ラジオ番組のオープニングに見立てた草野マサムネのナレーションによるイベントの趣旨説明があり、この一夜について「夢のようなイベント」と評した上で、メンバーがステージに登場すると、「美しい鰭」からライブは始まった。2曲目は「さらばユニヴァース」で、こうしたハイトーンのギターのサウンドが前面に出ている曲を聴いていると、この時点ですでに今回の出演バンドとの共通点がそこはかとなく浮かび上がってくる。そして、ベースの激しいフィードバック音から始まった3曲目は「けもの道」で、こちらもスピッツのギターバンドとしての側面を強く感じさせてくれる。田村明浩はこの曲の終盤でベースを掲げ、三輪テツヤは腕を高々と挙げてみせる。スピッツの主催ライブイベントでは恒例となっているカバー曲は、この日はチープ・トリックの「I Want You to Want Me」という選曲で、耳馴染みのある人も、初めての人も乗りやすい、こうした曲を選んでくれるところに、このイベントの大きな意義を感じる。
「I Want You to Want Me」を終えたところで、この日最初のMCとなり、草野マサムネはチープ・トリックのカバーについて、「英語の曲をカバーすることはほとんどなくて、カタカナで歌詞を書き出した」なんて話も披露してくれたが、海外のアーティストを迎える今回のイベントについて「一緒に作り上げていけたらなと思いますので、よろしくお願いします」とその思いを伝えていく。そこから、最新シングルとして大きな話題となっている「見知らぬ糸」が披露され、草野マサムネによるギターのストロークから「みなと」が続いていく。次に披露されたのは、アルバム『名前をつけてやる』より「プール」で、こうして見ると、バンドとしての軸が初期からまったくブレていないことを改めて痛感する。
二番手はティーンエイジ・ファンクラブで、2005年発表のアルバム『マン・メイド』に収録されている「It’s All In My Mind」からライブは始まった。ハーモニーをきかせた滋味あふれるギターミュージックをやる彼らにとっては絶好のイントロダクションとも言える楽曲で、1曲目が終わったところで観客からも大きな拍手で迎えられる。「コンバンハ、ミナサン」というノーマン・ブレイクの短い挨拶から、次に披露されたのは「Tired Of Being Alone」で、2023年発表のアルバム『ナッシング・ラスツ・フォーエヴァー』に収録されている曲だけれど、世間の風潮などどこ吹く風、自分たち独自の音楽を近年もやり続けているバンドの姿勢を表している楽曲だ。ノーマン・ブレイクが「アリガトウゴザイマス」と一言挟んだ後、『グランプリ』とアルバム名だけを言って始まったのは名曲「About You」で、あのハーモニーが眼前で披露されていく。
「Falling Into The Sun」を挟んで「ニュー・アルバム」という紹介で披露されたのは10月9日にリリースされる新作『ドゥ・ノット・デア・トゥ・ドリーム』からのシングル「Day in The Sun」で、スコットランドの牧歌的な風景が浮かんでくるような、人肌を感じる音楽を聴かせてくれる。そこからは『ソングス・フロム・ノーザン・ブリテン』に収録の「I Don’t Want Control Of You」、レイモンド・マッギンレーがリードボーカルを務めた「Everything Is Falling Apart」といった楽曲が続き、名作『バンドワゴネスク』より「What You Do To Me」が披露されたところからライブは佳境へと入っていく。再びレイモンド・マッギンレーがリードボーカルを務めた「It’s A Bad World」、そして「The Concept」。ノーマン・ブレイクはこのイベントに出られて光栄だと語っていたけれど、最後に演奏された「Everything Flows」も含めて、UKのギターミュージックにおいて歴史の一翼を担ってきた楽曲の数々が今なおエヴァーグリーンであることを示してくれるステージだった。
ギターの軽快なカッティングから始まった「GO!!!」、ベースのダブルトーンとギターのアルペジオによるイントロが印象的だった「砂漠のきみへ」を挟んで、ウォール・オブ・サウンドとも言うべきギターサウンドを聴かせてくれたのが「mother」で、そのままこだまするディレイの音から「more than words」へと突入していく。塩塚モエカは左右に身体を揺らすような仕草も見せながら、ストロボライトと共にこの曲を颯爽と駆け抜けていく。最後に演奏されたのは「Dogs」で、ノイズとも言える爆音を炸裂させながら、塩塚モエカは「ありがとうございました。最後まで楽しんでいってください」と観客に声をかけ、轟音の余韻を残してステージを降りていった。
▼Ride
この素敵なイベントを締めくくることになったのはライドで、『ゴーイング・ブランク・アゲイン』に収録されている「Leave Them All Behind」で、いきなりギターのフィードバックによるサウンドを炸裂させる。マーク・ガードナーは宙を指さしながら、歌に入っていく。しかし、その音圧たるやすさまじい。「アリガトウ」というマーク・ガードナーの一言を挟んで、打ち込みのリズムと共に披露されたのは2024年にリリースされたアルバム『インタープレイ』からの「Monaco」で、MCに入るとマーク・ガードナーはわざわざ通訳をステージに呼んで、「このイベントに呼んでくれたスピッツのみなさん、ありがとう。すごく不思議な縁で、僕たちとスピッツは長い間、活動をさせてもらえて、僕たちも1990年ぐらいから東京に来ています。僕たちは東京に来て、ライブをするのが大好きで、またスピッツのみなさんと一緒になにかやれたらと思います。そして、来てくれたみんな、本当にありがとう…」といった自身の思いを伝えてみせる。
90年代に戻ろうという言葉と共に披露されたのは、まさに1990年に発表された「Like A Daydream」で、そこに名作『ノーウェア』からの「Dreams Burn Down」が続いていく。その後もさらに「Twisterella」が披露され、2017年発表の「Lannoy Point」を挟みつつも、代表曲が立て続けに演奏されていく展開で、「Taste」、「Vapour Trail」、「Seagull」といった楽曲が畳み掛けられていく。最後に演奏されたのは「Chelsea Girl」だったのだが、ライドの演奏が終わってから、マーク・ガードナーは観客の姿を記念撮影していた。