写真俳優・田中圭が約1年ぶりに舞台へ帰ってきた。放送作家を引退した鈴木おさむが作・演出を手がける舞台『母さん、ラブソングです。』が7月31日、東京芸術劇場プレイハウスで開幕。’11年の『芸人交換日記』から約5年に1本のペースで続いてきた鈴木×田中タッグの第4弾で、共演は矢崎広。初日に先立って行われたゲネプロを取材した。
◆約1年ぶりの舞台で演じるのは”落ちぶれたミュージシャン”
田中が演じるのは、かつてヒットを飛ばしながら今は落ちぶれた“一発屋”ミュージシャンの兄・音川詩於(うたお)。矢崎が、兄をマネジャーとして支えるしっかり者の弟・踊楽(ようた)を演じる二人芝居だ。上演時間は1時間45分で、舞台上には2人きり。膨大なセリフの応酬で物語が紡がれていく。
ゲネプロ開演前、鈴木は報道陣にこう語った。
「圭くんは、脚本を覚えて人前で芝居をするということが約1年ぶり。おそらく今、とてつもなくドキドキしてると思います。僕と圭くんは戦友でございます。納得のいく作品になったと思います」
◆随所に散りばめられた、田中自身を思わせる”攻めた小ネタ”
物語の詳細は伏せるが、序盤は兄弟の軽妙な掛け合いで進む。驚かされるのは、セリフの端々に「謹慎」「SNSの中傷」「カジノ」といった、どこかで聞いたような単語が織り込まれていることだ。約1年ぶりに舞台へ立つ田中自身を思わせるスレスレの小ネタの数々に、思わずニヤリとさせられる。
終演後のカーテンコールで田中は「めっちゃ緊張して、口も乾いてるし。矢崎は途中でセリフを飛ばすし」と相方のミスにチクり。それでも「僕と矢崎も逃げ場がないので、お互いを信頼して思いっきりやるだけです。あとは歌があります。頑張ります」と充実の表情を見せた。
対する矢崎も「(ミスは)言わなきゃバレなかったのに!」と応酬し会場の笑いを誘うと、稽古場をこう振り返る。
「本当にすごい激しい稽古をしてきました。3日目には、おさむさんが『通す』って言い始めまして。圭さんはもうセリフが3日目には入っていて。あのお2人がやっぱりおかしいんです。圭さんの背中を見ながら、僕は必死についてきました」
◆圧巻のクライマックス。平井大書き下ろしの”母へのラブソング”
笑いに包まれた物語は、やがて「母への愛憎」「記憶のズレ」「過去の罪」へと踏み込んでいく。そしてクライマックス、シンガーソングライターの平井大が脚本を読んで書き下ろした”母へのラブソング”を、田中が生で歌い上げる。歌声が響いた瞬間、それまで笑いに緩んでいた場内の空気が一変。涙を誘う。1時間45分の物語がこの1曲に流れ込んでいく構成は、まさに圧巻だった。
この題材には原点があると、鈴木は明かす。
「圭くんとの2作目の舞台をお母さんが見に来てくれて、その後に亡くなられたらしくて。『舞台をお母さんが見てくれたことがすごいよかったです』っていうLINEをわざわざくれたんですよ。それから、いつか母さんのお話を作ってみたいとずっと思ってまして。主役は2人なんですけど、僕の中では主役は母さんだと思ってます。見てくれた皆さんの頭の中に、いろんなお母さんが浮かんだらいいなと思ってます」
公演は東京のあと、仙台・名古屋・上田・大阪と、9月22日まで全国5都市を巡る。田中は最後にこう呼びかけた。
「公演後半では、勇気をいただきながら進化してる僕たちが見られるんじゃないかなと思います。最後までみんなで感動したいと思います」
文/桜井カズキ