自分にとって大切な作品と出会えると、何でもない日常に彩りが増す。
推しのぬいやアクスタと一緒に写真を撮ったり、鞄に忍ばせたグッズを見て挫けそうなときの支えにしたり。好きな作品の影響で新しい趣味を持ったり、それまでは思ってもみなかった変化が訪れたりすることもある。
今年10周年を迎えた人気シミュレーションゲーム『刀剣乱舞 ONLINE』(以下『刀剣乱舞』)も、そんなふうに長く親しまれている人気作品だ。
プレイヤーは物に眠る心を目覚めさせる「審神者」となり、名だたる刀剣の付喪神「刀剣男士」と共に過去に飛び、歴史を改変しようと目論む敵「歴史修正主義者」とさまざまな合戦場で戦いをくり広げる。
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『刀剣乱舞』はミュージカルや舞台、アニメや実写映画化といった豊富なメディア展開のみならず、能楽や歌舞伎といった伝統芸能、キャラクターのモチーフとなった刀剣を所蔵する博物館や美術館、神社仏閣や自治体とのコラボレーション企画も盛んに行われている。
スマホアプリ版にある「御伴散歩」ではGPS機能を使い現実のマップにピンを立てることでアイテムがもらえたり、「御伴撮影」で刀剣男士たちと一緒に記念撮影ができたりと、『刀剣乱舞』はリアルと地続きになった楽しみ方もできるゲームだ。
そうしたことから、ミュージカルや舞台だけでなく、推しの刀剣の展示に合わせて遠征する審神者も少なくない。
とはいえ。推しへの「好き」と「情熱」があれば調べ物もはかどるものだが、せっかく推しの展示に合わせて旅行を計画しようにも土地勘のない場所で旅程を組もうとすると、なかなかに時間がかかる。せっかく行くなら、刀剣鑑賞と併せて観光スポットや食事の場所、おみやげ情報も知りたいというもので……。
そんな審神者の手助けとなるガイドブック『まっぷる 刀剣乱舞トラベラーズガイド』(昭文社)が、2025年9月10日に発売された。本書は審神者の旅がより充実するよう意を凝らした内容で、ゲームと日本各地に散らばる刀剣ゆかりの地を結びつけてくれる一冊となっている。
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■「刀剣鑑賞のいろは」から「刀剣旅」モデルプランまで 充実のガイドブック
本書は、61振りの「会いに行ける刀剣」にフォーカスしたガイドブックだ。東京、京都、東北、栃木、茨城、石川、長野、静岡、愛知・岐阜、大阪、瀬戸内、福山・尾道、宮島・岩国、福岡、沖縄と、エリアごとに1日・1泊2日・2泊3日のモデルプランが紹介されている。
冒頭に刀帳順のインデックスが付いていて、すぐに推しの掲載ページまで飛べる行き届きぶりがうれしい。
それぞれのモデルプランは、刀剣鑑賞ができる博物館や美術館、神社仏閣といった所蔵・展示施設をはじめ、刀剣ゆかりのスポットや観光名所などで構成されたもの。その土地のおいしいものが味わえる食事スポットや推しと一緒に写真を撮りたくなる甘味処やカフェ情報、押さえておきたい土産物情報もふんだんに組み込まれており、眺めているだけでもわくわくする。さらに、日程に余裕があれば旅程に足したい近郊のおすすめスポットまで紹介されているので、つい休みを長く取りたい気持ちにかられてしまうはずだ。
掲載されている旅程は9:30〜10:00頃からスタートして、複数のスポットを回る構成となっている。ここにも行きたい、あそこにも行きたいという気持ちをかきたてられてやまないモデルプランだが、中身が充実しているだけにちょっと気になるのが鑑賞時間の割り当てだ。
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モデルプランでは、鑑賞時間として概ね1〜1.5時間が充てられている。だが、展示数の多い博物館や集客が見込まれる特別展の場合、実際には見たい刀剣の展示にたどり着くまでに時間がかかる恐れもある。それに、単眼鏡で刃文や作刀の段階で生まれた鍛え肌を眺めていると、気づけば時間が経ってしまうのも審神者あるあるだ。また、展示を見ているうちに興味をかき立てられたり、思わぬところで推しと知識が結びつくうれしい驚きに見舞われることも少なくない。おまけに、特別展のチケットで常設展示が見られる場合もある。滅多に来られない場所となれば、じっくり展示を見たくなるというもので……。
筆者のように博物館や美術館での鑑賞時間が長めで道に迷いやすい場合は、モデルプランをベースに、鑑賞スタイルと行きたいスポットの数、そして己の誘惑への耐性を天秤にかけつつ、余裕を持って時間を割り当てて無理なく旅するのをおすすめしたい。
併せて留意しておきたいポイントとしては、お目当ての刀剣の展示期間だろう。
本書の冒頭でも言及されているが、所蔵されている刀剣は常設されているものもあれば期間限定で公開されるものもある。また、国宝に指定された刀剣は公開期間が定められているため、常に公開されてはいない。審神者の間では周知のことかもしれないが、旅の予定を立てるときには推しの所蔵・展示先だけでなく、念を入れて展示期間も確認するのをおすすめしたい。
また、刀剣鑑賞をするときに知っておきたいポイントがまとめられた「刀剣鑑賞のいろは」や編集部によるおすすめの「刀剣グルメ」や「刀剣アイテム」も紹介されているのも楽しい。
付録として本書内で紹介された刀剣の所蔵・展示施設やゆかりの地が一覧できる「日本全国刀剣めぐり地図」、ゲーム内設定に基づいて制作された「刀剣年表」が収録されているのも見どころだ。
この10年で博物館などとのコラボもお馴染みとなり、『刀剣乱舞』はゲームを基点にゆるやかに「画面のこちら側」へと派生してきた。日本各地にあるゆかりの地や歴史に関心を持ったり、『刀剣乱舞』をきっかけに刀剣鑑賞にはまって単眼鏡を購入したり。中には、実際に刀の所有者になった審神者もいるという。
長く続いているコンテンツゆえか、2025年3月にはオリジナル体操「さにわ健康体操」がスタンプカード付きで登場した。審神者の健康にも配慮するユニークさにくすりとさせられるが、こうした日々の楽しみ方を教えてくれる点も、長年審神者の心を掴んでいる所以だろう。
――推しのゆかりの地で、刀剣鑑賞はもちろん、観光も食事もお土産選びだって満喫したい。『まっぷる 刀剣乱舞トラベラーズガイド』は、そんな『刀剣乱舞』らしい楽しみを後押ししてくれる一冊だ。
本書の発売記念として、デジタルスタンプラリーも実施されている。発売から1年間で全国62ヶ所を巡るスタンプラリーはなかなかハードだが、達成する審神者がいてもおかしくないという気にもさせられるのが『刀剣乱舞』というコンテンツでもある。3スタンプで30日間閲覧可能な電子書籍がゲットできるので、まずはそこを目標にしたいところ。
これから実装されるであろう刀剣男士や、今回はフォーカスされていない刀剣男士を含めた続刊も期待したいと思わされる、おすすめの一冊だ。
(文=七木香枝)
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