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宇多田ヒカルのソングライティングはどう変化した? 新曲とこれまでの楽曲を改めて分析

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2016年04月23日 14:01  リアルサウンド

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写真宇多田ヒカル『花束を君に』
宇多田ヒカル『花束を君に』

 宇多田ヒカルの新曲「花束を君に」と「真夏の通り雨」が、4月15日から配信された。新曲としては、2012年11月に配信限定でリリースされた「桜流し」以来、およそ3年半ぶり。「花束を君に」はNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』主題歌、「真夏の通り雨」は日本テレビ系『NEWS ZERO』テーマ曲として、すでにテレビでは流れており多くの人の耳に届いていることだろう。そこで今回は、宇多田ヒカルのこれまでの代表曲を振り返りつつ、2つの新曲はどこが新しいのか、これまでの彼女の楽曲とはどのような違いがあるのか、ソングライティングの視点から考察してみたい。


 宇多田ヒカルの楽曲の特徴は、大きく分けると次の3つが挙げられる。


・マイナーキー(及びマイナーコード)を用いた切ないメロディ
・これまでの歌謡曲にはあまりなかった複雑な譜割
・メロディに乗せた日本語詞の風変わりなアクセント


 彼女のシングル曲のほとんどに、往年の歌謡曲、ときに演歌をも彷彿とさせるムードがあるのは、日本人の琴線を震わせるマイナーキー(及びマイナーコード)が多く使われていることにあるといっていい。それでも彼女の曲がジメジメしたものにならないのは、洋楽にも通じる複雑な譜割に、9度や11度、13度といったテンションノートが多く含まれているから。これが、なんともいえぬ浮遊感をかもしだしているのだ。日本語の音節から逸脱した歌詞の乗せ方は、桑田佳祐や桜井和寿らが切り開いた手法をさらに推し進めたもの。例えば、<最後のキスはタバコのflavorがした>(「First Love」)という歌詞は、<さ、い〜ごの、キスはタバ、コのflavorがし〜た>となる。これにより、意味がダイレクトに伝わりにくくなり、洋楽のように言葉の響きが優先されるのだ。


 まずはその「First Love」のコード進行を確認してみよう。彼女が1999年にリリースした通算3枚目のシングルで、900万枚を超えるヒットとなった同名ファーストアルバム収録曲である。実は、彼女の曲のコード進行はいたってシンプルなパターンが多い。この曲はヴァースが「G - D on F# - Em7 - G - Cmaj7 - Am7/D - G - C/G」、サビが「G - D on F# - Em7 - G - Cmaj7 - Am7/D - G」とほとんど同じ。Gをキーとしたダイアトニックコードで、Bメロも「Em - D - C - D - Em - Bm7 - Cmaj7」と、これといったヒネリはない。しかし、このBメロでは例えば<誰を思っているんだろう>という歌詞の、サビに続くロングトーンがCmai7に対してレを使うなど、9thを多用したメロディとなっているため、コードはシンプルなのにとても洗練された響きがあるのだ。


 5枚目のシングル『Wait & See 〜リスク〜』(2000年リリース)は、前作『Addicted To You』に続き、プロデューサーにジャム&ルイスを迎えて話題になった曲。マイナーキー(およびマイナーコード)を用いた「ヒカル節」の真骨頂で、ヴァースとサビが「Fm - E♭ - D♭maj7 -C7」、Bメロが「D♭maj7- E♭ on G - Cm -Fm - D♭maj7- B♭m7  - E♭ on G C7」。 C7がFmに対してのセカンダリードミナントコードとなっている以外は、やはりシンプルなダイアトニックコードだ。この曲は、メロディの抑揚が激しく、いきなり駆け上がったかと思えば急に下降したり、ファルセットと地声を巧みに使い分けたりと、予測不能の動き方をする(当時、「カラオケで歌いにくい曲」としても有名だった)。ちなみにサビの旋律が、「First Love」のサビとよく似ているのは興味深い。


 通算21枚目のシングル『Prisoner Of Love』(2008年リリース)のサビは、「Wait & See 〜リスク〜」のサビとほぼ同じコード進行で、「D♭maj7- E♭6 - Cm - Fm」となっている。tofubeatsも好んで使うこの「IV - V -IIIm - VIm」はポップスにおける黄金パターンで、他にも、「traveling」(2001年リリース)のBメロ(Cmaj7 - D - Bm7 on E - Em7)や、「SAKURAドロップス」(2002年リリース)も、Aメロの部分(E♭maj7-F-Dm7-Gm7)などでも用いられている。逆に言えば、一つのパターンでこれだけ多彩なメロディが次から次へと浮かぶのだから驚く。


 同時代にヒットしていた小室哲哉が大胆な転調を駆使していたのに対し、宇多田の転調は控えめだ。例えば、上述した「First Love」や「Wait & See 〜リスク〜」は、後半でキーが半音上がるベタなパターン(それをてらいなく用いたのが当時は新鮮だった)。そんな中、「光」(2002年)はもう少し複雑な構造である。B♭のキーでサビから始まり、コード進行は「E♭ - Gm -Cm7 - B♭ - Gm on B♭ - B♭maj7 on F - E♭ - E♭ on F - F/Gm」。メロディがリフレインする中、コードが変化し響きも変わっていく。平歌(Aメロ)は「Cm - B♭ - Cm - B♭」で、<暗闇に光を撃て>という歌詞の“撃て”が、ドとソ、つまりB♭のコードに対して9thと6thのテンションになっていて、ほんの一瞬だがこれが強烈なフックになっている。BメではキーがE♭に転調し(A♭maj7 - G7 - Cm - Cm - A♭maj7 - G7 - A♭/B♭ -Gsus4/G)、サビでまたB♭に戻る。とてもさり気ないが、ハッとさせる仕掛けだ。


 新曲「花束を君に」と「真夏の通り雨」を聴いてみよう。まずサウンド・プロダクションが、これまでになくシンプルになっていたことに驚いた。ミックス・エンジニアはサム・スミスなどを手がけたスティーブン・フィッツモーリス。時おり電子音が聞こえるものの、全体的には生楽器をフィーチャーしたオーガニックなアレンジになっている。メロディも、「緻密」というよりはいい意味でデモテープ的な「ラフさ」を残し、程よく肩の力が抜けた印象だ。コード進行はこれまでどおりシンプルだが、「花束を君に」はいつになく明るい曲調で新鮮。ヴァースが「E - G#m / A -F#m / B - E 0 E- G#m / A - F#m - A/B」。サビは「E/G#m - A/E - A/E - A/E - E/G#m - G#/C#m - Amaj7/G# - Amaj7/G# - A/E - A/E - D/B - E」。サビのA/Eの繰り返しや、後半に出てくるDというコード、メロディの節回しがゴスペルやリズム&ブルースを彷彿とさせる。間奏の「E/C#m - G#m - E/C#m - B」は、個人的にはコクトー・ツインズやビーチ・ハウスの和音の積みを思い出した。


 比較的これまでの「ヒカル節」に通じる「真夏の夜」のコード進行は「mE - D#m7 - C#m7 - D#m7 - E - D#m7 - C#m7 - D#7」。途中から8小節目にF#(次のD#7に対するセカンダリードミナントコード)が挿入されるくらいで、あとはひたすら同じコード進行が繰り返される。ただし、上に乗せるメロディやピアノのフレーズが変わっていくため、和声がカラフルに広がっていくのだ。


 歌のキーは、どちらの曲もこれまでに比べて若干低めに設定されているようで、全てを包み込むような宇多田のヴォーカルが「深み」や「優しさ」を与えている。おそらく、彼女自身の私生活の変化(再婚、出産、母との死別)も、こうした曲作りに大きな影響を与えているだろう。


 余計な音をそぎ落としヴォーカルを最大限に引き立てた、宇多田ヒカルにとって新境地とも言える2曲。来たるべきニューアルバムには、このクラスの楽曲が並ぶのかと想像すると、今から楽しみでならない。(黒田隆憲)


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