※写真はイメージです。 日常生活を営む中、突然の発作により“孤独死”をしてしまうとどうなるのか?
「部屋に入ると、時が止まったままのような錯覚に陥ってしまうこともあります」
都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに詳しい話を聞いた。
◆現場の状況から“日々のルーティン”がわかる
孤独死の場合はセルフネグレクトのパターンが多いが、きちんとした日常生活を送っていても急な発作などで亡くなるケースもあるという。
「トイレで亡くなられた方がいたんです。食事を食べている最中に体調が悪くなったようで、トイレに駆け込んだところ、そのまま発作が起きて亡くなってしまったようでした。死後4日ほど経過してからの清掃で、季節は暑くはなかったので遺体の腐敗はひどくはなかったです。
ただし、食卓の上には食べかけの食事が置いてあったのですが、ご飯はカピカピになっていて、味噌汁は干からびて、魚は虫によって食べ尽くされていました。シンクの洗い物はそのままで、冷蔵庫にもまだ食べられそうな見た目の料理がお皿に入って置いてありました。テレビもついたままになっており、“ついさっきまでここで人が生活をしていたんだろうな”という雰囲気が感じられました。
また、他の現場ですが、お米を炊いている途中だったのか、手をつけていないご飯が保温状態で変色して炊飯器の中に残されていました。匂いは発酵したかのような腐敗臭がしました。さらに洗濯機で洗い終わった洗濯物がそのまま放置されていて、生乾きの匂いがしました。現場からは、その人の日々のルーティンが垣間見られます」
◆回覧板や新聞が“孤独死”発見のきっかけに
孤独死は、地域の回覧板から発覚するケースが多々あるという。
「ポストには回覧板が何日も放置されていて。回覧板が回ってこないと、地域住民の間で問題になったようです。インターホンを押しても出てこない状況が1週間ほど続いたので、警察に通報してみたところ、孤独死が発見されたケースがありました」
新聞配達員や宅配弁当業者が孤独死を発見することもある。
「新聞がポストに入りっぱなしで回収されていない。宅食の人が弁当を家の前に置き配で届けにきたけど、昨日の分が食べずに放置されているといった状況で、業者の方がインターホンを押してみたが出ずに、心配になって扉を開けたら倒れていたといった状況もありました。
そもそも特殊清掃として呼ばれている現場なので、あたりまえに助かったケースは見たことがありませんが、同じような境遇で救急車を呼んでもらい一命を取り留めた方もいると思います。老人のひとり暮らしはそういった宅配サービスを利用するというのが孤独死を避けるためには大事なことなのかもしれません」
◆「まるで“時が止まっている”ように感じました」
ある高齢者が孤独死した現場では、遺族間の人間関係が悪化し、遺産相続問題で揉めて裁判に。荒れた現場をそのまま放置しなければならない状況になった。
「遺産相続問題などで揉めるケースは多々あるのですが、裁判が長引いて2年間まったく清掃できなかったという部屋がありました。ようやく裁判に一区切りがついたようで、清掃の見積もり依頼がきて、現場に伺ったのですが、まるまる2年間、まるで“時が止まっている”ように感じました。
部屋自体は散らかっていなくて綺麗なんですが、孤独死の後、清掃せずに放置してるのでハエなどの虫の死骸が大量にあったり、まだ生きた虫がブンブン飛んでいたり……。玄関や部屋の天井付近、至る所に大きな蜘蛛の巣が張ってあるんです。サスペンスやミステリーの映画やドラマみたいだなと思いました。手で蜘蛛の巣をかきわけていかないと、顔にべたっとへばりついて不快な思いをします」
高齢者が住んでいたぶん、置いてある家電なども古く、さらに大昔から時が止まっているかのような錯覚に陥ったという。
「10年以上前の写真が飾られていて、パソコンもデスクトップの分厚いブラウン管のようなパソコンが置いてあったり、レトロなラジカセがあったりと、令和を感じる部分が全くないんです。冷蔵庫を開けると中身も賞味期限がきれていて、野菜や肉などはドロドロになって腐敗していました。幸い、遺族の方が電気代だけは払い続けていたので、冷蔵庫や冷凍庫の中身がぜんぶ腐って腐敗臭がするといった最悪の状況にはなりませんでしたが」
◆裁判が長引いて部屋を放置することになった理由は?
一体、なぜ2年間も放置しなくてはいけなかったのか。遺族間で揉めた原因は介護問題が絡んでいたという。
「孤独死のきっかけは心不全だったのですが、亡くなった方のお姉様と娘さんとで揉めたようです。娘さんは介護をして面倒をみると言っていたのに放置してしまって、母親は亡くなってしまったようです。家の近くに引っ越して定期的に顔を出すといった約束だったはずなのに、顔を出すことをしなかったので、孤独死の発見もだいぶ遅れてしまったようでした。それにお姉様が怒り、遺産は娘には渡さないと言ったようです。娘は『私にも遺産をもらう権利がある』と主張し、揉めに揉めて裁判沙汰になったようです」
特殊清掃にかかる費用もどちらが払うかで揉めていたようだった。
「マンションも分譲で購入した物件だったので、どっちの持ち物になるのかで揉めに揉めて、最終的には相続した娘さんが清掃費用を払うことになりました。このような介護問題による相続争いというのは、高齢化社会が進むなかで今後も増えていくのではないかと思います。ただ、内輪での争いに裁判で2年もかかるって、正直いかがなものかと思いました」
<取材・文/山崎尚哉>
【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦