オルタナティブR&Bからパワーポップバンドまで 高橋芳朗が気になる新鋭女性アーティスト5選

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2018年06月24日 13:51  リアルサウンド

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 今回のキュレーション連載は、気になる女性アーティストの新作を5タイトルほど。


参考:Father John Mistyから田中ヤコブまで……オルタナティブな歌心を持つ新作5選


 まずは『Rolling Stone』の2018年上半期総括企画「50 Best Albums of 2018 So Far」にも選出されるなどすでに欧米では一定の評価を確立しているNatalie Prassのセカンドアルバム『The Future and the Past』。Alabama ShakesでおなじみATO Recordsに移籍しての最初リリースになります。『Pitchfork』『The Guardian』『Stereogum』『Rough Trade』といった人気音楽メディアの年間ベスト選にランクインした2015年のデビュー作『Natalie Prass』では恩師Jenny Lewis直系のチェンバーポップにメンフィスソウル/カントリーソウルのエッセンスをうまく取り込んでいましたが、Amy Wadge(Ed Sheeran「Thinking Out Loud」、Kacey Musgraves「Wonder Woman」など)やMikky Ekko(Rihanna「Stay」、Vince Staples「Surf」など)らをソングライターに起用した今回は80’sポップ/90’s R&Bの影響が濃厚。Milaelin “Blue” Bluespruceがミックスを手掛けている曲があるから、というわけではありませんが、Carly Rae Jepsenの『E・MO・TION』(2015年)を想起させる場面もちらほら。以前よりライブ等でJanet Jackson「Anytime, Anyplace」(1993年)やAnita Baker「Caught Up in the Rapture」(1986年)のカバーを披露していたのでそういう素養がある人だということは理解していましたが、ここにきて一気にR&B要素を打ち出してきた印象です。プロデュースは前作に引き続き同郷バージニア出身のMattew E. Whiteが担当。


 続いては昨年夏にDisclosureやJessiw Wareを擁するPMR Recordsからメジャーデビューを果たしたニューヨークを拠点とするオルタナティブR&Bの新鋭、Amber MarkのセカンドEP『Conexao』。トライバル/トロピカルな要素もあった前作『3:33 AM』のジャジーな魅力を強調した内容は、むしろこちらのほうが「午前3時のソウルミュージック」と呼ぶにふさわしいかと。Sade「Smooth Operator」(1984年)にインスパイアされたようなボサノバ調のタイトル曲以下、『Pitchfork』の「Best New Track」に選出されたセンシュアルなスロウジャム「Love Me Right」、アイランドフィールあふれるアレンジが光るSadeの名曲カバー「Love Is Stronger Than Pride」(このカバーにあたってはSade Adu本人に直接コンタクトをとって了承を得たとのこと)、バレアリックなビートに切り替わる展開がかっこいい「All The Work」など、90年代のUKソウル的なクールネスにしびれる全4曲。直近ではChromeoの新作『Head Over Heels』収録の「Just Friends」でも好演していたAmber、俄然フルアルバムが楽しみになってきました。まだクレジットを入手できていないのですが、おそらく今回もすべてセルフプロデュース。


 3枚目は20代前半のメンバーで構成されながらすでに10年の活動歴を誇るユタ州出身のガールズバンド、The Acesのデビューアルバム『When My Heart Felt Volcanic』。こちらはRed Bull Recordsからのリリース。ジャケットの雰囲気からなんとなく察しがつくと思うのですが、これがいままでいそうでいなかったストレートなHaimのフォロワー。Fleetwood Macマナーのコーラスワークから80’sポップや90’s R&Bを参照したダンサブルなバンドサウンドまで、「本家」のチャームポイントを実によく研究しています。Fedrick Berger(Mura Masa、Charli XCX)、Josh Gudwin(Dua Lipa、Justin Bieber)、Dan Nigro(Carly Rae Jepsen、Twin Shadow)、Greg Wells(Dua Lipa、Carly Rae Jepsen)など売れっ子コンポーザーのサポートもあって楽曲のクオリティも総じて高く、特に「Stay」や「Bad Love」といった快活なアップナンバーはHaimの最新作『Something to Tell You』に足りなかった要素といえるのではないでしょうか。


 次は昨年に来日公演も行なったオーストラリアのインディーポップバンドBabaganoujのボーカル/ベースを務めるHarriette Pilbeamのソロプロジェクト、HatchieのデビューEP『Sugar & Spice』。これがもろに80年代後半〜90年代前半のドリームポップへの憧憬にあふれた内容で、Cocteau TwinsやThe Sundays、初期のThe Cranberriesあたりが好きな向きは悶絶必至。リードトラックの「Sure」などはまさにCocteau Twins「Heaven or Las Vegas」とThe Cranberries「Dreams」を足して割ったような曲ですが、さらにこのリミックス(本作には未収録)をCocteau TwinsのRobin Guturieに依頼しているという徹底ぶりが微笑ましいです。イギリスの老舗Heavenly Recordingsからのリリース。


 最後は紅一点のボーカル/ギター担当Elizabeth Stokesを軸とするニュージーランドのパワーポップバンド、The Bethsの8月リリース予定のデビューフルアルバム『Future Me Hates Me』より先行で公開された「Happy Unhappy」を。淡いノスタルジーを湛えたキラーチューン揃いのデビューEP『Warm Blood』(2016年)と比較すると良くも悪くも洗練されてきたところはありますが、Best Coast(こちらもまもなく新作『Best Kids』をリリース予定)にも通じるオールディーズポップ調の甘酸っぱいメロディとハーモニーは引き続き健在。あとは前作の「Lying in the Sun」に匹敵するような名曲が生まれれば、夏の終わりのサウンドトラックとして完璧な一枚になりそうです。Toro Y MoiやCloud Nothngsが所属するCarpark Recordsからのリリース。(高橋芳朗)


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