トランプ不倫スキャンダルに潜む深刻な疑惑 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2018年04月17日 17:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<トランプとポルノ女優ストーミー・ダニエルズの不倫スキャンダルは事実関係や口止め料をめぐって泥沼の展開を見せているが、ロシア疑惑が絡んでくると深刻な問題になりかねない>


トランプ大統領のスキャンダルといえば、ロシア疑惑がまず有名で、主としてその捜査のために中立性の高い「特別検察官」として、ロバート・ムラー元FBI長官が指名されています。こちらは、まずトランプ側近の金脈などの捜査が進む中で、何件かの容疑が立件されています。


その一方で、現在アメリカのメディアを賑わせているのは、トランプの不倫スキャンダルです。相手としては、男性誌のプレイメイトなど何人かの女性の名前が上がっているのですが、現時点で最も注目を集めているのは、ストーミー・ダニエルズ氏(芸名、本名はステファニー・クリフォード)というポルノ女優です。


彼女は以前に大統領と不倫関係にあり、大統領選の最中の2016年に大統領個人の顧問弁護士を務めるマイケル・コーエン氏という人物が、口止め料として13万ドル(約1400万円)を支払ったことが明るみになっています。


何が問題かというと、1つは大統領がダニエルズ氏との不倫関係を否定しているという問題があります。もちろん反対派だけでなく多くの支持者も「多分関係はあっただろう」という見方をしていますが、仮に大統領が否定しきれなくなって屈服すれば、政治的にはダメージになるでしょう。


2つ目は、顧問弁護士がカネを渡したという問題です。そのカネが選挙資金から出ていれば、政治資金の流用という重罪になります。これに対して、顧問弁護士のコーエン氏は「ポケットマネーで払った」というのですが、その場合、今度は「コーエン氏が不正に選挙資金を拠出した」ことになってしまいます。


3番目は、ダニエルズ氏がカネの見返りにサインさせられたという「守秘義務契約」つまり「不倫についての口止め契約」の効力です。ダニエルズ氏は、「トランプがサインしていない」ことを理由に「契約は無効」だとして、この間、不倫の事実を含めてメディアに喋っているわけですが、その正当性が争われています。


興味深いのは、この3つの問題が知恵の輪のように入り組んでいるということです。仮に「口止め契約」が有効だということになれば、大統領としては不倫を認めたことになります。同じことで、ダニエルズ氏に対して「口止め契約を守っていない」と非難することも、同様に「不倫を認めた」ことになるわけです。そこで、コーエン氏の払った金の意味合いが違法ということも含めて、コーエン氏側は「和解」を提案していますが、ダニエルズ氏側は拒否しています。


この問題で、4月9日にコーエン弁護士に対して、FBIが強制的な家宅捜索を行い、この問題を含む大量の書類を押収しています。押収した資料は、大統領を捜査対象としている特別検察官のチームにも渡ったとされており、またこの時点でダニエルズ氏は司法当局に対して捜査への協力を開始しています。こうした動きに対して大統領は激怒していると伝えられます。


この書類押収について今週16日に、ニューヨークの連邦地区判事が命令を出して「一体どの書類が押収されているかを明示せよ」「差し押さえをする書類に関しては、その根拠となるキーワードを明示せよ」というような指示をしています。一見すると、FBIの「行き過ぎ」を牽制しているようで、とりあえずトランプ陣営は歓迎しています。


ですが、同時にこの地区判事は「コーエン弁護士が(トランプ応援団の)TVキャスター、ショーン・ハニティ(FOXニュース)の秘密弁護人だったことを暴露」しています。このハニティは、4月9日のコーエン弁護士への強制捜査について、番組内で厳しく批判していたのですが、コーエン弁護士との秘密の「弁護関係」があったとなると話は別で、ジャーナリストとしての倫理が問われる事態となってしまいました。


さらに16日、裁判所の前でストーミー・ダニエルズ氏本人が会見して、「コーエン弁護士は自分が法律であるかのように振る舞ってきました。今こそ、真実の究明が必要です」と述べ、徹底抗戦の構えを見せていました。少し前にCBSテレビのインタビューに応じたダニエルズ氏は、この「不倫口止め」問題に関して、身体的な危害を加えるというような脅迫を受けたと述べており、それも含めてトランプ氏とその周辺に対して激しく反発しているのです。


ここまでお話しした範囲では、いかにもトランプ氏らしい「下品なスキャンダル」で、それ以上でもそれ以下でもないイメージです。反対派は「大統領にあるまじき下劣さ」だと怒っている一方で、支持派は「庶民的な大統領への攻撃だ」というような気分で、FBIなどの動きには冷ややか――そんな分裂の中では、どんなに進展があってもインパクトは限られるのかもしれません。


ですが、この「ストーミー・ダニエルズ問題」で見えてきた大統領の人格的な問題について、例えば今週回顧録を出版するコミー前FBI長官(トランプ大統領によって解雇)は「女性を皿の上の肉片のように思っている下劣な人物」(ABCテレビでのインタビューから)だという真正面からの批判を開始していますし、特別検察官も捜査を続けています。


さらに言えば、ロシア疑惑のうちの重要な点として、大統領の女性問題に関する秘密をロシア当局に握られているという疑いも捜査対象となっています。女性問題とロシア疑惑が「つながって」一つの大きなストーリーになるようであれば、さらに深刻なスキャンダルに発展する可能性も考えておかなければなりません。


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