2023年1月30日午前10時13分すぎに金沢市のテレビ局電波塔上で撮影した雷。落雷直前にガンマ線を検出した(和田有希大阪大講師提供) 落雷の直前、放射線の一種のガンマ線が一瞬発生する様子を金沢市内の鉄塔上で観測したと、大阪大や近畿大、岐阜大などの研究チームが発表した。論文が22日、米科学誌サイエンス・アドバンシズ電子版に掲載された。この雷の放電と同期するガンマ線は「地球ガンマ線フラッシュ(TGF)」と呼ばれ、発生の経過を電波アンテナと可視光カメラ、放射線センサーによる同時観測で明らかにしたのは世界初という。
ガンマ線は電磁波で、TGFは地球上で最もエネルギーの高い自然の放射線源だが、地上に届く放射線量は最大で胸部X線検査1回分程度であり、人体には影響ない。大阪大の和田有希講師は「北陸では冬に電力設備を損傷させるような大電流の雷が頻発する。TGFとの関係とともに詳細なメカニズムを解明したい」と話している。
観測に成功したのは、低気圧の接近で雪が降っていた2023年1月30日午前10時13分すぎで、テレビ局の電波塔の真上。雷雲の下部はマイナス、地上はプラスの電気を帯びた状態となり、まず高度2〜3キロの雷雲内で「負極性リーダー」と呼ばれる放電の流れが下向きに延びる様子が電波観測で分かった。次に電子が抜き取られた「正極性リーダー」の雷光が上向きに走る様子が可視光カメラで撮影された。高度約900メートルで衝突して落雷となる30マイクロ秒(10万分の3秒)前、ガンマ線が発生し、センサーで捉えられた。
このガンマ線は負極性リーダーの電子が正極性リーダーに向かって光速近くまで加速され、空気中の原子核に接近して曲がった際に起きる「制動放射」と呼ばれる現象によって発生したと考えられる。
北陸の冬の雷雲は高度が低く、エネルギーが夏より桁違いに高い落雷が発生する。放射線が原発の監視装置で観測されることがあり、理化学研究所と東京大が新潟県の柏崎刈羽原発に新型観測装置を持ち込み、07年に初めてガンマ線の放射だと突き止めた。その後、さまざまな研究チームが観測に取り組んでいる。