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誉め言葉は「お前バカなことしてるなあ」“異才育成”プロジェクトとは?

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2017年10月17日 11:32  AERA dot.

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AERA dot.

写真出展したロボットを見せながらの成果発表。製作者の二人は、中邑教授を説得してモーター数十個など部品の購入に成功した。熱意が扉を開く(撮影/植田真紗美)
出展したロボットを見せながらの成果発表。製作者の二人は、中邑教授を説得してモーター数十個など部品の購入に成功した。熱意が扉を開く(撮影/植田真紗美)
 受験に失敗したら才能がないのか。そんなことはない。キミの能力は眠っているのかも。そんな才能を呼び覚ます試みが今始まっている。

 将来ノーベル賞につながるような、先進的でユニークな研究者を育成できる場とは何か。どんな人材が群れを抜け出し、誰も考えつかなかった技術革新をなしうるのか。そもそも凡人が目指して取れる賞ではないし、賞の獲得を動機にした研究など本末転倒だが、突き抜けた才能は必ず、いつの世にも存在する。そうした人材発掘のヒントが、詰め込み教育とは無縁、東西の大学で進む二つのプロジェクトの中にあった。

「揃いも揃って変わり者のみなさんこんにちは。1期生のヘンな絵を描く不登校中学生のハマグチエイシです。こんな変わり者の私たちにとってここはとてもよい場所です。間違えないように、バカと思われないようにと過ごしてきた学校生活と、ここは全く違いました。『お前、バカなことしてるなあ』がここではむしろ褒め言葉なのです」

 東京大学先端科学技術研究センターで9月25日、日本財団と同センター共同の異才発掘プロジェクト「ROCKET」の成果発表会があり、濱口瑛士さん(15)はタブレットに綴った原稿を読み上げた。読み書きがうまくできない「書字障害」で、小学校時代から漢字のテストは毎回零点。幼いころから同級生らにイジメられ不登校になった彼は、絵やファッションなどの表現力に秀でた天才だ。まもなく第2弾の画集を世に出し、来春には絵本も出版する。

 発表会では他にも、自律型ミッションロボットで世界コンテストを目指す大阪の高校生コンビ、5次方程式に解の公式が存在しないことを証明する「ガロア理論」を淀みなく説明する小学4年生など約25人が、この一年の取り組みを披露した。

 このプロジェクトは、突出した才能がありながら、教育環境に馴染めず不登校傾向にある小中学生を選抜し、継続的な学習と生活の支援をする制度で、毎年500人以上の応募がある。初年度の2014年度は15人、15年度の2期生は13人、16年度の3期生は31人を選抜した。発表会で第3期は終了し、今年度から4期生が加わるが、ROCKETには「卒業」の概念はない。様々な分野で活躍するトップランナーによる講義、料理や工作など多彩なプロジェクトベースドラーニング(PBL)の他、数学・物理や歴史など興味の異なる5分野でグループ学習にも取り組み、個々人がやりたいことを申請し、自分の能力開発を加速させていく仕組みだ。

●技術でカバーできない

 このプログラム、主宰する同センターの中邑賢龍教授の個性と熱意に負うところが大きい。身体障害を工学分野から支援する研究を続け、香川大学などで教鞭を執ってきたが、05年に東大先端研に着任してからは認知障害や精神障害に軸足を移していった。身体障害とは違い、技術でほとんどカバーされていない領域であり、社会や学校で不適応を起こしている子が大勢いることにも気づいたからだ。その中邑教授は言う。

「豊かな才能があるのにバランスが悪い故に入試を突破できない。例えば瑛士はワープロ入力ならすごくいい文章を書く。でもペンをとって書くのは苦手です。また、日本語の読み書きが辛うじてできても、英語になると途端に読み書き障害を起こす子の割合が中学校には概ね10%います。そういう子は数学が天才的にできたとしても、そのレベルに見合った高校や大学には進めない。そういう理解が社会にないから、彼らはいまだに学習の遅れた、努力しない子とみられるわけです」

 こうした切実な思いに共鳴した日本財団が、助成だけでなく能動的に参画する試みとして、ROCKETは始まった。社会や学校から排除されたが故に、逆にとことん好きなことをやれる時間を得た子どもたち。そんな彼らに、中邑教授は徹底的に実証主義を叩き込む。リアリティーに基づく疑問を持たせ、気づきを積み重ねて、たくましくなるよう導くわけだ。

●形を変えた優生思想

 昨秋の海外研修は、ナチス・ドイツのアウシュビッツ収容所や、ロボット工学を応用した義肢などを用いた障害者のスポーツ大会サイバスロンなどを訪れた。

「サイバスロンを見た彼らは『歩けないような人が速く階段を上れるような技術を競っている。すごい』と称賛し、アウシュビッツでは『化学薬品を使って人間を実験台にして虐殺している。科学技術の悪い例だ』と断罪しました。普通の教育ならここで終わりです」

 だが中邑教授はそこで終わりにしない。人と違うから、劣っているからなどと虐げられ、引きこもっていた自分たちとどう違うのか、と問う。現代では妊娠して羊水検査で発生異常が見つかると、圧倒的多数が産まないという選択をするではないかと。

 こうぶつけると、子どもたちはざわつく。走れたり重いものを持てることを目指すサイバスロンも、形を変えた優生思想ではないのかと初めて気づくのだ。「科学技術がみな同じほうを向いているのにヒトラーだけを責めることは抜本的解決ではないことを、彼らのようなエキセントリックで集中力のある人たちには考えてもらう必要がある」とも思う。

 国内研修では「最果ての旅」と題し、東京駅から南北2チームに分け、スマートフォンを没収し、「枕崎(鹿児島県)と稚内(北海道)に各駅停車で6日以内にたどり着け」と指令を出した。気が遠くなるほどの距離のはずだが、帰りは東京まで飛行機で2時間足らず。子どもたちは技術革新で現代人が距離感を失ったことを体感した。

 天才児教育でも、ギフテッド教育でも、入学試験をゴールとする教育でもない。しかし、無駄を楽しみながらも責任感を身につけ、0から1を生み出すイノベーターを育成する機運が、そこには満ちている。

 西日本でも面白い試みが進んでいる。京都大学が次世代研究者育成支援として09年度から始めた「白眉プロジェクト」。豪腕で知られる松本紘・前総長(現理化学研究所理事長)が導入した遊び心に溢れた制度だ。総長直轄の「白眉センター」が、毎年20人の若手研究者を採用、5年という身分保障の中で伸び伸びと研究を深められる。

●5年間好きなことを

 どんな取り組みか。例えば、白眉4期生で量子コンピューター研究で大きな成果を上げ、東京大学の助教に転出、この10月に京大大学院理学研究科の特定准教授に就任した藤井啓祐さん(33)。量子コンピューターは、情報を「0」か「1」で処理する従来型コンピューターと異なり、「0と1が重ね合わさる」という量子の性質を利用しており、スーパーコンピューターでも何十年とかかるような問題を一瞬で解くことができると理論的に予想されている。計算能力は劣るが組み合わせ最適化問題に特化した専用量子マシンはすでに商用化されており、万能な量子コンピューターの研究開発には巨大IT企業なども次々参戦している。こうした動向の背景には、多くのノーベル賞級の理論的発見や実験的ブレークスルーがある。

「5年がありがたいんです。僕の研究分野は日本でほぼやっている人がいなくて、学生時代から後ろ盾がない状況だった。博士課程後(通称ポスドク)の職を見つけるのが大変で、拾ってもらった大阪大学では文部科学省のプロジェクトで2年間、必死で年に5本ペースで論文を書いた。それで白眉に採用されたんですが、5年好きなことをやりなさいと言われると、最初の3年ぐらいは次のポジションを考えずに思いきり研究できるので短期間で成果が出やすい。僕もそうですが、結果的に3年ぐらいで他に転出される方が多いですね」(藤井さん)

 部際で集まる多彩な人材との交流が視野も広げる。藤井さんも白眉にいる農学系や情報系の仲間と共同でコンテストの優秀賞を獲得。さらに、続く。

「今の共同研究者も白眉出身。タコ足を模したシリコン製のソフトロボットをグニャグニャ振って計算しようという人です」(同)

 ROCKETと白眉。閉塞感に満ちた現代社会を飛び出して、無限の宇宙まで突き抜けろ。

(編集部・大平誠)

※AERA 2017年10月16日号

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このニュースに関するつぶやき

  • 素晴らしい、実に、素晴らしい! 朝日新聞やAERAで、大々的に採用すれば? ちょっとはマシな記事も書けるようになるかもね♪
    • イイネ!0
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  • 日本では変わり者は好奇の目で見られ、叩かれる風潮が強いですからね。 そう言う意味ではこの選択肢はあって然るべきだし、これから増えて欲しいと思います(`・ω・´)
    • イイネ!142
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