DeNA・古市尊(撮影=萩原孝弘) 勝負どころの9月、チームの激しい戦いの中でキラリと輝きを放つ男・古市尊。
昨年オフに西武から移籍してきた5年目の若手捕手は、夏場に昇格以降、巧みなリードと粘りのある打撃でチームの力となり、10日のヤクルト戦では初ホームランを放つなど印象的な活躍を見せた。
お立ち台でも本拠地の歓声を浴び「人生で一番最高でした」と笑みをこぼす。しかしどれほど結果を出しても、足元が揺らぐことはない。
それは西武ライオンズ時代から自身の心に刻み続けている言葉。「おかげさま」の気持ちを持ち続けていることに由来する。
「抑えてもピッチャーのおかげ。『おかげさま』の心でっていうのは、ライオンズに入った時に一番最初に教わった言葉なんです。キャッチャーは点さえ取られなければ負けることはない。『打率0割でも勝率10割のキャッチャーならレギュラーを取れる』と言われてきた。だからまず守備にフォーカスを置いてやっていきたい」
西武での師・中田祥多コーチから授かった金言をいまでも心に刻む。キャッチャーというポジションは、ピッチャーが投げてこそ仕事が成り立つ。自分が目立つためではなく、投手を立て、勝ちに導くためこそ「おかげさま」の気持ち。
その謙虚でブレない姿勢を、加藤健バッテリーコーチも高く評価する。
「おかげさまの気持ちはすごくいいんじゃないですかね。やっぱりキャッチャーはピッチャーが投げてくれなかったら仕事がない。キャッチャーのサインだけでは勝てないし、相手があっての共同作業。相手をリスペクトすることは大事だし、フル(古市)が野球をやりながら気づいて継続できているっていうのは、本当にいいことだと思いますよ」
また相川亮二監督も、捕手出身の目で分析、評価する。
「バッターの狙い球やタイミング、駆け引きの部分がすごく長けている。データというものをしっかり使いながら自分の感性を加え、ピッチャーの良さを引き出してくれている」
そう指揮官が絶賛するように、この試合でも投手の状態やグラウンド状況を見極め、「テンポよく勝負していこう」と判断して深沢鳳介を巧みにリードし、ヤクルト打線を封じ込めることに成功した。
現在、ベイスターズの捕手陣は戸柱恭孝、松尾汐恩、そして古市尊の3人がで競い合っている。しかし「バチバチな感じではない」と古市が証言するように、経験豊富なベテラン戸柱や、主戦への期待が込められている松尾からも貪欲に教えを乞いながら、日々一歩ずつ前進を続けている。
「現状、誰が出るかは流動的だけど、与えられた役割を全うすればみんなが助けてくれる。どんな形であれ、1軍の戦力になれているのは嬉しい」と戦力になっている現状を喜ぶ。
“勝てるキャッチャー”を目指し、一歩下がって周囲をリスペクトし、チームの勝利に愚直に向き合う。
「おかげさま」の思いを抱えてマスクをかぶる男は、獅子で得た初心を忘れず、着実に己の存在感を増していく。
取材・文=萩原孝弘