レッドブル・ドライバーの意地を見せたオーバーテイク連発の平川。マルコ氏も即答で「いい仕事をした」と好印象

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2018年08月20日 18:02  AUTOSPORT web

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日本人で2人だけのレッドブル・ドライバーである平川亮。今回のレースは「スーパーフォーミュラでのベストレース」と自身も手応えを感じている
スーパーフォーミュラ第5戦ツインリンクもてぎの現場で、突然の情報にパドックはざわついた。レッドブルF1のアドバイザー、ヘルムート・マルコ氏が緊急来日して、もてぎに現れたのだ。

 マルコ氏はF1をはじめ、レッドブル・ジュニアチームを含めたドライバー選択の決定権を持つ。2019年、レッドブルF1はホンダエンジンを搭載することがすでに発表されており、ホンダとのつながりはこれからより密になる。

 さらに来季、レッドブルF1ではマックス・フェルスタッペンのシートこそ決まっているが、トロロッソを含めて3席がまだ確定していない状況だ。今回の視察がF1のシートに直結するわけではないだろうが、日本人F1ドライバーの誕生に向け、明るい材料のひとつとなることに期待が膨らむ。

 その緊張感は、ホンダドライバーだけが感じたことではない。福住仁嶺(TEAM MUGEN)はホンダ契約だが、平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)、ニック・キャシディ(KONDO RACING)もレッドブル・アスリート。予選では福住が14番手、平川が9番手、キャシディが5番手と、いずれも満足できる結果とはならなかった。

 口には出さなくとも、3人はマルコ氏の存在を強く意識していたはずだ。それぞれに気持ちを切り替えて臨んだ決勝では、福住がファステストラップをマークする。平川は2位、キャシディは3位表彰台に登壇。速さを誇示することはできた。そのなかでもマルコ氏だけでなく、観客も魅了したのは平川だった。

 平川は予選後、チームインパルの中村成人エンジニアに「2ストップ、どうですか」と提案したという。もてぎは通常ではなかなか抜けないサーキット。2スペックタイヤ制によりオーバーテイクは増えたが、まわりと同じ1ストップではソフトとミディアムを使うタイミングが前後するだけで、良くても5位か6位が現実的なところだろう。平川はその判断を「ポイントを獲りにいくようなレースはしたくなかったから」と話す。

 中村エンジニアは「2ストップはドライバーのモチベーション的に、実はけっこう難しい」という。後ろから追い上げて抜くことを繰り返すのは、速く走れるため気分は良いが、体力的にも精神的にも疲労する。ピットでのロスが1回かさむことで、そのロスタイムをコース上で取り返すのも簡単ではない。

「『それぐらいのロスなら1周1秒速く走れば取り返せるじゃん』って、ドライバー自身が信じ、それを実際にできないと成功率は落ちてしまう」と中村エンジニア。チームインパルとしては、昨季のオートポリス戦で2ストップを行ったが結果は良いものではく、2ストップに対してはネガティブな印象もあったそうだ。しかし、中村エンジニアは平川の熱い思いを感じ取り、予選日の夜、2ストップのプランを組み立てた。

■ヘルムート・マルコ氏が即答で認めた、平川のパフォーマンス

 決勝、「最初が勝負どころだった」という平川は、オープニングラップで7番手に上がると、その後は1周1台を抜いて4周目には4番手に浮上していた。この時点で、OTS(オーバーテイクシステム)の残りはすでに一発。3番手の野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)の攻略には、「できればOTSを使いたくなかったけど」、トップの石浦宏明(P.MU/CERUMO·INGING)と2番手の松下信治(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が逃げる展開になったこともあり、早めに仕掛ける必要があった。

 そして平川は7周目のダウンヒルストレートで最後のOTSを発動させる。これに野尻もOTSを使って応戦、2台は順位を変えることなく90度コーナーを駆け抜けていった。しかし2ワイドになった最終コーナー、1コーナーへのアプローチに向けて平川がストロングポジションを取ると、1コーナーにインから飛び込んで野尻の前に出た。

 その後の平川はOTSがなくとも、ライバルに対して1周1秒速いペースでラップしていく。松下がピット後、トラフィックにつかまったという背景もあったが、平川のタイムは落ちることなくトップの石浦を追い続けた。結果的に石浦には届かなかったが、数々のオーバーテイクを演じた平川は、間違いなくこの日の“コース上の王様”だった。

 レース後、平川は星野一義監督から「よくやった! お前がウイナーだ」と言ってもらったという。マルコ氏もまた、「この週末、スーパーフォーミュラという誇り高きレースで、誰がもっとも良い仕事をしたかって? その答えは即答できる。リョウ・ヒラカワだ」という言葉を残していった。

 平川は会見で「日本のレッドブル・アスリートも、やればできることをアピールできたと思う」と語った。

 しかし、これで満足はできない。9番手からの2位は褒むべく結果だが、レッドブルには「2位は最初の敗者」という思想がある。勝者はただひとり、それ以外は等しく敗者──。モータースポーツに限らず、競技とはそういう世界だ。F1を、その頂点を目指すということは、それほどに険しい道を歩まねばならない。

オートスポーツ 2018年8月24日発売 No.1488 スーパーフォーミュラ第5戦もてぎ速報

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