彼と気楽な同棲生活
20代は恋愛至上主義だったと笑う言うミキさん(38歳)。ただ、30代に入ってからも、「結婚したい」とは思わなかった。時間がある時に会える恋人がいれば、仕事に集中できるし自分の生活も大事にできる。「でも33歳の時、1人じゃなくて2人で生きていくのもいいかもしれないと思える人に出会ったんです。とはいえべったり一緒にいたいわけではなくて。彼とは話していて楽しい、いつまで話しても飽きない。そんな人に出会ったのは初めてかもしれません。
彼も『きみとは大親友であり恋人でもあり、すごく大事な人になりそう』と付き合ってすぐ言われました。私もそんな感覚を抱いていたので、同じように感じていると分かってうれしかった」
付き合い始めると、その気持ちは確信に変わった。コロナ禍に入り、様々な自由が奪われた時、彼が「一緒に住もう」と言った。彼のことは心から好きなのに、結婚する気にはなれなかったミキさんは、「一緒に住むだけなら」と伝えた。
彼も「結婚したくない」と思っていたことが判明
「実は彼も結婚はしたくなかったと聞いて、やっぱり気が合うなあと思いました。ついでに言えば、私は子どもも欲しくないのと言うと、彼は『オレはどっちでもいいなあ』と。きみがほしくなったら言ってくれれば、と。そして気楽な2人暮らしが始まりました」“家庭”という意識はなく共同生活者。ルールも決めていない、洗濯も掃除も手が空いている人、気づいた人がやればいいだけ。2人ともそんな感じで、だがなんとなくうまくいっていた。
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それでも恋人の母親だから、ミキさんは楽しく過ごそうと決めて彼が指定した店に出かけた。
女だったら子どもは欲しいに決まってる
彼の母親は「ごく普通の人」だった。専業主婦として3人の子を育てて、「仕事はしていなかったけど私は家族が命だった」と言った。彼は、そんな母に「人の生き方はそれぞれだよ。お母さんはそれで幸せだったんだからいいじゃない」と軽く流している。「すると彼の母は、あなたたちはどうして結婚しないのと切り込んできました。『理由なんてないけど』と彼。すると『あなたは結婚したいわよね、子どもだって欲しいわよね』と、まるで私が彼の考えに承服していないかのように言うんです。
『いえ、私も別に結婚したいわけじゃないし、子どもは欲しくないし』と言うと、『そんなはずないわよ。子どもが欲しくない女なんていない』って。『いや、本当です。子育てに時間も手間もとられたくないので』と言ったら、急に自分の息子をじっと見て『こういう女の人とは別れた方がいい、血も涙もない女性よ』って。
私、うっかり笑ってしまったんですよね。子どもを欲しくない女は女としておかしいと言われているわけですけど、その決めつけがおかしくて」
「欲しがらない女」はヘンな女
当然、彼の母親はムッとして黙り込んだ。人はいろいろですよと言い置いて、「先に帰るね」とミキさんは座を辞した。
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あれで結婚なんてあてにならないものだなと思ったよと彼が言うと、いとこは『それはともかく、きみもお母さんを安心させてやれよ』と言っていました。本当にミキさんは子どもがいらないの? と聞くので面倒だなと思いましたが」
子どもは欲しくない。それがそんなに珍しくてヘンな考え方なのだろうかとミキさんは考え込んでしまったという。女性なら誰もが子を欲しがるというのは、人に刷り込まれた感覚なのだろうか。
「子どもはいらないというと、みんな急に引くんですよね。なんだかまっとうな人間ではないみたいな目で見る。自分の人生の設計は自分で描いているので、放っておいてほしいんですが(笑)、そうもいかないのが親や親戚なんでしょうか」
笑いを交えながらそう言うミキさんだが、心の奥では「私はヘンなのだろうか」という思いも抱えているとつぶやいた。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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