部下もあきれる「自己陶酔型リーダー」に共通する“話し方”

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2025年03月21日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「自己陶酔型リーダー」の特徴とは

 「またあの課長が話し始めた……」


【画像】情報の羅列を聞いている側は苦痛だ


 会議の席で同僚がつぶやいた。いつものことだ。あの課長は話し始めると、いつまでも延々と専門用語を並べ立て、最新のビジネス理論や膨大なデータをひけらかす。部下たちは形だけ聞いているふりをするが、おそらく何も頭に入っていないだろう。


 いま多くの職場で、このような「自己陶酔型リーダー」が問題になっている。テクノロジーが進化して、知識や情報だけは簡単に手に入る時代になったからだ。しかし相手の理解度や情報処理能力を考慮せず、一方的に話し続けたらどうなるか?


 今回はこの「自己陶酔型リーダー」の特徴と対処法について解説する。部下の成長を支援したいリーダーはもちろん、そんな上司に困っている部下も、ぜひ最後まで読んでもらいたい。


●情報過多時代の落とし穴


 人間の情報処理能力には明確な限界がある。1956年、プリンストン大学の心理学者ジョージ・ミラーは「マジックナンバー7±2」という概念を発表した。人間の短期記憶には一度に7つ前後(5〜9個)の情報しか保持できないという法則だ。


 これはとても有名で、私もいろいろな書籍でこの概念について勉強した。


 しかし実は、この数字すら楽観的すぎるという研究結果も出ているようだ。2001年、ミズーリ大学のネルソン・コーワン教授の再検証によれば、人間のワーキングメモリの実質的な容量は「4チャンク程度」(チャンクとは、バラバラの情報を意味のある塊にまとめたもの)が現実的な数字だという。


 さらに衝撃的なのは、ミシガン大学のジョン・スウェラーの実験結果だ。情報の種類や難易度によっては、実質的な処理容量が「2程度」にとどまることが判明した。つまり難しい内容を伝える場合、人間は2つの新しい情報を処理するだけで精いっぱいなのだという。


●「自己陶酔型リーダー」3つの特徴


 このように、人間には認知限界というものが存在する。なのに、そんなことはお構いなしのリーダーがいる。このような「自己陶酔型リーダー」は次のような特徴がある。


過剰な専門用語の使用


 中途半端に勉強して仕入れた専門用語を、相手の理解度を考慮せずに連発する。「アジャイル思考」「データドリブン」「オンボーディング」など、はやりのビジネス用語を使いたがる。しかもその言葉の定義が曖昧(あいまい)なまま話を展開するため、聞き手は話の筋を追えなくなる。


文脈を無視した情報の羅列


 先日も研修会で講師を務めたある部長が、「少し横道にそれますが……」と言ってから「認知バイアス」について20分も話し続けた。確かに彼は多くの知識を持っていた。しかしテーマから外れた事柄を、参加者のニーズや理解度を考慮せず話す姿は痛々しかった。案の定、参加者は皆、うわの空で聞いていた。


データによる過剰な裏付け


 「データに基づいた意思決定」は重要だ。しかし過剰にデータを提示しても逆効果になる。あるシンクタンクの地方大会に呼ばれたときも、調べた分析データを延々と話し続ける講師がいた。途中から周りの経営者たちは手元の資料を閉じ、スマホでメールのチェックを始めていた。


●データの洪水で頭がパンクする部下たち


 「自己陶酔型リーダー」を上司に持つ部下たちは苦労する。


 先日、あるIT企業の会議に参加する機会があった。営業部長が5人の部下を集め、徹底的にデータ分析を行った営業戦略を語り始めた。


 「前年比の獲得顧客数は見かけ上110%だが、既存顧客が約8.3%減少し、新規顧客が約18.3%増加している。この中でアクティブユーザー率を加味して計算すると実質的には顧客数は2.7%減少していることになる」


 部長は次々と異なる切り口のグラフを見せながら、データ分析のスキルを惜しげもなく披露していった。実に20枚ものスライドを情熱的に説明する姿は、まるで自分の分析力を誇示するかのようだった。


 しかし部下たちの表情は次第に曇っていく。後に分かったことだが、5人の部下のうち、部長の話を理解できたのはたった1人だけだった。残りの4人は途中で完全に置いてけぼりになっていたのだ。


 会議の後、部長は嘆いていた。


 「どうして彼らは理解できないんだ。こんなに丁寧に分析して、資料も完璧に作ったのに。最近の若い奴らは、意識が低すぎる」


 部長は自分の努力を認めてもらいたいという承認欲求の塊となり、相手視点で物事を考えられていなかった。情報を伝える側の責任を忘れているのだ。


●理想的な上司はタイプに合わせた伝え方を知っている


 理想的な上司ならどうするか? そのような上司は、個々の部下の特性を見極め、相手に合わせた伝え方ができる。


 あるコンサルティング会社の事業部長は、データ分析に長けた論理派の部下には詳細なデータを提示し、じっくり丁寧に解説する。しかし感覚派の部下には、まず結論から伝え、その後に必要最小限のデータで補足するスタイルを取った。


 先日も、感覚派の若手に新しいマーケティング戦略を説明する場面があった。部長はまず大量のデータを準備していたが、説明をはじめる前に部下の表情を洞察し、アプローチを変えた。


 「実はこの戦略については、かなり詳細なデータを分析してみたんだ。いろいろとデータはあるけど、あとで見てほしい。要するに私が言いたいのは、われわれは20代の女性顧客層に集中すべきだということだ。この層が最も成長率が高く、LTVも高いからだ」


 この説明を聞いた部下は、霧が晴れたような表情をして、「よく分かります。具体的に何から始めればいいですか?」と前向きな返事をした。データありきではなく、「誰に」「何を」「なぜ」という本質を先に伝えることで、部下の理解度と実行力が劇的に向上するのだ。


●なぜ「チャンク化」が重要なのか


 では、なぜミラーの「7±2」と実際の処理能力にこれほどの乖離があるのか?


 答えは「チャンク化」にある。例えば電話番号「0312345678」は9桁の数字だが、「03-1234-5678」と区切れば3つのチャンクとして記憶できる。情報を意味のある塊にまとめることで、処理能力は拡張できるのだ。


 しかし重要なのは、チャンク化できるのは「既知の情報」に限られるということ。初めて聞く複雑な概念や専門用語は、チャンク化が難しく、一つ一つが独立した情報として処理負荷がかかるのである。


●相手の理解を促進する3つの方法


 「自己陶酔型リーダー」にならないために、どのような工夫をすればいいのか。


情報の取捨選択を徹底する


 情報を削ることは意外と難しい。特に準備に時間をかけたプレゼンであればあるほど、全てを伝えたくなるものだ。しかし「全て伝えよう」とするより「必要最小限を確実に伝える」意識で臨むほうがいい。結果的に相手の理解度は高まる。


伝える情報に優先順位をつける


 「これだけは絶対に伝えたい」という最重要点を1〜2つに絞り込もう。3つ目以降は「伝わればうれしい」程度の位置付けにする。そうすることで、聞き手は本当に重要なポイントに集中できる。


具体例を効果的に使う


 抽象的な概念は理解しづらい。具体的な事例や身近な例えを使うことで、相手の理解を助けることができる。「この戦略によってA社は売上を20%伸ばした」という具体例のほうが、抽象的な理論よりも記憶に残りやすい。


●自分で気付かないリーダーへのアプローチ法


 もし周囲に「自己陶酔型リーダー」がいる場合、どう対応すればいいのだろうか?


 直接的な指摘は相手のプライドを傷つける可能性がある。代わりに「要点をまとめてもらえますか?」と質問したり、「具体例があると理解しやすいです」と提案するのが効果的だ。また、会議の前に「今日は何を決めたいのか」と目的を明確にしてもらうこともいい。


 情報過多の時代においては「情報を減らすコツ」がますます重要になっている。伝える情報量を減らすことは、実は相手への敬意を示すことでもあるのだ。話す相手の情報処理能力を考慮し、本当に必要な情報だけを伝えるリーダーこそが、今は求められている。


著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)


企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。



このニュースに関するつぶやき

  • 国際政治の世界にもこのタイプがいるのでは? プーチンやトランプなんてでっち上げも含めた膨大なデータを駆使して自分を主張する。演出力も高い。周りは振り回されてやがて疲労する。
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