沖縄ご当地アイス「ブルーシール」が、“全国出店”を加速したワケ 体験型店舗の狙いとは?

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2025年09月15日 12:20  ITmedia ビジネスオンライン

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ブルーシールは沖縄発のソウルフードから全国区のブランドへと成長を続けている(イオンレイクタウンの店舗)

 沖縄のソウルフードとして知られるアイスクリームブランド「BLUE SEAL」(ブルーシール)が、関東を中心に全国ブランドへの転向を強めている。2006年8月の関東初進出以降、2025年7月時点で、関東や近畿・中部圏を中心に沖縄県外で31店舗を展開。2025年4月には、関東最大級の商業施設である埼玉県越谷市のイオンレイクタウンに新店舗をオープンした。ブルーシールは沖縄発のソウルフードから全国区のブランドへと成長を続けている。


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 その出店ペースの加速は、特に2020年以降、顕著だ。ブルーシールを運営するフォーモストブルーシールは、2020年度だけで東京都、埼玉県、和歌山県、愛知県の4都県に4店舗を新規でオープンさせた。翌2021年夏までの約1年間で、東京や埼玉など関東圏を含む12店舗を出店。2022年まで毎年10店舗近いペースでの県外進出が続く状況だ。この動きによって、関東をはじめとする県外でのブルーシールの存在感を一気に高めている。


 なぜブルーシールの全国進出が続いているのか。担当者に狙いを聞いた。


●沖縄県内ではブランド戦略を強化 体験型店舗の狙いとは?


 ブルーシールの歴史は戦後間もない1948年、米国本社のフォーモスト社が沖縄の米軍基地内に乳製品工場を設立したことに始まる。もともとは米軍関係者向けに供給されていたアイスクリームや乳製品は、当時の沖縄県民にとってなかなか手の届かない貴重な存在だった。しかし、1963年に浦添市牧港へと拠点を移し、一般向け販売を開始したことで、ブルーシールは「沖縄のアイスブランド」としての第一歩を踏み出す。


 当時、アイスクリームは高価嗜好品でありながら、ドライブインスタイルの店舗やアメリカンな雰囲気が話題を呼び、次第に県民の日常に溶け込んでいった。1976年には、米国で優れた品質の酪農品に贈られる「ブルーリボン賞」にちなみ、社名を「フォーモストブルーシール」に改称。以降、沖縄の風土や人々の嗜好に合わせて商品開発を重ね、「米国生まれ、沖縄育ち」「わったーアイス(私たちのアイス)」のブランドイメージを確立していく。


 ブルーシールの特徴は、米国由来のレシピをベースにしつつ、沖縄の高温多湿な気候に合わせてアレンジしたさっぱりとした味わいにある。1975年の沖縄国際海洋博覧会を機に県産フレーバーの展開も始まり、紅イモや塩ちんすこうなど、沖縄らしい素材を生かした商品が次々と登場。観光客や地元客のみならず、県外でも「沖縄の味」として評価を得るようになった。


 経営面では、本土復帰後の1978年に日本政府から県外展開の認可を受け、徐々に本土への進出も開始。1996年にはポッカグループ、2013年にはサッポログループの一員となり、経営基盤を強化しながらブランドの全国展開を推進してきた。この間、直営店のリニューアルや体験型施設「ブルーシール アイスパーク」の開設など、ブランド体験の深化にも注力している。


 2025年現在、ブルーシールの沖縄県内の直営店は12店舗を数える。これに加え、数字は出していないものの、パーラー(卸先店舗)が多数存在する。フォーモストブルーシール店舗運営部の山城純一次長は、「沖縄の店舗は、観光地や地元密着型のパーラーも合わせると相当数にのぼる。国際通りだけでも10店舗近くがブルーシールのアイスを扱っている」と話す。特に観光地や大型商業施設への出店が増え、県内外からの観光客が気軽に立ち寄れる環境を整えている。


 沖縄本島だけでなく、宮古島や石垣島などへの出店も進めてきた。山城次長は「沖縄に来たら、どこでもブルーシールに出会える環境を作りたい。今後も直営店だけでなく、地域のパートナーと協力しながら、ブランド露出をさらに強化していきたい」と意欲を示す。


 近年は牧港本店のリニューアルや新社屋の建設も進み、ブランド体験の場としての機能を拡充させている。2024年7月には牧港本店が「笑顔の思い出シアター」をコンセプトにリニューアルオープン。ドライブスルーの導入など新たな顧客体験を提供している。山城次長は「新しい本店は、世代を超えて笑顔が生まれる場所を目指した。これからも沖縄のアイス文化を支え、地域に愛されるブランドであり続けたい」と話す。


●グッズ販売も好調


 こうしたブランド戦略もあり、近年ブルーシールではアイスだけでなく、オリジナルグッズの売上高も急増している。特にTシャツや雑貨類は、観光客や若年層を中心に「かわいい」「お土産に最適」として支持を集め、販売数も年々増加傾向にある。


 山城次長は「グッズの売上高が全体の2割近くを占める店舗もあり、複数人でまとめ買いするケースが多い」と語る。デザイン面でも、ブランドの世界観やレトロアメリカンな雰囲気を反映したアイテムが好評で、SNSでの拡散やインフルエンサーの発信も販売増に寄与している。


 こうしたブランド体験は、イオンレイクタウン店でも提供している。同店では、ブルーシールならではのレトロアメリカンな世界観を店舗空間全体で演出するだけでなく、グッズ販売にも注力。従来の物販コーナーに加え、Tシャツや雑貨などのオリジナルグッズを自動販売機で手軽に購入できる仕組みを導入した。これにより、混雑時でもスムーズにグッズを手に入れることが可能にしている。


 山城次長は「イオンレイクタウン店のような大型施設では、アイスクリームの提供だけでなく、グッズも含めたブランド体験を強化することで、より多くの顧客にブルーシールの魅力を伝えたい」と語る。ブランドの世界観を反映したアイテムや、SNS映えするフォトスポットなど、店舗ごとに工夫を凝らすことで、単なるアイスクリームショップの枠を超えた体験型ブランドとしての存在感を高めている。


 これらの取り組みにより、ブルーシールは沖縄県内外で「食べる」「買う」「楽しむ」を一体で提供するブランドへと進化している。


●コロナ禍を契機に県外進出に注力


 2020年以降、先述の通りブルーシールは県外出店に注力している。このきっかけが、同年に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的流行だ。コロナ禍の始まりは、ブルーシールの事業戦略に大きな転換を与えた。沖縄への観光客が激減し、これまで観光需要に支えられてきた県内店舗だけでは売り上げ維持が困難になったからだ。


 山城次長は「コロナ禍で沖縄に来られない方が増えた分、県外で当社のアイスクリームを楽しんでもらいたい思いが強まった」と振り返る。実際、2020年度には東京都、埼玉県、和歌山県、愛知県の4都県に新規出店。翌2021年夏までに関東圏を中心に12店舗を増やし、年10店舗近いペースでの拡大が続いた。これにより、ブルーシールの県外店舗数は急増し、2025年7月時点で36店舗に達している。


 沖縄本島外や沖縄県外の出店は、直営ではなくフランチャイズ(FC)方式によって進めている。これは、各地域の市場特性やオーナーの経営力を生かしつつ、ブルーシール本部がブランド管理や品質基準を徹底することで、全国規模での安定したブランド体験を実現するためだ。


 この急拡大の背景には、アイスクリームという商材の特性もある。冷凍流通による品質管理のしやすさや、フードロスの少なさ、季節や立地を問わず安定した需要が見込める点が、飲食業界の新規参入や既存店の業態転換の受け皿となった。


 コロナ禍による外食産業の構造変化を受け、ブルーシール本部へのFC加盟希望も急増した。山城次長は「月に数十件の問い合わせがあるが、多くをお断わりしている」と明かす。ブランド価値を維持するため、出店場所やパートナーとなるオーナーを厳選する戦略をとっているのだ。


 出店にあたっては、立地を最も重視している。山城次長は「ブランド力だけでの集客が難しい場所には出店せず、本部として本当に出すべき場所なのかをきちんと判断した上で、出店を決めている」と話す。


●他企業とのパートナーシップ


 この厳格なFC戦略のもとでパートナーシップを築き、沖縄本島外や関東での展開を加速させている企業が、埼玉を拠点とする三光ソフラングループのシャイン・コーポレーションだ。三光ソフラングループは不動産事業を祖業としながら、近年はホテルや飲食など多彩な事業を手掛ける。


 ブルーシール事業への参画は、シャイン・コーポレーションの高橋大輔社長が「沖縄で愛されているこのブランドを、味だけでなくその思いごと全国に届け、お客さまの価値ある体験につなげたい」と感じたことがきっかけだった。


 シャイン・コーポレーションでは、2022年3月の宮古島パイナガマ店出店を皮切りに、横浜のみなとみらいにある横浜ワールドポーターズ店など、これまで5店舗のブルーシールFC店に携わってきた。そして2025年、新たな拠点として挑戦を決めたのは、日本最大級のショッピングセンターであるイオンレイクタウンだ。


 同社で企画を担当する黒川裕未さんは「当社の始まりは、埼玉の1軒の米屋だった。その創業の地である埼玉の、日本一のショッピングモールに出店したい思いが以前からあった。ブルーシールの持つ歴史や考え方といった本質的な面白さを、商品の魅力だけでなく、店舗空間全体を通して伝えていきたい」と話す。


 シャイン・コーポレーションとブルーシールは、単なる店舗数の拡大を目的とするのではなく、「地域に根差したブランド体験の深化」を軸とした戦略をとっている。イオンレイクタウン店をはじめとする大型商業施設への出店を通じて、ブルーシールの世界観やストーリーに触れられる体験空間を展開。アイスの提供にとどまらず、グッズ販売やフォトスポット、触って遊べる店内の仕掛け、イベントなどを通じて顧客一人一人の価値体験を深めることで、ブランドの発信力を高めている。


 埼玉・横浜・千葉・宮古島などの各店舗では、 出店立地のターゲットや地域性に応じて、ブルーシールならではの体験価値を創出した。例えばイオンレイクタウン店では、「時代の流行を感じる」をコンセプトとしたモール「kaze」に合わせ、20〜30代の若年層やファミリー層を意識した店舗設計を実施。時間帯に応じて変化する音楽や照明、触って楽しめる仕掛けやフォトスポットを取り入れている。


 ブルーシールのルーツである“アメリカンダイナー”の起源を象徴する電車を店内に配置し、「沖縄からレイクタウンへ夢と笑顔を届けにやってきた」というストーリーを演出。電車内の内装は牧港本店と同じ雰囲気を味わえる設計とし、店内には他にもブルーシールの歴史に触れられる「ヒストリーコーナー」も設けた。


 イオンレイクタウンkaze店の特徴は、他にもある。店内に設置されている3台のピンボールマシンは、本場の米国製。1950〜70年代の米国では、ダイナーといえばピンボールマシンが欠かせない存在だったという。店舗のコンセプト「レトロフューチャーアメリカンダイナー」の世界観を伝えるため、設置を決めた。ある世代にとっては懐かしく、子どもたちにとっては新鮮なピンボールは、世代を超えて楽しめる仕掛けとなっているようだ。


 他にもシャイン・コーポレーションで運営する宮古島パイナガマ店では、観光客だけでなく、宮古島の地元の人にとっても自慢の名所となるような世界観を心掛けた。横浜ワールドポーターズ店では、沖縄と同様に文化と歴史が交差する港町・横浜の個性を踏まえ、「信号」をモチーフにした空間演出を展開している。


 このように、それぞれの立地や顧客層に応じた多様な切り口から、ブルーシールの世界観を体感できる店舗をつくっている。


 デジタル施策にも積極的だ。SNSやライブ配信、インフルエンサーとの協業を通じ、若年層やファミリー層に向けたリアルとオンラインを融合したマーケティングを強化。ブランド認知の拡大と、来店動機の創出を図る。実際に、店舗自体を発信の舞台と位置付け、 単なる“インスタ映え”にとどまらず、五感を通じたリアルな体験を重視。その中で生まれる発見が、自然とユーザー自身の発信につながるような仕組みをつくっている。


 FCパートナーとの連携強化と品質維持も重要だ。FC店舗では本部によるオペレーション研修や定期的な店長会議を通じ、サービス品質やブランド哲学の共有を徹底。パートナー企業の自主性と本部のブランド管理を両立させることで、全国どこでも一貫した顧客体験を実現している。


 ブルーシールは関東を中心とした全国展開を加速させる中で、「直営・FC合わせて50店舗体制」という目標を掲げている。出店数の拡大だけでなく、各地でのブランド価値や顧客体験の質を高めることにも力を入れており、今後もパートナー企業とともに、地域ごとに最適な展開を図る方針だ。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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  • 昔、勤め先の近くに有るホブソンズはよく食べた。BLUE SEALは食べた事ない。
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