2026年F1第6戦モナコGP 小松礼雄代表&エステバン・オコン(ハース) 今年で11年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。2026年シーズンは、序盤戦のフライアウェイラウンドが終了し、ヨーロッパラウンドが始まった。初戦のモナコでは、最終盤のセーフティカーや赤旗中断を経て、最後までミスなく走り切ったエステバン・オコンが後方から見事入賞。一方バルセロナは、週末を通したオペレーションのレベルの低さが露呈した週末となってしまった。今回はそんなモナコGPとバルセロナ・カタルーニャGPを小松代表が振り返ります。
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■2026年F1第6戦モナコGPNo.87 オリバー・ベアマン 予選19番手/決勝DNFNo.31 エステバン・オコン 予選17番手/決勝9位
■2026年F1第7戦バルセロナ・カタルーニャGPNo.87 オリバー・ベアマン 予選15番手/決勝17位DNFNo.31 エステバン・オコン 予選17番手/決勝13位
最初のヨーロッパラウンド2連戦が終わりました。今年のシーズン開幕前のコラム(編注:クルマの小型化でバトルは増えるのか、メルセデスPUは本当に優位か。新規則にまつわる疑問を解説【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム】/2026年1月15日掲載)のなかで、2026年はクルマが小型化、軽量化しても『オーバーテイクがしやすくなったり機会が増えるのかというと、状況はほとんど変わらないと僕は考えています』と書きました。技術規則が変わるにあたって、モナコでオーバーテイクは増えるのかと何度も質問を受け、僕はその度にそうは考えていないと答えてきました。
実際、今年のレースでオーバーテイクが増えたとは思っていません。それよりもモナコでは、あまり電気のことに気を取られずに戦える週末だったのがよかったです。モンテカルロ市街地コースはエネルギーの回収が簡単ですし、ディプロイメント(編注:回生したエネルギーのこと、または回生エネルギーを実際に発動・使用すること)のことばかり気にするような状況ではなかったので、やっている方としては「懐かしいな」という気持ちになりましたね。久しぶりに、クルマを速く走らせるためにセットアップをどうしようとか、そういうことにだけ集中して過ごせる週末でした。
モナコでレースをやるのであれば、オーバーテイクができないということを受け入れるべきだと僕は考えています。F1は1年間で24戦あって、 そのうちのひとつが『土曜日の予選がすべてで、日曜日のレースでは追い抜けないけれど、すごい景観の市街地でやるレース』であっていいと思うんです。オンボードカメラの映像を見たら、どのようなコースを走っているのか、それがどれくらいすごいことなのかがわかるじゃないですか。他のどのグランプリを見てもこんなレースはないですし、すごくユニークなレースです。
それに、たとえレース中に赤旗中断もセーフティカーの導入もなかったとしても、必ずピットストップは1回あります。その1回のピットストップにかかるプレッシャーはすごく大きなものです。ピットウォールにいる人にとっては、タイミングを1周も間違えられないというプレッシャーは普段より大きいし、タイヤを交換するメカニックにとっても、普通のレースでポジションをひとつ落とすのと、モナコでひとつ落とすのとでは大きな違いがあります。つまり、彼らが担う役割の比重が普段のレースより重いのです。こういったプレッシャーも特殊なものなので、普段のレースと違いがあるというのも、僕はいいことだと思っています。
オーバーテイクができないから見ていてつまらないと感じる年もあるでしょう。でも今年のレースではセーフティカーや赤旗があり、いろんなことが起こったので、つまらないレースではなかったと感じています。オーバーテイクができないのは変わりませんが、だからこそモナコGPはそういうものだと素直に受け入れればいいのです。諦めろと言っているわけではなくて、こういう特殊なグランプリが24戦のうち1回あるというだけです。雰囲気だって独特ですし、あれだけ壁が近くて、ドライバーが一瞬たりとも気を抜けないコースなんて他にありません。無理にモナコで追い抜きを増やそうと考えることの方がナンセンスだと僕は思います。
さてそのモナコのレースでは、エステバンが9位に入賞してポイントを獲ることができましたが、予選が本当に不運でした。
あの週末はアウディ・レボリュートF1チームが本当に速かったのでニコ(・ヒュルケンベルグ)と(ガブリエル・)ボルトレートには敵わないかなと思っていたんです。でもボルトレートが予選Q1でクラッシュして、Q2ではニコも失敗して、中団勢のなかではリアム・ローソン(ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チーム)とピエール・ガスリー(BWTアルピーヌF1チーム)がQ3に進みました。僕たちが不運だったのは、Q1の最後のアタック中にボルトレートのクラッシュで赤旗が出たこと。特にオリー(編注:オリバー・ベアマンの愛称)の方はあの時ローソンより0.35秒ほど速かったのです。ローソンを相手に考えるなら、週末を通してずっとオリーの方が速かったのですが、ローソンがQ3に進んでレースでは5位に入賞したことを考えると、僕たちもその位置にはいなければなりませんでした。
運も実力のうちですし、エステバンが9位に入賞できたことでみんなちょっとホッとして喜んでいたので、そういう意味ではよかったですが、悔しさの残る週末でした。
■課題は現場のオペレーションの精度向上
続くバルセロナは、クルマもよくなかったのですが、現場のオペレーションのレベルがちょっと低すぎたというのが反省点です。いろいろな面でクルマの実力をまったく出しきれず、物事の処理の仕方や理解力が足りないというのがよく現れた週末となりました。
そもそもオペレーションというのは、『週末をまとめ上げること』すべてを指します。具体的には、まずFP1の出だしのクルマのセットアップがいいレベルにあること。そしてFP1できちんとテストプログラムを遂行して、FP1が終わった時に得なければいけない情報を得ていること。続くFP2、 FP3では予選に向けて、クルマも徐々にパフォーマンスが上がっていき、クルマへの理解度も深めながら、ドライバーも自信を積み上げていってファインチューニングをする、いうのがレースの週末に積み上げていくということです。
僕たちはFP3が全然上手くいかず、この途中で何かが欠けたような状態になったわけです。トラックコンディションが悪かったことも理由のひとつではありますが、FP2からFP3にかけてうちのドライバー達は1.4〜1.7秒ほどタイムが落ちました(他のチームは平均して0.5秒くらいでした)。FP3というのは予選前の最後のセッションなので、クルマのほうはファインチューニングをして、ドライバーは自信を持ってドライブできるようにするというセッションです。それなのに僕たちのFP3は、ドライバーの自信を奪うようなセッションになってしまいました。
やっと予選になってまともなセットアップに落ち着きましたけど、FP3でのダメージが大きかったので、そこからドライバーが自信を取り戻すのに3周はかかります。バルセロナの場合、1セットのタイヤでタイムが出せるのは1周しかないので、Q1で言えば最後のランになってやっと自信を取り戻せるということです。オリーはいいラップを走ってQ2に進めましたが、エステバンは進めませんでした。きちんと物事の積み重ねができていない、最初から高いレベルでスタートできてない、セッションごとの振り幅も大きすぎるという状況では、やっぱり答えよりも疑問が多くなってしまいますし、それでは戦えないということです。
話は遡りますが、FP1でのタイヤの使い方を見てもそうです。なぜFP1でハードタイヤを使うのか……。僕が以前から言っているのですが、「全部わかろうとしなくていい」のです。F1は難しいですし、特にタイヤというのは難しいものなので、理解し切れないことがたくさんあります。そういう時はわからないものを無理やりわかろうとするのではなく、『わからないことをどうマネージメントするか』が重要です。ここでいうマネージメントとは、『オプションを残す』ということ。ハードタイヤは2セットしかないので、フリー走行で1セット使ってしまうと、レースには1セットしか残せません。FP1でハードタイヤを使うことが正しいかどうかに100%の自信が持てないならば、とりあえずFP1では使わないでおいて、FP1が終わってから、その後のセッションで使うかどうかを決めればいいのです。
今回で言えば、他のチームははっきりとレースにハードタイヤが2セット必要だとわかっていたか、たとえわかっていなくても「ひとまず2セット残しておこう」と思ってFP1でハードタイヤを使いませんでした。ですから、データ解析で言えば、他のチームと同じデータ見ているのに何かを見逃したということです。メンタリティーも含め、これは早急に解決しなければいけない課題です。
先に書いたとおりFP3の内容が悪かったので、予選もうまくいきませんでしたけど、レースを見てみれば、オリーがハードタイヤで走った第2スティントのレースペースは、他の中団勢よりも速かったです。もしハードタイヤがもう1セット残っていて、最終スティントでもハードタイヤで走れていたら、結果は全然違っていたと思います。バルセロナ・カタルーニャGPの8位〜10位はアルピーヌの2台とレーシングブルズの2台だったので、オリーにもアルピーヌの後ろあたりでフィニッシュできた可能性がありました。そういうことをしっかりとできるようにならないといけません。
F1は1セッションも1ランも1周も無駄にできない世界です。そういうところで戦うためには出だしからいいレベルで走り出して積み上げていかないと、以前も書いたように後手に回った時にリカバーするのはすごく大変です。疑問ばかりが増えて答えがひとつも出てこなければ、前に進めません。こういうオペレーションの精度を上げていくことが次のオーストリアGPでの目標です。
最後になりますが、今年も静岡県の富士スピードウェイでTPC(Testing of Previous Cars/旧型車テスト)を7月28日(火)、29日(水)に行います。今年はWEC世界耐久選手権のテストの関係で平川亮は乗れませんが、坪井翔と、そして先日全日本スーパーフォーミュラ選手権でNTT docomo Business ROOKIEに初優勝をもたらした福住仁嶺が乗る予定です。ファンの皆様により身近に楽しんでいただけるように、去年よりもパワーアップしたイベントを計画しています。是非、この機会にF1を現地で感じて頂けたらと思います。
[オートスポーツweb 2026年06月25日]