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「大阪・関西万博に“未来の人間洗濯機”を出す。それだけは、どうしても叶えたかったんです」── そう語るのは、サイエンス・取締役会長の青山恭明さん。実現不可能と言われた人間洗濯機が2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博/以下万博)の目玉として大注目を集めるまでの開発秘話をねとらぼ編集部が万博会場で聞いてきました。
超微細な気泡「ファインバブル」を発生させる独自技術を搭載したシャワーヘッド「ミラブル」の開発で知られるサイエンス。その開発のきっかけについて青山さんは「三女が強度のアトピー性皮膚炎でね。肌が非常に敏感で体をこすって洗うことができないから、なんとかしてやりたいと思ったんです」と明かします。
肌に優しい洗浄方法を研究する中で「工業製品を“微細な泡”で洗浄する技術」を知り、試行錯誤を重ねて生まれたのがシャワーヘッド「ミラブル」でした。そしてこれが「泡で体を包み込むように洗う」──というサイエンスのものづくりの原点となり、のちに開発される身体も浴槽も自動で洗浄できる浴槽「ミラバス」にもつながりました。
そんな青山さんには、ずっと胸の奥にしまっていた夢がありました。それは、1970年の大阪万博(日本万国博覧会)で登場した「人間洗濯機」の現代版を実現すること。
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「子どものころ、万博の鉄鋼館で見た“人間洗濯機”が忘れられなくてね。親におねだりしまくって、半年間で20回は行ったんですよ。ソ連館の赤いフォルムも、みどり館も全部しっかり覚えています」
特に青山さんの心をつかんだのが、三洋電機(現パナソニック)が出展した人間洗濯機「ウルトラソニックバス」でしたが、現代版の実現については、「技術的にも安全面でもコスト面でも“できない”とずっと言われてきたんです。だけど、悔しかったんですよ。日本の技術なら、必ず実現できるはずだって」と語ります。
そして2018年──大阪・関西万博の開催が決まった瞬間、青山さんの中で「今度こそ絶対やる。未来の人間洗濯機を絶対に作って万博に行く!」とスイッチが入りました。
「大阪・関西万博に絶対行くぞ!」と、全社員を連れて吹田市の「太陽の塔」、「鉄鋼館」を見学するなどモチベーションをアップしながら、社員一丸となって始まった「ミライ人間洗濯機」。
開発費には約1億円を投じ、コックピットのようなカプセル型が考案されました。350リットルのお湯が一気に溜まるシステムが採用され、お湯が胸の位置くらいまで溜まるとマイクロバブルが発生するというのが基本的な機能です。
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そしてここからが「ミライ人間洗濯機」の真骨頂。
背中で心臓の波形をセンシングする機能がついているのです。これにより入浴者の心電・強度・自律神経を測定分析した映像が可視化されます。
さらに未来の人間洗濯機というだけあり、洗浄方法も超ハイテク。
センシング機能の計測からウルトラファインバブルを含む「ミラブル水流」が前方と上方から吐水され、顔と頭の洗浄が済むと入浴者の理想の水流の強さをAIが操作してくれるのです。
これだけでもかなりすごいのですが、終盤には心電波形に基づいて交感神経と副交感神経のスイッチングを行ってココロを安定させてくれる機能がついているほか、心電波形から体の情報を計測し、自動で排水と乾燥までやってくれるとのこと。これは確かに開発費に約1億円かかるのも頷ける素晴らしい機能が盛りだくさんです。
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もともとは大阪・関西万博での展示用にと1点もので制作されていた「ミライ人間洗濯機」ですが、想像を超える機能性は話題を呼び、開幕翌日にはアメリカから「購入したい」との声が上がったほか、販売価格や導入方法や体験希望に関する問い合わせが殺到。2025年10月10日には「万博終了後も全国で『ミライ人間洗濯機』が体験できるようにと販売が決定した」とのリリースが発表されました。
価格等は未発表ですが、「カラダもココロも自動で洗われる時代へ」というコンセプトで開発された商品ということもあり、まさにコンセプト通りの未来がやってきそうです。
青山さんは締めくくりに「ミライ人間洗濯機」の開発の大きなきっかけのひとつは、子どものころに何度も足を運んだ1970年の大阪万博だったと改めて振り返り、「吉村洋文知事による子ども達の招待施策は本当に素晴らしいと思います。子どもたちに、ぜひ万博を体験させてあげたい。未来の夢を、自分の目で見て、感じてほしいんです」と熱く語りました。
「今日万博にきた子の体験は20年後30年後のレガシーになると確信しています。だからこそ、今回の万博にどうしてもミライ人間洗濯機を出したかったし体験してほしかった。いろんな方の未来のために何かできたのなら本当にうれしいことです」
(Kikka)
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