規模の衛星を量産・打上げ・運用するインフラを保有、経験している事業者は存在しない。国内のMNO4社はいずれもDTC参入を表明しており、KDDIはSpaceX、楽天モバイルはAST SpaceMobileと組んでいる。ソフトバンクとドコモも2026年中の提供開始を表明しているが、まだ提携先衛星事業者の選定段階にある。つまり国内MNOは「衛星コンステレーションを自前でゼロから構築する」のではなく「海外DTC事業者の衛星網を借りて顧客に届ける」ポジションにある。


 国内の衛星メーカーやスタートアップも、地球観測衛星が中心で、DTC用の衛星を数百機規模で29年3月までに軌道投入できる体制は整っていない。純国産DTC網は3年以内に達成できる状況にはないといってよく、J-LEOの期限内達成には、すでにDTCの衛星網を構築している海外事業者の参画が事実上の前提条件となる。一方で地上施設の設置要件を考えれば、日本側にも事業主体が必要となる以上、海外DTC事業者と国内MNOの連携によるコンソーシアム方式が有力そうだ。


●J-LEOを担えるのは? 有力な2陣営


 肝心のJ-LEOの要件を提供できる事業者は、現実的には2社が最有力だ。SpaceXのStarlinkはすでに600機以上のDTC対応衛星を運用し、日本ではKDDI(au)と提携して「au Starlink Direct」を提供している。現状はビデオ通話よりもテキストメッセージなどが中心だが、衛星の展開能力からいってJ-LEOの全要件を最も短期間で満たせる候補といえる。


 一方で楽天と提携するAST SpaceMobileは、スマートフォンを使った双方向の衛星-モバイル間ビデオ通話実証をすでに発表している。ビデオ通話の要件と最も整合する技術アプローチだ。248機の衛星は現在展開中のため実現までのリードタイムがやや長くなるが、機能面での優位性は高い。


 他にも海外勢では米衛星通信事業者Lynk&米通信プロバイダーのOmnispace、衛星ネットワーク「Amazon Leo」を展開する米Amazon.com&米衛星通信事業者Globalstarといった陣営も急速に体制を整えつつあるが、いずれもJ-LEOの3年期限内にビデオ通話水準のDTCを全国展開できる段階とはいいにくい。


●AST SpaceMobileは大幅構成変更


 こうした中で有力候補の一つであるAST SpaceMobileに新たな動きがあった。同社が展開する「BlueBird衛星」248機規模の衛星コンステレーションについて、軌道構成を大きく変更したことが、26年3月にITU(世界電気通信連合)へ提出した申請情報から確認できた。


 ITUは、世界の人工衛星が利用する電波の情報を集約、管理している。衛星打上げ前に各国は軌道(どこを飛行するか)、何機の衛星がそれを利用するのか、どの周波数帯を利用するのかという情報を申請し、他の衛星との調整をはかる。ASTは過去に248機の構成を提出しているが、これを1機増やした上で、高度などの軌道をかなり変更してきたのだ。


AST SpaceMobile従来案(248機)


AST SpaceMobile新案(249機)


※いずれもITU提出資料より筆者まとめ


●新案の狙いは? 日本エリアで有利になる要素


 要件変更の中身を読み解いていこう。衛星コンステレーションを構成するには、軌道の高度に加えて「軌道傾斜角(赤道に対する軌道の傾き)」と「軌道面数(地球の中心を通る軌道の数)」、1軌道面あたりの衛星数という情報が重要になる。


 衛星は軌道傾斜角の数字が示す緯度帯の上空まで飛来する。例えば傾斜角50度ならば、南北の緯度50度上空まで来ることになる。電波はそこからさらに広い範囲に到達するものの、衛星が真上に見えていると通信条件はもっとも良くなることから、軌道傾斜角は「重点的に通信を届けたい地域の指標」とみなすことができる。


 軌道面数と衛星数は衛星総数、コンステレーションのボリュームに直結し、どの程度切れ目なく衛星がある地域の上空を飛行するかを測ることができる。こうした軌道の計画を変更調整するのは、サービスの内容を調整する意志があるといえる。例えば、以下のような意図が読み取れるだろう。


高緯度カバレッジの改善


 新案では192機の主力が傾斜角53度に上がっていて、北海道(北緯43〜45度)を含む日本全土で天頂を通過するパスが見込める。建物や地形によって電波を遮られにくく、DTCのようにスマートフォンの上向きアンテナで受信する用途では効果が見込める。


軌道面の細分化と可視時間トレードオフ


 高度690kmの主要なグループは192軌道面にそれぞれ1機ずつ、192機が周回する構成になっている。地球上のどの地点から見ても上空の異なる方位に衛星が見えやすくなり、DTC向けに「常時1機以上が見える」条件を満たしやすくなる。一方で全体の高度が下がっていて、1機あたりの可視時間(通信可能時間)は短くなるというトレードオフが生じている。


軌道高度とスループット


 高度を旧案より低く調整したことで、地上との距離が近づき電波の損失は少し小さくなる。携帯電話の微弱な電波を捕まえるDTCでは、この差が実効スループットに直結し、旧案にはなかった高度520kmの27機は日本の都市部のような需要密度の高いエリアに対して有効性を上げる可能性がある。


 AST SpaceMobileが5月11日付けで米証券取引委員会に提出した資料によれば、打ち上げ済の「BlueBird Block1衛星」と、海上で未改造スマートフォンを用いて行った通信試験では、98.9Mbpsのピーク速度を達成したという。これは電波干渉の少ない条件の良い海上で行った試験であって実効スループットを保証するものではない。だが、ビデオ通話に必要なダウンリンク、アップリンク共に1.5〜3Mbpsを超える通信性能の実現に向けて衛星の実装が進んでいるといえそうだ。


 さらにASTは2026年中にBlueBird衛星45機の打ち上げを計画しており、ピーク速度を120Mbpsに引き上げると表明している。衛星の打ち上げを進めつつ、日本での1500億円規模の政府投資をテコに中〜高緯度帯でビデオ通話のような付加価値の高いサービスを実現するために衛星の設計も見直している、と考えられる。衛星の展開能力で勝るKDDI&Starlink陣営に対し、強みである機能面での優位性をさらに強化してきた、とみることもできるかもしれない。


 一方で、宇宙輸送の面ではAST SpaceMobileは弱みを抱えている。5月30日には米Blue Originの大型衛星打ち上げロケット「New Glenn」がフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地の発射台で試験中に爆発を起こした。


 射点が大きく損傷していることで同社の打ち上げ計画は当面見込めなくなり、今後予定しているNew GlennでのBlueBird衛星打ち上げが遅れる可能性もある。SpaceXなど他のロケットにも打ち上げを委託していることから、分散化で計画への影響を吸収できるかも重要になる。


 採択事業者は2026年6月末ごろに公表される見通しだ。J-LEOは「自律性確保」を制度目的に掲げているが、現実的な形として海外DTC事業者の力を借りる形になるだろう。


 それでも衛星管制や地上局の国内設置を要件とすることで、低軌道通信衛星コンステレーションの運用知見を日本国内に蓄積する仕組みになっている。災害時の通信を含む社会基盤としての衛星DTCを国内で持続的に運営する基礎が、この採択を起点に積み上がっていくことになる。果たしてどの事業者がその基盤を受け持つことになるか、目が離せない。



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