あいみょん ―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
今年デビュー10周年を迎えるシンガー・ソングライター、あいみょん。彼女はこれまでを振り返り、「音楽があったおかげで会いたい人に会えている」と言う。今回インタビュアーを務めるのはそのうちの一人、自身がファンと公言する漫画家・にくまん子。2人は“恋愛を糧に作品を生む”ことについて会話を弾ませた。
◆ダメ恋愛も、歌の財産
かねてより漫画家・(※1)にくまん子のファンであることを公言していたあいみょん。’20年に雑誌の特集で対談して以来、ライブグッズのイラストを依頼したり、プライベートで巻き寿司パーティをしたりするなど交流を深めてきた。
今回、メジャーデビュー10周年とベストアルバム(※2)『AIMYON BEST ALBUM – 唇を追え! -』 の発売を記念して、2年ぶりの再会インタビューが実現。あいみょんが手にしている卵のオブジェは、今回のためににくまん子が心臓のイラストを描き加えたもので、人間のドロドロとした感情の根源である心、そして愛を表しているのだとか。そんな卵が象徴するかのように、今回のインタビューは作品創作の重要な糧である恋愛のリアルと、大人になって知る“愛”の正体に迫るものになった――。
◆若い未熟な自分にも、ありがとうと言いたい
――メジャーデビュー10周年おめでとうございます! 改めて10年という歩みを振り返っていかがですか?
あいみょん:ありがとうございます! 本当にあっという間の10年でしたね。21歳でデビューしてから、知らず知らずのうちに言葉のボキャブラリーも増えたし、20代でいろいろなことを経験して曲作りのやり方や声の出し方も変わってきたなと感じています。今回のベストアルバムを作るにあたって、デビューからの楽曲を順番に並べて聴いていったら、「うわ、今の私じゃこんな曲もう書けないな」という曲がいっぱいありました。
――(※3)初期の楽曲「貴方解剖純愛歌〜死ね〜」や、メジャーデビュー曲の「生きていたんだよな」などには、今からすると“尖った”表現もありますが、そういう過去の楽曲と、どんなふうに向き合っていますか?
あいみょん:「歌詞が若いなあ」と俯瞰で他人事みたいに面白がれる曲もありますし、今はもう恥ずかしくてライブのセットリストには入れられない曲も正直あります(笑)。その曲が嫌いになったとかではなく、「今の自分にはちょっと歌えないな」と思って避けてしまう楽曲があるのは、アーティストあるあるなんじゃないかな。
――わかります! 私も、自分が昔描いた漫画は必要以上に過激だったりして、若すぎて読み返せないことが多いです。
あいみょん:もちろん未熟だなと思う部分もたくさんあるけど、若い自分が残してくれた一曲一曲に対して、「この曲を作って形に残しておいてくれて本当にありがとう」とは素直に思いますね。だから当時の音源は、それはそれとして大切に残しておきたくて、セルフカバーをしようという気はあまりないんです。今の声や歌い方は、ライブで歌い続けることで残せばいいですしね。過去の自分を他人事としてではなく愛おしく肯定できることこそが、10年間走り続けてきた大きな成果なのかもな、と思いました。
――めちゃくちゃ素敵です。あいみょんさんの歌って、多くの人々の生活に入り込んで「私の歌だ」と感じさせてくれるのがすごいなと思うんです。
あいみょん:「初めて聴いた曲のはずなのに前から知っているような気がする」と言ってもらうこともあって、日常のどこかでいつも私の歌が流れていて、皆さんの生活に寄り添えているなら嬉しい限りですね。音楽の感想を通して、いろいろな人の生々しい感情や人生に触れられるのは、本当に面白くて大切な財産だなと感じています。自分自身を前に進める何よりのパワーになっていますね。
◆面白かったと思えたら、ダメな恋愛も財産
あいみょん:そうそう、にくまん子さんの漫画(※4)『恋のカスと愛のクズ』 読ませていただきました。今回もなかなかの恋愛模様が描かれていてすごかったです(笑)。主人公のしずみちゃんが、ダメだとわかっているのに目の前の恋や衝動に流されちゃう感じとか、女性同士のリアルなやり取りに引き込まれました。
――相変わらずダメ男に振り回されてドブのような恋愛を続ける女性を描いているんですけど、いわゆる「ダメ男」についてどう思いますか?
あいみょん:「ダメ男」を選ぶって、結局つまらない男性より、危うくて面白そうな男性を求めてしまう自分の問題だと思うんです。最初からダメ男だと思っているわけじゃなくて、うまくいかなかったから結果としてそう呼んでいるだけ。ダメの基準は人それぞれで、例えば私は靴下を脱ぎっぱなしにされても「生活感があって愛おしいな」と思っちゃうタイプ(笑)。
――なるほど! ダメ男かどうかは客観的な基準で決まるのではなく、自分の価値観次第ってことですね。
あいみょん:よく「ダメ男に引っかかった」と言うけど、自分自身がダメ女の可能性もあるじゃないですか。ダメな恋愛って、お互いがダメ同士なだけなんですよ、きっと。結婚をゴールだと思いすぎると「時間を無駄にした」と思っちゃうけど、後から「面白いやつだったな」と思えて、相手にも「面白い女だったな」と思ってもらえたら、それだけで人生の大きな財産ですよね。にくまん子さんの漫画のように、傷ついた失恋ですら笑い話にして誰かを救うエンタメに変えることができるなら、それもまた素晴らしい愛の姿なのだと思います。
――嬉しいお言葉をありがとうございます……。ラブソングはご自身の経験をもとに作ることが多いんですか?
あいみょん:自分の実体験や見聞きした出来事をきっかけに、そこに妄想を肉づけして作ることがほとんどですね。さすがに全部私の実体験だったら「こいつどうしちゃってるんやろ」って心配されちゃいますよ(笑)。以前、にくまん子さんにコミカライズしていただいた(※5)「朝陽」も、終電を逃す逃さないのハラハラする時間を描いた曲ですが、恋愛における“終電の駆け引き問題”って、みんな一度は経験がありますよね。そんなあるあるからさまざまな状況や心境を膨らませて、ストーリーを作り上げていく感じです。
――リアルと妄想が絶妙に溶け合っているから、聴く人の共感を呼ぶのでしょうね。でも、ラブソングを歌っていると曲の登場人物=ご本人と受け取られることもありますよね?
あいみょん:デビュー曲の「生きていたんだよな」が重めでセンシティブな曲だったので、当時は「とっつきにくい人」「めっちゃメンヘラ」だと思われていたと思います(笑)。ビジュアルも黒髪ロングで重ためでしたし。実際はめちゃくちゃ明るい人間なんですけど、私生活や作っている過程をみんなが見ているわけではない以上、楽曲のイメージがすべてだと思われるのは仕方ないと思っています。それに、「本当はそうじゃないのに!」と思うことがあれば、それすらも新しい曲にして歌ってしまえばいいや、と思うようにしていますね。
◆「あれは愛だった」と、後から知る愛もある
――これまでさまざまな愛の形を歌ってきたと思いますが、愛の意味や捉え方は、年を重ねるにつれて変わりましたか?
あいみょん:すごく変わったと思います。中学生の頃、母親がよく作ってくれたオムライスのお弁当をなぜか手抜きだと思い込んでいて、「みんなは唐揚げとかなのに、うちだけオムライスで恥ずかしい」と勝手にコンプレックスに感じていたんです。大人になってから自分で家事をするようになったら、「オムライスってめちゃくちゃ手間がかかるし作るの面倒くさいやん!」って気づいて、あれは母親の深い愛情がこもっていたんだなと理解したんですけど。中学生の私はその愛を素直に受け取れていなかったんですよね。若さゆえに気づけなかった周囲の優しさや思いやりに、時を経てから「あれは愛だったんだな」と改めて気づかされる。そういう瞬間が人生には何度も訪れるのだと思います。
――音楽から受け取った愛もたくさんあるんでしょうね。
あいみょん:それは本当にその通りで。音楽があったおかげで、にくまん子さんのように会いたい人にもこうやって会えていますし、ファンの皆さんのおかげで、この10年本当にいろいろな経験をさせてもらいました。受け取ってきた愛の大きさに気づくたび、自分自身ももっと誰かを、そして世界を愛していきたいという思いが湧き上がってきますよね。……ちょっと照れくさいですけど(笑)。
――これからの11年目に向けて叶えたい夢や目指している目標はありますか?
あいみょん:そうですね……私が(※6)ルフィやったら「海賊王になる!」みたいなデカい夢を言えるんですけど(笑)、そういう野望はないんです。私は、明日、あさってを元気に生きられたらいいし、今のように歌えたらそれでいいんですよね。今の時代や音楽に愛されたいし、愛したい。本当に、ただそれだけかもしれません。
【Aimyon】
1995年、兵庫県生まれ。’16年に「生きていたんだよな」でメジャーデビュー。「君はロックを聴かない」「マリーゴールド」「裸の心」などの代表曲を世に送り出す。9月に初のベストアルバム『AIMYON BEST ALBUM – 唇を追え! -』を、10月には新曲「さながらロンリー」をリリース
(※1)にくまん子
現代のリアルな恋愛模様を描いた作品が多くの女性の共感を集める漫画家。著書に『泥の女通信』『恋煮込み愛つゆだく大盛り』などがある。新作漫画『恋のカスと愛のクズ』を連載中
(※2)『AIMYON BEST ALBUM – 唇を追え! -』
これまでのシングル&カップリング曲を含む全42曲を収めた3枚組。未発表曲を収録したSPECIAL BONUS CD付き初回限定盤も。ワーナーミュージック・ジャパンより発売中
(※3)初期の楽曲
好きな人への執着を猟奇的に表現した「貴方解剖純愛歌〜死ね〜」や、飛び降り自殺した少女を第三者視点で歌った「生きていたんだよな」など、過激な題材をポップスとして成立させた
(※4)『恋のカスと愛のクズ』
煮え切らないクズ男との関係や、マチアプでのワンナイトといったダメ恋にハマる30歳の恋愛迷子しずみが、自称宇宙人の悶子に観察される奇妙な共同生活を描いたラブコメディ。単行本第1巻が発売中
(※5)「朝陽」
都合良く扱われる女性の痛みを描いた楽曲。にくまん子がこの曲を漫画化した「バカみたいでゴミみたいな」が『TV Bros.』’20年10月号に掲載された
(※6)ルフィ
人気漫画『ONE PIECE』の主人公。連載29年の現時点ではまだ海賊王にはなっていない
取材/にくまん子 文/福田フクスケ 撮影/武田敏将 ヘアメイク/松野仁美 スタイリング/二宮ちえ
衣装協力/トップス、タンクトップ BASERANGE / BASERANGE JAPAN、スカート ELCHELE、シューズ Vans / Vans Japan
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―