限定公開( 1 )

トヨタが2027年度中に発売予定だったEVセダンの開発を中止した。レクサスブランドでリリースする計画で、LF-ZCという名前も決まっていた。次世代EVの量産間際での計画中止は、日本の経済界全体に大きなニュースとして広がった。
「EVでセダン」というカテゴリーの需要に疑問符が付いたのが開発中止の主因という情報も見るが、筆者はそうは思わない。プラットフォームを共にするSUVなど、派生モデルを作れば需要は生み出せる。
最大の要因は、肝心の全固体電池の開発が想定通りに進んでいないことではないか。量産技術が間に合わないというよりも、全固体電池として供給できても「期待通りの性能を確保できない」という可能性が高い。
全固体電池はEVのインホイールモーター(ホイールの内側にモーターを組み込んで直接駆動する方式)同様、理想的な性能を声高にアピールしたために期待値が高まりすぎたこともあるが、本格的な普及を目指すのであれば一番乗りを急ぐのではなく、しっかりとした性能と品質を確保する必要がある。
|
|
|
|
新社長の大ナタぶりをアピールするには、いささか大振りすぎる決断だが、今後のことを考えればそれも仕方ないのだろう。
その一方で、モデルチェンジしたくてもできない、ジレンマを抱えているモデルもある。それはハイエースだ。
ハイエースはキャンピングカーのベース車両や、バイクなどのスポーツを楽しむためのトランスポーターとしても人気のクルマだが、需要の大部分はビジネスユースだ。物流や建築、小売など幅広い現場で使われる商用バンの定番モデルである。
●時代の寵児、ハイエースの歴史
ハイエースが誕生したのは1967年。トヨタはトラックと乗用車に加えて、小型の貨物車の需要をカバーするために新たなカテゴリーに挑戦したのだ。
|
|
|
|
当時のトラックはボンネット型(エンジンが運転席の前にある車体構造)だったが、ハイエースはスペース効率を追求したキャブオーバー型(エンジンの上に運転席がある車体構造)とすることで、コンパクトなボディに十分な積載能力を備えていた。狭い道でも小回りが利くことから、幅広い業種で利用された。
自家用車がぜいたくだった時代、クルマは商用車を中心に使われた。自家用車を持てなくても、仕事用のクルマを週末には家族で使う商店や自営業者も多かったのだ。
そんな便利なクルマであるから、個人で乗用車として、あるいはキャンピングカーとして利用するユーザーも続出した。ちょうど第1次キャンピングカーブームの頃であり、海外から豪華なキャンピングカーが輸入されたものの、購入できる人は限られていたため、三菱のデリカなどと並んでハイエースが使われたのだ。
経済活動が盛んになるにつれて、ハイエースは街に浸透していった。
デビューから10年がたち、ハイエースは2代目へとフルモデルチェンジを果たした。ボディパネルのプレス技術が向上し、丸みを帯びたグリルレスのデザインとなった。サイドウインドーも曲面ガラスとすることで、シンプルながらフォルムは洗練された。
|
|
|
|
ワゴンモデルもコミューター(大人数を送迎するためのワゴン・マイクロバス仕様)的な役割だけでなく、より上質な移動空間を求めるユーザーのために充実した装備の高級グレードが用意された。リアサスペンションはワゴンのみコイルスプリングを採用し、積載重量を抑える代わりに乗り心地が大幅に向上した。
特にマイナーチェンジを受けた後期モデルでは、内外装の豪華さで個人ユーザーが憧れるクルマとなった。それでも需要の中心は商用バンであり、使い勝手の良さと耐久性の高さでハイエースは高く支持され続けたのだ。
●100系の誕生で盤石の体制に
2代目のハイエースは5年ほどでフルモデルチェンジを迎えた。モデルチェンジの必要性に迫られたのではなく、ワゴンモデルの一層の高級化のために刷新されたと判断していい。
新しいエンジンと洗練された内外装により、ハイエースは"街の働き者"としての役割と、ミニバン的な需要の両方に応えていた。
この頃は日産のキャラバンが激しいライバル関係にあり、ワゴンもバンもハイエースと張り合うほどの人気を誇っていた。
このあたりまでは日産もトヨタといい勝負を繰り広げていたのだ。販売力と商品力で互角とまでは言わないまでも、根強い日産ファンに支えられて健闘していた。
しかし、次の世代でハイエースは盤石の体制を築き上げる。4代目は若干スラントしたノーズ(前方へ傾斜したフロント部分)を備え、ワゴンモデルの高級感を高級セダン並みに引き上げた。100系と呼ばれたハイエースの長い歴史の始まりであった。
4代目でも標準ボディに加え、ロング、スーパーロングという長さの違いと、ミドルルーフとハイルーフといったボディバリエーションが受け継がれた。
パワーユニット(エンジン、変速機などをまとめた、クルマの駆動装置)や装備類の信頼性、ボディの堅牢性は「さすがトヨタ」と評価され、ビジネスユースはもちろん、キャンピングカービルダーなどに大いに喜ばれ、ハイエースのシェアは一気に拡大していった。
●200系が22年続くロングセラーとなっている理由
100系の黄金期を経て、ハイエースはモデルチェンジを果たす。それは100系がデビューして実に15年が経過するタイミングであった。
2004年にデビューした5代目のハイエースが、現在も販売が続く200系と呼ばれるシリーズだ。つまり、22年続いている超ロングセラーなのである。そこには、現行のハイエースのパッケージング(車体サイズや室内・荷室の配置設計)の限界と、それを超えるサイズへの抵抗が大きいという背景がある。
ハイエースのボディサイズは全長4695ミリ×全幅1695ミリ。これは、ぎりぎり5ナンバーサイズに収まる。これを超えて3ナンバーサイズとなっても税法上は変わらない。自動車税はエンジン排気量によって、重量税は車重によって決まるからだ。
しかしハイエースは、この5ナンバーサイズという点が非常に重要なのだ。日本の都市部や住宅街には狭い道が多く、また宅地の一区画も小さくなっており、建築面積10坪以下の狭小住宅も珍しくない。
このような道路・住宅環境では、仕事に使うクルマのサイズは限られる。駐車場がない住宅の新築工事やリフォームを行う場合、建築業者の車両を止める場所の確保が問題となるからだ。わずかに残った敷地部分にクルマを止めて作業を行う場合、車両を置くスペースと、道具や資材を出し入れする作業スペースの両方を確保する必要がある。
業種によっては軽貨物バンに買い換えるケースもあるが、建築資材などは大きいものが多いため、それらを扱う業者はハイエースを使い続けている。何より、長年の仕事で培った収納や仕事のノウハウがハイエースの荷室には詰まっているのだ。たとえ数十センチでも荷室が狭くなったら、それらのノウハウは破綻してしまう。
建築業だけではない。ハウスクリーニングや中小の製造業、卸売や小売など幅広い業種で、軽貨物バンやプロボックスではやや狭いケースがあり、「大は小を兼ねる」を実現できる上限が、5ナンバーサイズのハイエースなのである。
現行からのフルモデルチェンジとなると、衝突安全基準のためにセミボンネット型(運転席の前に短いボンネットを設けた車体構造)へとシルエットを変更せざるを得ない。その場合、3ナンバーサイズにするか、荷室を短くするか、どちらかを選ばなければならない。トヨタも日産も、これまでの商用需要が分かっているから5ナンバーサイズの提供を続けている。
業務ではない目的でハイエースを使う個人ユーザーは、オートバイやレーシングカート、スキューバダイビング、サーフィンなどのスポーツの機材を運搬して楽しむ人々であろう。
介護など福祉関係でもハイエースの特装車は多く使われているが、乗車人数がそれほど多くない場合は、より運転しやすいミニバンなどが使われるケースも増えている。
すでに3ナンバー仕様となっているワイドボディの場合、Bピラー(前席と後席の間の柱)より後方の寸法はロングボディと変わらず、ボンネットを150ミリ前方へと延長させることで衝突安全性を高めている。
●次世代のハイエースはどう進化するのか
では、次世代のハイエースはどうなるのだろうか。先頃、ハイエースは10回目となる一部改良を受けた。WP29(国連欧州経済委員会の自動車基準調和世界フォーラム)が定める安全基準に対応するため、シートとヘッドレストを改良した。
今年初めにはついにACC(前車追従機能付きクルーズコントロール)まで搭載し、高速道路での長距離走行時の安全性が高まり、ドライバーの疲労軽減にもつながった。
しかし、それだけに5ナンバーサイズでの進化は限界に達しているといえる。弟分のライトエースは、セミボンネットスタイルのバンとトラックが用意されているが、ハイエースほどの需要はないことから、現在は日本仕様もインドネシアで生産して輸入している状態だ。
またハイエースのワイドボディは、コミューターやキャンピングカーとしての需要はあるが、ハイエース全体の1割にも満たないため、独立して存続できるパッケージングではない。
ならば、職人たちの代替わりを見込んで、次世代ハイエースでは思い切ってボディサイズの大型化を推し進めるのだろうか。
2025年のジャパンモビリティショーでは、さまざまなコマーシャルビークルに交じって「ハイエースコンセプト」という近未来のハイエースをイメージしたモデルが展示された。それは現行のワイドスーパーロング並みのボリューム感を誇っていた。
また次世代では、ハイブリッドなどの電動化や自動運転にも対応する必要があるだろう。しばらくは200系の生産が続くのだろうが、あと数年でその時代は終わりを告げることになりそうだ。
(高根英幸)
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。