『天気の子』は俳優の声優起用のひな形に 小栗旬や本田翼らキャスティングの効果を考える

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2019年08月13日 10:01  リアルサウンド

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『天気の子』(c)2019「天気の子」製作委員会

 現在公開中の大ヒット映画『天気の子』。醍醐虎汰朗と森七菜という若手俳優が声優を務め、小栗旬、本田翼などの実力派俳優が脇を固める。アニメ作品であるならば、人気の高い実力派の声優をメインに起用したほうがいいという声も聞くが、『未来のミライ』を初めとした細田守監督の一連の作品、スタジオジブリ作品、またディズニー作品など、俳優をあえて声優として起用するケースは多い。本職ではない役者が声優を務めることのメリットと、役者が声優を務めることならではの魅力とは何なのか?


参考:ほか場面写真はこちらから


・役者は、監督が色を塗る白いキャンバス
 映画『天気の子』は、ヒロインを助けるために奔走する主人公の森嶋帆高を醍醐虎汰朗、天気を操る不思議な能力を持ったヒロインの天野陽菜を森七菜が演じ、そのフレッシュな存在感が話題だ。2人とも俳優デビューして2年ほどの新人であり、本作が声優デビュー作になった。


 醍醐虎汰朗と森七菜の抜擢は、2人がまだ無名に近い若手俳優で、何色にも染まっていない真っ白なキャンバスであったことが大きい。そもそも主人公像や声のイメージ、話し方や振る舞い方などは監督の中で実に明確で、どんなに集客の見込める実力派声優であっても、イメージや演技がすでに固まっている者より高いポテンシャルを持った若手を育てるほうが、はるかに監督のイメージに近づけることができる。実際2人の声と演技には、余計なものがなくリアリティさを感じさせ、役どころとの違和感がなかった。演技が未熟な部分はあっても、2人とも役どころと同じ10代であるというリアリティがそれを補い、作品を観る者にとって心地よい没入感を与えてくれている。


 加えて『天気の子』は、アニメ映画でありながら、限りなく実写の感覚に近い作品であることも見どころの一つだ。光の捉え方や背景の緻密さは新海誠監督の真骨頂で、それは前作『君の名は。』でも話題になった。そうしたリアリティを追求した映像手法において、ともすれば違和感を与えてしまうのが、アニメ然としたキャラクターの絵とファンタジー要素を含んだ設定だ。その違和感を見事に埋め、ファンタジーを兼ね備えたリアルな作品へと昇華させているのが、2人の若手による飾らない自然さのある声と演技だろう。


・役者の持つイメージを巧みに利用した配役
 しかし役によっては、すでに色の付いた、俳優の固定されたイメージを上手く利用する場合もある。例えば、須賀圭介を演じた小栗旬がそうだ。ちょっとやさぐれて人生を諦めてしまっている風だが、その内心にはまだ熱いものを持った兄貴的な雰囲気を持つ須賀に、小栗が演じた映画『銀魂』の坂田銀時をほうふつとした人もいたはず。


 今や若手俳優の兄貴的存在であり、プライベートでは子を持つ親であるところなど、小栗と須賀は重なるところが実に多い。もちろん演技力の高さがあった上で、すでに様々なイメージが持たれている小栗を通すことによって、作中では細かく描かれていない須賀のキャラクター性にまで想像を広げることができるのだ。そうしたパブリックイメージを活用したキャスティングの最たるものが、平泉成が演じた平井刑事だろう。作中で説明もなくすっと出てきても、一発で刑事だと印象づけられた。限られた時間の中で完結しなければいけない劇場アニメにおいて、いかに説明の時間を省くかも大事なテクニックになってくる。


 逆に、役者の顔が出ないアニメ作品ならではの匿名性によって、純粋に芝居だけで勝負できることも俳優にとってのメリットだろう。本作で評価を高めたのは、主人公を助ける女子大生の須賀夏美を演じた本田翼だ。近年のドラマでは編集者、女性刑事、医者、記者などの堅い職業の役柄が多く、眉間にしわを寄せた重々しい演技が多く見られた。本作では一転、どこか冷めているのに興味があることにはグイグイと首を突っ込んでいく、いかにも今どきの20代女性といった役がハマった。テンションが高くコロコロと変わる表情は、バラエティ番組で見る素の本田に近いといった印象で、いい意味で肩の力が抜けている。実にニュートラルな演技で、見終わった後で「そう言えば本田翼だったのか」と気づいた人も多いだろう。本田にとっても新しい引き出しを開いたようで、実写ではなかった最近あまりなかった役柄で、新たな魅力を輝かせている。


 俳優が、アニメ映画に出演すること。作品にとってそれは、俳優の持つイメージをさまざまに利用しながら、その役をより監督のイメージに近づけることができるなどの多くのメリットがある。俳優にとっても、映画やドラマとは違う手足の動きを封じられた環境で演技することによって、新たな演技ゾーンへと突入することができる。


 例えば新海監督の前作『君の名は。』に出演した上白石萌音。神木隆之介も10代の頃に出演した『サマーウォーズ』をきっかけに、役者として大きく跳ねた。今回『天気の子』に出演した醍醐虎汰朗と森七菜も、今後の役どころと演技に熱い視線が注がれている。映画『天気の子』が成功を収めたのは、多くの俳優を声優として起用したことも一因としてあるのではないか。今後、俳優を声優として起用する際の、ひな形になり得る理想的作品だと言えるだろう。


※記事初出時、誤表記がございました。訂正の上、お詫びいたします。


(文=榑林史章)


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  • やっぱ本業の人には及ばないんだよなぁ…なんていうか画の手前側から声が出てるというか…本業はキャラに魂が吹き込まれるから上手い上手くないの概念じゃなくなる。
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