集まったメディアへ向けて、2025年第109回インディ500挑戦の意気込みを語る佐藤琢磨。右手にはチャンピオンリングが光る ホンダ・レーシング(HRC)のエグゼクティブ・アドバイザーを務める佐藤琢磨は、5月25日に開催される第109回インディアナポリス500マイルレース(インディ500)にレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLL)から参戦することが決まった。
これまで、インディ500を2017年と2020年の2度制覇しているレジェンドのひとりである佐藤琢磨。参戦決定を伝えるリリースにおいては、「今年は、さらに多くの懐かしい顔ぶれがそろうので、昨年以上に特別な挑戦になる」と意気込みを言葉にしていた。
こうしたアナウンスに際してHRCは、ホンダ青山ビルにて佐藤琢磨取材会を開き、囲み会見を実施。集まったメディアの質問に対して琢磨は1時間弱にわたって応じ、第109回大会に挑む意気込みを語った。
■優勝した2020年大会での相棒たちを再結集
琢磨がリリース内で触れた『懐かしい顔ぶれ』。2024年大会への参戦時にも、ともに優勝を飾ったエディ・ジョーンズエンジニアとの再タッグが話題となったが、今回もその流れに沿って過去に勝利を飾った仲間たちを集めたのだと話す。
「基本的には、2020年に勝ったときのチーム体制に近づけることができています。もちろん全員が同じというわけにはいかないですが、エンジニアのエディをはじめ、2017年に僕がインディ500で優勝したときのデータエンジニアもサポートにまわってくれます」
「それを筆頭に、当時のRLLのインディカーを引っ張り続けていたリカルドも、今はIMSAを見る立場になっていますがピットスタンドに立ってくれることになりました。あとは、当時僕のピットコールをしていたメンバーも、僕のスタンドに戻ってくる」
「僕の75号車の8割近くが、今まで自分と特別な経験をしてきたメンバーで構成されているので、自分にとってはもうドリームチームのような体制ですね」
そしてそのメンバーの中には、これまでIMSAのトップカテゴリーで経験を積んできた小笹智之メカニックや、佐藤琢磨の走りを見て育ち、その背を追うようにアメリカのレース業界に飛び込んだ須藤翔太メカニックもいる。こうした日本からのサポートメンバーを束ねる立場のチーフメカニックは、琢磨がRLLでレギュラードライバーを務めていた時のチーフが務めることも決まり、フロントエンドの担当に須藤メカニック、リヤエンドの担当に2017年大会優勝時のチーフメカがつくなど、琢磨自身でも挙げ切れないほどの仲間たちが集まった体制が築かれているようだ。
琢磨は「どうしてこんなことが可能なのかというと」と続け、再結集の経緯に触れる。
「今年は、今のRLLのレギュラー陣は現チームが担当する一方で、僕はスポット参戦なので外部から持ってくる必要があります」
「そこで、過去に僕といい時代を過ごした方たちを考えると、各々が経験を積んだことで皆さんプロモートされて、偉くなっていたんですよ。かれらは、現場のチーフエンジニアやチーフメカニックを一度退いて、今度はそのグループのチーフになって、さらに上にまでステップアップしています」
「なので、今の彼らは現場の職を退いて2、3年しかたっていない半分現場職みたいな。そんな元気な彼らが集まってきてくれたというかたちです」
■新ハイブリッドPUに不安はなし。ラッキーで新車もゲット?
こうした盟友揃いの体制で迎える2025年大会は、ハイブリッドシステムを搭載したマシンで行われる初めてのインディ500でもある。スポット参戦となる琢磨にとっては、すでに経験を積んでいるレギュラー勢に対して遅れを取る状況でもあるが、「多分、レース自体はそんなに大きくは変わらないのでは」と見解を示す。
「つまり、これまでロードコースで使われていたプッシュ・トゥ・パスのような要素が、今回オーバルでのレースにも入ってくるわけです。それはずいぶん前にもショートオーバルなどで、試験的に使ったこともあります」と、新要素に対する不安はない様子だ。さらに、レースで中団に埋もれてしまったときに有効活用できるのではないか、と現時点で想像する活用法を語った。
「集団の中で走るというのは、F1でもよくDRSトレインなんていう言い方をしますけども、スリップストリームを使いながら抜くのはすごく大変なんです。そういう意味では、(ブーストの得られる)このハイブリッドは非常に面白いツールだと思うし、新要素を与えてくれるデバイスなんだろうなと想像しています」
「ただ、プッシュ・トゥ・パスもうまく使わないといけないですよね。オフェンスとディフェンスの両方で使っちゃうとプラマイゼロになってしまったりするので。そこは工夫が必要ですが、自分自身はまだハイブリッドを体験していないので、今度の4月下旬のオープンテストで初めてHRC USのパワーユニットを試すのをすごく楽しみにしています」
さらに琢磨は、オープンテストから始まるインディ500への準備において、今年は新車を導入することになったと明かし、さらにその経緯について、チームの運営についての想像も交えつつラッキーな顛末を説明した。
「あと、今年は新車になるんですよ。『俺、レギュラーのときに新車もらえなかったのになぁ』なんて思いましたが(苦笑)、多分、チームのなかで車体管理が間に合わなかったんでしょうね。おそらく、運営している数台のマイレージを管理をしていると思うのですが、そのローテーションが間に合わなくなってきたんだとおもいます」
「そこで、去年の僕の75号車がスーパースピードウェイ(オーバル)パッケージとしてそのまま保存してあったので、開幕を迎える時にこれがそのまま使えると。それで、おそらく今は15号車としてグラハム・レイホールが使っていて、彼のための新車として注文していたクルマが納期遅れとかで、僕のところに来るみたいです。なんか、『ありがとうございます』って感じですね(笑)」
レースではよく、新たなモノコックはシャキシャキしていて応答性が高いというような旨のフィードバックを聞くことがあるが、琢磨は新車にこそ必要な調整もあると語り、インディ500ならではのシェイクダウンを説明する。
「新しいから良いのか、っていうとそうとは限らないんですよ。もちろん、各ボディカウルのチリ合わせはこれまでと変わらずやっていかなきゃいけないですし、ボディー表面の細かい凹凸なんかも綺麗にしていかなきゃいけなかったり。こういった、許されてる範囲でのモディファイが結構必要なんです」と、つねに高速でオーバルバトルを繰り広げるインディカーらしい調整プロセスを明かす。
「ただ、そこが間に合えば、新車はピカピカで気持ちも良いですし、もちろんメカニックのモチベーションも良くなりますよね。ただ、まずはオープンテストで実際に走らせてみないと、新車の良さはわからないところではあります」
最後には、今年で16回目となるインディ500の挑戦について、「この先向こう何回走れるか。そこは正直答えられないですが、できれば今年は、もう一度頂点に立って、そこから『さて次は』みたいなステップに行きたいですね」と力強く語った。最大のターゲットとなる3度目の制覇はもちろん、日本から見守る多くのファンだけでなく、彼の背中を追いながら日本を含む世界各地で戦っているレーシングドライバーたちにも勇気を与える活躍に期待したい。
[オートスポーツweb 2025年03月17日]