写真/産経新聞社◆「流行り物は廃れる運命」「他人事は重罪」ミセスの街頭広告に賛否
9月30日リリースの最新アルバム『POPS』が絶好調のMrs. GREEN APPLE。しかし、いまその街頭広告をめぐって賛否が分かれています。
問題となっているのは、渋谷のスクランブル交差点やハチ公前広場などに掲示されている文字広告です。アルバム収録曲の歌詞からの一節や彼らの主張を訴えるもので、「流行り物は廃れる運命」とか「他人事は重罪」といった刺激的なフレーズが注目を集めています。
筆者もニュース番組の天気予報コーナーで目にして「何事だ?」と驚きました。街を歩く人にも大きなインパクトを与えたことでしょう。
一方で、こうした手法に反発する人もいます。「ミセスグリーンアップルさんってスクランブル交差点で人様の“罪”とやらを裁く権限あるんですか?ちょっと奢って(原文ママ・正しくは「驕って」)ませんか?何で私たちはあの広告見せられなきゃなんないわけ?」というXの投稿に多くの共感が集まっていました。
また、「この広告がいい例だけどミセスって下品なんだよな やんわり嫌悪感抱いてる人が多い原因もそこなんじゃないか?」という世間での受け止めを分析する声も。
◆一部のファンも「今回の広告は正直ダサい」
そして、ミセスのファンからも疑問を呈する意見が出ています。「ミセス好きだけど今回の広告は正直ダサい」とバッサリ。街中をメッセージで埋め尽くしたところで、新規ファンは開拓できないのではないかと、厳しい見方をする人もいました。
さらにコメントを見ていくと、普段はミセスに対して反感を持っていない人たちも違和感を抱いた人が少なくないようです。見ようともしていないものが目についてしまった結果、自分の意志とは無関係のストレスを感じてしまった、というのです。
それが単発ならまだしも、何メートルか間隔で大きなパネルの文字列が目に飛び込んでくる。ちょっと悟った中学生の主張のような訴えが、断続的に不可抗力で刷り込まれていく圧迫感があることは理解できます。
◆反発が起こったワケ
もちろん、ミセスに対する好き嫌いや、表現に共感するか反発するかは、人それぞれでしょう。ただし、ミセス側にひとつ見誤った点があるとすれば、それは、こうした広告展開の方法が、アーティストとファンとの間でしか成立しにくいタイプの表現だったことです。「俺たち、私たちのミセスが渋谷という巨大都市をジャックして刺激的なことをする」という興奮は、あくまでも彼らに忠実なファンに対してこそアピールし得るということです。
ところが、身内ノリでしか通用しないワチャワチャ感を、そのまま街というパブリックスペースで繰り広げてしまった。このことへの冷めた視線が、今回の一件の根っこにあるのです。
もちろん、ファンが渋谷を訪れ、写真を撮影してSNSにアップして拡散するところまでがこの広告のストーリーだということはわかります。そうして広告のキャッチコピーが増殖をくり返すことで、ミセスが巨大な社会現象であるということを世間に印象づける戦略は、とても自然な発想だと言えます。
いまやミセスは、音楽、バラエティ、映画、ドラマ、ファッションをひとまとめにした、いわばエンタメ界のコングロマリットです。そんなミセスのキャッチコピーが巨大都市をジャックする光景は、圧倒的に一人勝ちしている現状をわかりやすく示すものではあります。
しかし、それは公共空間においてはかなり私的な要素が強い。なぜなら、ファン以外の大多数の人にとっては、音楽シーンにおいてミセスが飛び抜けた存在であるかどうかにはあまり関心がないのが現実だからです。そうしたフラットな認識でいる人が多い「公」の環境に、「生きる程に人は腐っていく」だとか「他人事は重罪」といった強めの文言が何の脈絡もなく目に飛び込んでくる。これが、共有スペースに土足で踏み込まれたような感覚だということなのでしょう。
◆“ミセスハラスメント”への嫌気に拍車?
確かにセンセーショナルでネット上でバズるのだろうけれども、その割には新作アルバムの宣伝であることまでは部外者には伝わりにくく、逆にミセスに対する潜在的な反感に火をつけるだけに終わってしまった可能性だってあるわけです。
以前から、一部では「ミセスハラスメント」なる言葉で揶揄する声もありました。野外ライブでの騒音や、プロ野球の試合進行を妨げるほどの花火の演出などのニュースが続き、うっすらとミセスへの疑問や反感が積み重なってきた経緯があります。
街の景観とはマッチしない文章を乱れ撃ちしている様子が、「ミセスハラスメント」への嫌気に拍車をかけているとは言えないでしょうか?
もちろん、こうした広告が貼り出されているからには、表現についての法的、技術的な問題はないという判断なのだと思います。
しかしながら、広告掲示に際しての手続きに問題がないことと、そのメッセージが意図したように伝わり、効果を生むこととは別の話です。
果たして、ミセスの『POPS』は人々の心に届いたのでしょうか?
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4