スキルアップの先に何があるか - TOTOが描く「強い個と強い絆」

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2026年06月14日 17:40  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
スキルを磨き、キャリアを高める――。いまや当たり前の時代ですが、TOTOの代表取締役 社長執行役員 田村信也氏は「スキルアップして何するの?」と話します。



TOTOの2026年3月期決算は増収増益。厳しい環境の中で最高益を更新した業績の背景にあるのは、社員との対話を通じた組織づくりでした。今回のインタビュー中に社員とのエピソードを語るその田村社長の姿は、トップダウンではなく対話を重視する姿勢が印象的でした。スキルは単なる自己満足のツールか、それとも、誰かの人生の役に立ったと胸を張れる力なのか。個人、組織、そして事業の成長をつなぐ「仕事の意味」について、田村社長の考えを聞きました。


○スキルアップの先に何を生み出すのか



田村社長に若手社員の印象について聞くと、語学やデジタルツール、AIの活用など多くの分野で能力が高い人材が増えていると評価する一方で、こうしたスキルが自己完結してしまうことへの懸念も口にします。



「スキルアップして給料を上げていくという選択もありますが、それだけで30年40年働くのは少し寂しい。自分はこれをやったといえる足跡を残して欲しい。できるようになったことで何かを生み出し、それが誰かの役に立つことで、初めてスキルアップの意味が出てくるのではないかと思うんですよね」(田村社長)



その象徴的なエピソードが、かつて田村社長が開発に携わった、ウォシュレットの「らくらくリモコン」です。開発のきっかけは、四肢に不自由があり、自力で排泄後のケアが難しい女性との出会い。当初は一般的なリモコン機能を考えていましたが、現場での声は違っていたそう。求められていたのは、ビデではなく乾燥機能。理由は「一連の排せつに伴う行為が自分一人で完結できるようになるから」。時間がかかっても自分で排泄後のケアをできることが大切だったのです。



リモコンに搭載したボタンは「洗う・流す・止める・乾かす」の4つ。手足が動かないため、肩や頭で押せるよう、ボタンは大きく4つにし、滑らないように表面をへこませました。現場で導入しやすい価格帯を意識し、7,500円〜8,500円(当時)という価格設定にしました。


「完成した『らくらくリモコン』を実際に使ったとき、当事者の女性は笑顔を見せ『これなら自分でもできるかもしれない』と言ってくれました。それを聞いた介護士の方は、『よかったね』と涙を流していました。『世のため人のためになり、これは自分がやった』と胸を張って言える感覚を持てたことが、私のモノづくりの原点であり、働く意義になっています」と田村社長は振り返ります。

○イントラネットで社員と意見交換。「強い個」が生む組織づくり



こうした価値観を組織に浸透させるため、田村社長は社員とのコミュニケーションを重視しています。その取り組みのひとつが社内イントラネットでの積極的な発信です。



「年間70本以上の発信を行っていますが、少しずつ反応が増えています。社員が『いいね』を付けたりコメントを書き込んだりできるようになっていますが、賛同だけでなく、ときには鋭いツッコミが入ることもあります」(田村社長)と笑います。



社員から寄せられた質問には、動画で返答することもあるそうです。



「社長にそんなことを言っていいんだと思ってもらえる環境のほうがいいんですよね。いいと思えばいいと言えばいいし、悪いと思えば悪いと言えばいい。それが言える環境が大事なんです。シンプルでもいいから『自分はこうしたい』という意見を持つこと。それが強い個になります。強い個同士が議論を経て納得して動くとき、それは強い絆に変わります。誰かが言ってくれるだろうとみんなが指示を待っている状態だと、チームとしての力は発揮しきれません」(田村社長)



今ではアクセスもコメント数も大きく増え、社員から「これも載せて欲しい」と要望が出るなど、コミュニケーションの場として育っているそう。そんな風通しの良さが、現場の「やってみよう」という活力を生んでいます。


○30年の信頼が支える北米市場、未来の「ウェルネス」市場



こうして育まれた「強い個と強い絆」は、組織文化にとどまらず、事業の成長も支えます。好調の北米市場も、積み上げてきた成果のひとつです。



「30年前は温水洗浄便座そのものが知られておらず、トイレという商品の広告すら難しい時代でした」と田村社長は振り返ります。



「口コミで少しずつ認知を広げ、ショールーム、EC、コストコなど販路を拡大。さらに、主要都市圏で『依頼から3日以内に訪問し、一度で修理を完了させる』というアフターサービス体制も整えました。北米ではDIY文化も根強く、自分でウォシュレットを取り付けたユーザーがDIY動画を投稿することも珍しくありません。こうした積み重ねの結果、今ではギフト候補として紹介される存在にまで成長しました」(田村社長)


さらに、住宅設備事業の枠を超えてTOTOが見据えるのが、トイレを体調管理の拠点に変えるウェルネス領域です。田村社長はウェルネス領域を単独で成立する大きな事業の柱に育てたいとしています。



「健康のために何か特別なことをするのではなく、いつもの生活の中で自然とデータが取れている。それが理想です」(田村社長)



「便スキャン」(センサーの一種)などを搭載した便器製品によって、トイレで用を足すときに取得したデータをもとに日々の体調管理をサポート。将来的には、見守りや介護サービス、食事の提案などにもつなげていく構想です。「製品の販売で終わるのではなく、継続的なサービスへと広がる可能性も視野に入れています」と田村社長は語ります。


○心に残る足跡となる仕事を



田村社長は「30年、40年のキャリアを振り返ったとき、『あのとき誰かの役に立った』と言える足跡があれば、それは何物にも代えがたい誇りになります」と言います。スキルアップの先にあるのは、誰かの役に立ったと実感できる仕事。その積み重ねが個人を強くし、チームを強くし、新たな事業の成長につながっていくのかもしれません。


伊森ちづる 家電・家電量販店ライター。家電量販店の取材や家電メーカーの取材、家電製品のレビューを中心に活動。売り手、メーカー、ユーザーという3つの視点で家電を多角的に見るのが得意。雑誌、ニュースサイト、ラジオ、シンクタンク、自治体での情報提供など、多方面で活躍中。最近は、テクノロジー×ヘルスケア、テクノロジー×教育などにも関心あり。趣味は音楽鑑賞(クラシック)とピクニック。 この著者の記事一覧はこちら(伊森ちづる)

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