
「私が窮地に追い込まれている時もそばで見守り、助けてくれてありがとう。18年間、本当にありがとうという気持ちしかありません」
【写真】17歳のころの弁慶くん…大きな病気もせず、晩年を迎えました
亡き愛猫の弁慶くんに、そんなメッセージを贈るのは飼い主のねこまっしぐらさん(@catsstraightup)。
弁慶くんは、元野良猫。2025年2月10日、最期まで家族に愛されながら長いニャン生に幕を閉じた。
人間に傷つけられた“人慣らし中の野良猫”を保護
出会いは、2007年の12月30日。仕事を終えて帰宅した飼い主さんは自宅前の道路で、右手に怪我をした弁慶くんを発見した。
|
|
実は弁慶くん、半年ほど前に自宅近くで生まれた3姉弟のうちの1匹だ。当時、飼い主さんは20匹近い猫を保護し、一緒に暮らしていたため、キャパシティの問題から3兄妹を家に迎えることは難しかった。
そこで地域猫にしようと考え、できる限りのお世話と援助を行っていたのだ。
「兄妹は全員、ハチワレ猫。男の子が2匹、女の子が1匹で、みんな人馴れさせている最中でした」
弁慶くんの怪我は、鋭利なもので切ったような傷だった。悪い人にイタズラされたんだ…。そう感じた飼い主さんは、うずくまる弁慶くんを保護し、動物病院へ。
病院では獣医師からも、弁慶くんの傷は人間につけられたものである可能性が高いと告げられた。獣医師は休診日である大晦日や正月にも病院を開け、傷の治療を行ってくれたという。
|
|
怪我が完治して甘えん坊な性格を発揮するように!
保護後、弁慶くんはひとりリビングで過ごし、傷の完治を待った。飼い主さんは弁慶くんを迎えたタイミングで、3姉弟を自宅の敷地内で過ごさせるようにもなったという。
「敷地内には、暖房完備のおうちやトイレを設置しました。男の子は『お兄ちゃん』、女の子は『お姉ちゃん』という名前にしました」
保護から3カ月後、弁慶くんは隔離生活を終えて同居猫たちと合流。もともと甘えん坊な性格だったようで、飼い主さんにベッタリくっついて過ごすようになった。
「ただ、若い猫たちには厳しく、たまにケンカを仕掛けては盛大に負けていました。負けるなら仕掛けなきゃいいのに…と、よく思っていました(笑)」
大病をせず、18年のニャン生を生き切った
20年生きて、猫又になるんだよ。飼い主さんは何度もそう話し、弁慶くんの成長を見守り続けたそう。弁慶くんはその想いに応えるかのように大きな病気もせず、晩年を迎えた。
|
|
「実は弁慶がくるまで、私が迎えた男の子の猫はみんな3歳になる前に病気で亡くなってしまっていました。だから、自分は男の子を迎えたらダメなんだと思い、女の子ばかりを迎えていたのですが、弁慶はそのジンクスを破ってくれたんです」
そうした奇跡もあり、飼い主さんにとって弁慶くんはより一層、大切な猫になっていった。
だが、ジンクス破りの弁慶くんも老い、別れの日が…。2025年2月中旬、弁慶くんは食欲がなくなり、ご飯を食べなくなった。
飼い主さんは数日間、様子を見ていたが、限界だと感じ、「今夜から強制給餌しよう」と決め、出社。だが、その数分後、弁慶くんは天国へ旅立ってしまった。
「母が様子を見に行った時には、床に横たわっていたそうです。私は仕事の合間に訃報を聞き、早退しました」
救いだったのは、冷たくなった弁慶くんが穏やかな表情をしていたこと。苦しんだような形跡もなかったことから、眠るように逝けたのだろうと思えた。
「亡くなった愛猫がまだ、いつもの猫用ベッドで寝ているような気がする」
だが、弁慶くん亡き後、飼い主さんは言葉にできない空虚感を抱くようになった。日々、他猫たちのお世話があるため、暗い気持ちにならずに済んでいるが、心にぽっかり穴が空いたように感じる。
「不思議なことに、弁慶がいなくなったような気がしないんです。まだ、いつも通り猫ベッドで静かに眠っているのではないかと思ってしまって…」
家族の一員である動物を失うペットロスの辛さは、専門家にも軽視されやすいのが現状だ。吐き出せない気持ちを当事者がひとりで抱え続けなくてもいい仕組みは、一体どう築いていけばいいのだろうか。
飼い主さんが語る弁慶くんへの想いは、ペットロス支援の必要性を改めて考えるきっかけにもなるはずだ。人間に傷つけられながらも、最期まで家族を愛した弁慶くんが虹の橋で元気に暮らしていることを心から願う。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)