「本当はスタジオと同じ音で聴いてほしい」鈴木慶一が“音楽と音質の関係”を語る

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2013年12月03日 20:11  リアルサウンド

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このインタビューの完全版は、『極上の音質で楽しむ最新PCオーディオ入門(洋泉社MOOK)』に掲載されています。

 音楽配信が一般化し、PCで音楽を楽しむリスナーが増加している昨今、CDの3〜8倍程度の情報量を持つ「ハイレゾ音源」の配信サービスに注目が集まっている。可聴帯域を越える音楽信号まで収められ、ミュージシャンの生演奏を間近で聴いているような臨場感を味わえるという「ハイレゾ音源」だが、そもそも高音質で音楽を聴くことにはどのような音楽的メリットがあるのか。ムーンライダーズのボーカル・リーダーであり、映画音楽やCM音楽も手がける鈴木慶一氏に、音楽と音質の関係性について語ってもらった。



●良い音と、良い音楽は、完全にダブっているわけじゃない



――鈴木さんは、ご自身の音楽を、どんな環境でリスナーに聴いてもらいたいですか?



鈴木慶一(以下、鈴木):なんにせよ、聴いていただければ、それだけで嬉しいんですけど……mp3配信するときは、それ用にミックスをしているので。まあ、音質の問題は、数値的に高いか低いかの問題なので、聴いたときの印象は、なるべく同じようにしたいと思っているんだけど、長年スタジオで作業していると、どうしても聴いている音のクオリティが高いわけだよね。だから、本当はそれと同じ音で聴いていただきたいんだけど……となると、現状ではハイレゾの配信しかないんじゃないかな?

――ミュージシャンは、ずっとそのジレンマと戦っている?



鈴木:そうだね。そこがつらいところなんですけど……聴くほうの環境は、やっぱり各自違うから。だから、スタジオのスピーカーでチェックしたあとに、ラジカセとかでもう一回聴いて確認する場合もあるし、自分の車でかけて確認する人も多いみたいだね。ミックスし終わったやつを車で聴いて、感じが良ければOKっていう。でも、それは音質っていうよりも、車で毎回聴いているから、それが基準になっていると思うんだ。



――「ものさし」的な感じで?



鈴木:そうそう。私も、できあがったものは、会社のプライベートスタジオのスピーカーで必ず聴いて、それで最終判断をするので。だから、自分の基準となるものを、ひとつ作っておくっていうのは、結構大事かもしれないよね。あと、忘れちゃいけないのは、良い音を聴いていることと、良い音楽を聴いていることは、完全にダブっているわけじゃないってことですよね。オーディオ的に良い音と、心を揺さぶれる音楽は、また別のものだったりするので。まあ、良い音でも、結構心を揺さぶられちゃったりするから、そこは難しいところなんだけど(笑)。



――良い音楽を良い音で聴くに越したことはないけど……。



鈴木:もちろん。両方あるのがいちばんいい(笑)。ただ、音楽をやっている人は、ちょっと聴き方が違っていて……音の良し悪しよりも、『あ、こんな音が入ってたのか!』とか、そういう聴き方をしている人が多いよね。たとえば、60年代のアルバムをSACDとかで聴くと、こんなに良く聴こえるのかっていう。ローリング・ストーンズの「ルビー・チューズデイ」に入っているチェロの音とか、SACDで聴いてびっくりしたもんね。ただ、それはものによるというか……ザ・バーズとかは、SACDじゃないほうが良かったりするんだよね。バーズの音は、あんまり分離しないほうがいいというか、グチャっとしていたほうがいい気がする。まあ、それは私の好き嫌いに近いのかもしれないけど。



――ああ……個人の好き嫌いも、そこには入ってくるわけで。



鈴木:そう、こっそり入って来るんだよ。俺はハイハットが右にあるのはイヤだとか(笑)。で、それを左に直したら、意外としっくり来たりして。要するに、音の定位っていうのは、本当に相対的なものなので、絶対的なものではないんですよね。私はエンジニアじゃないので、そこはお任せしますというか、他人がやることによって、すごく良くなる場合もあるわけで。



――第三者が入ることによって、音の着地点が見える?



鈴木:そうですね。そのためのマスタリング、そのためのエンジニアだったりするわけだからね。



●クオリティの高い音とそうでない音を混ぜると、どちらも目立つ



鈴木:音楽が面白いのは、エンジニアリングも含めて、すごく小さいことの積み重ねだっていうことなんだよね。たとえば、ギターの音を良くするには、コイルの巻き方だったり、電気的なケーブルのことだったりを、ちょっとずつレベルアップして音を良くしていくわけで。あと、普通のスタジオに行けば、超高額なケーブルがはわされているわけだよね。で、電気も一回きれいにするとか。そうやって細かい積み重ねでクオリティを上げていく。だから、よく言うよね、20万のスピーカーを使っていても、プレイヤーが5000円では意味が無いって。



――言いますね。



鈴木:やっぱり、電流が通るところを、全部同じように上げていかないとダメなんだよね。まあ、そういうことばっかり言ってると、『普通の人には、わからないんじゃないですか?』って言われたりもするんだけど(笑)。とはいえ、クオリティの高いものを出したいという気持ちは、ちょっと譲れないんだよね。たとえ普通の人が聴いてもわからないことだったとしても、そこはちょっと俺、わかるから(笑)。



――鈴木さんは、5.1chサラウンド録音をはじめ、新しいことを率先してやっているイメージがありますが、そのスタンスは今後も続いていきそうですか?



鈴木:そういうものが出たらね。レコーダーとしてのデジタルに移行するのがちょっと早すぎて、いろいろひどい目にあったりとかしてるけど(笑)。でも、テクノロジーっていうのは、非常に重要なものだとは思っているので。まあ、いまだに敢えてテープで録るとか、カセットで録るとか、そういうのもやっているんだけど。



――そこがすごいですよね。



鈴木:まあ、そこは相対的なものなので。クオリティの高い音とそうでない音を混ぜると、どちらも目立つんだよね。全部きれいな音にしていくと、なんかのっぺりしていくっていうか。あと、シンセサイザーの会社とかプラグインの会社も、全部同じものにしちゃうと、なんか同じに音になっていくから、違う会社のものを混ぜたりとかして。



――いろいろな音を混ぜることが大事であると。



鈴木:うん、そうなっちゃうよね。過去のものでも、すごい良い音のする機材があったりするから。私はそこまで持ってないけど、ミュージシャンはみんな、昔の良いマイクを持っていたりするよね。機材に詳しい人も多いし。そう、昔は自分が作った音楽を、誰かに録音してもらって、それで済んでいたけど、いまは自分でやったりもするわけで。そうなると、エンジニア的な知識も必要になってくるというか……音楽を作るよりも、そっちの時間が増えてくる(笑)。



――キャリア分だけ知識が増えて、やることも増えているっていう。



鈴木:そういうことなんだよね。でも、私のまわりにいるミュージシャンを見ると、みんなそういう感じだよね。宅録したり、機材に詳しかったり……ムーンライダーズもそうだったな。次のアルバムを作ろうってなって、メンバーのデモを集めると、『これ、いい音してるな』とか『新しい機材、買った?』とか、そんな話ばっかりで、なかなか曲の話にならない(笑)。



●生音がすべて聴こえるような画期的なシステムを



――技術的なことで、今後やってみたいことって何かありますか?



鈴木:何か画期的な新しい機材が出ないものかなっていうのは思いますけどね。長い間ステレオの時代が続いて、それが5.1chまで来て……で、アナログに戻ったりいろいろなんだけど、結局は同じところをグルグル回っているだけなので、それを突破するものは、何か無いものかと。それは無いのかもしれないし、私が生きているうちには登場しないのかもしれないし、それはわからないですけど。とりあえず、両耳で聴くっていうのは、ずっと変わっていないわけで。



――ああ……脳で聴いたりとか?



鈴木:そうそう(笑)。ただ、民俗音楽とかでは、そういう感じのものがあったりするよね。こないだジャジューカっていうモロッコの音楽を聴いたんだけど、眉間にツーンと来るんだよね。それは恐らく、倍音がトランス状態を起こしているんだと思うけど、倍音を表現するのは、やっぱりCDのサイズじゃ難しいかもしれない。だから、生音がすべて聴こえるようなシステムを――とか言ってると、オーディオ・マニアみたいになっちゃうけど(笑)。でも、そこを突破するものが何か出ないものかっていうのは、常々思っていますよ。



――仮にそういうものが出たら。



鈴木:うん。真っ先に飛びついて、何かやろうって思うだろうね(笑)。
(『極上の音質で楽しむ最新PCオーディオ入門 (洋泉社MOOK)』より抜粋。文=麦倉正樹)



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